作:杏
祭り当日。
会場のある駅は、ホームも構内も浴衣の女性が多く、そのためか人の流れもゆるやかだった。
「ここから遠いの? メイン広場」
三人並んで歩く未夢たち。前を歩く彷徨とみたらしさん姿のワンニャーを見失わないようにおぼつかない足を進める。
「んーいつもだと10分くらいの距離なんだけど…」
「こんなに人がいたら何分かかるかわかんないね〜」
「駅出たら、広場に向かってずっと出店が続いてるから、テキトーに見ながら進めばいいだろ?」
「うんうん! とりあえず腹ごしらえだよねー! たこ焼き、焼きそば、焼きとりに、かき氷! りんご飴とカステラも買わなくちゃ!」
振り返った彷徨の言葉に、ななみが食い付く。指折り数えるのは食べ物ばかり。すぐに両手の指が埋まってしまった。
「ななみちゃん、お昼ごはん食べてきたんだよね〜?」
「もちろん! 食べてこないとこの人混みには耐えられないよー。
あ、ほら、早速クレープはっけーん!」
「クレープならわたしも食べた〜い」
「私も! 行こ行こっ!」
一番に見つけたクレープの屋台に向かう三人。
「…ったく…」
「彷徨さん、くれーぷってなんですか?」
「おまえらも好きだと思うぞ?」
近付くと、周辺にはほのかに甘い匂いが漂っている。ワンニャーに肩車されていたルゥがいち早くその物体を見つけて、ワンニャーの頭上で暴れた。
「あーっ、あんにゃ! あーっ!」
「わかってます! 今行きますからぁ! イイコにしててくださいね〜ルゥちゃまぁ〜」
人の流れを横切ってようやく彷徨とワンニャーが辿り着くと、すでにクレープを手にした未夢たち。
薄い皮に包まれたたっぷりの生クリームと色とりどりのフルーツやチョコレート。
「うわぁ〜〜美味しそうですぅ〜」
「ルゥくん、はい、あーん!」
「あー…」
未夢が小さく割いたみかんをルゥの口に入れた。
「わたくしもくれーぷ買ってきます! ルゥちゃまお願いしますね、彷徨さん!」
「おいしいね〜、ルゥくん。 彷徨は?」
「いらね」
未夢からフルーツを貰ってゴキゲンなルゥ。彷徨がその頬についたクリームを指先で拭いとって、ペロッと舐める。
「あま…」
「お待たせしましたぁ! 次行きましょう、次!」
「あぁ! あんなところにみたらし堂の屋台がありますぅ〜〜〜」
「次はだんごか…」
食べ物がある度にななみが立ち止まり、広場まで優に1時間はかかった。
彷徨はもちろん、いつも付き合っている未夢も綾も疲れてきていたところに、今度はワンニャーがみたらしだんごを見つけてしまい。
「すみませ〜ん! みたらしだんご、50本ください!」
「50本!? ワン…みたらしさん、わたしたちもう食べられないよぉ〜」
「へ? 何をおっしゃってるんですか? これはわたくしの分ですぅ〜」
「ななみちゃんの上をいくね…」
「うん…負けたよ、みたらしさん…」
みたらしだんごだけの大食い勝負なら、ワンニャーの右に出るものはいないだろう。
「あぁ! ななみちゃん! 時間がない!」
「え? あぁ、忘れてた!」
全員でだんご待ちをしていた中で、綾が携帯の時計を見て立ち上がった。
彷徨が腕時計を見ると、時刻は16時半を少し過ぎたところ。
(そういえば、5時からなんかイベントあったっけ…)
「見に行くんなら先に行っていいぞ、俺らはしばらくここにいるから」
「何かあるの?」
「うん、イベント! 行こう未夢!」
「あ、うん。 じゃあ、ルゥくんのことよろしくね」
「あぁ」
「未夢ちゃん、早くぅ!」
―――5分後
「西遠寺くんっ!」
「よかったぁ、まだここにいてくれて…っ」
「あれ、ななみさん、綾さん」
「どうしたんだよ? 未夢は? はぐれたのか?」
やっと50本のみたらしだんごを受け取ったところに、戻ってきた綾とななみ。
彷徨はウトウトし始めていたルゥと隅の方で座っていた。
「さっきナンパされちゃってさ、その一人が未夢のこと気に入っちゃったみたいで…」
「イベントに出るって、未夢ちゃん連れて受付に行っちゃったの!」
息を切らして事情を話す二人に、彷徨が眉をひそめる。
(未夢が、ナンパ…で、イベント…?)
言ってることはわかるけど、事態が呑み込めない。
「はぁ…? で、イベントって何…」
「「ベストカップルコンテスト」」
「……は?」
また未夢に当てはまらない単語が出た。目を白黒させて二人を見上げる。
「だからぁ! 『織姫&彦星に続け! ベストカップルコンテスト』ってのを毎年やってるの!」
「へぇ…」
「へぇじゃないよぉ、西遠寺くん! 止めなきゃ! ナンパ男と出て勝てるようなものじゃないんだから、未夢ちゃん恥かいちゃうよぉ〜」
「何だか大変ほうへふねぇ…。 彷徨ふぁん、ルゥひゃまはわふぁくしが……ごっくん。 預かりますので、早く未夢さんを助けてあげてください〜」
最後の2本を頬張りながら、ワンニャーが口を挟んだ。食べ終えると眠ってしまったルゥを受け取る。
「ったく、面倒ばっかかけやがって…」
「みたらしさんも行こ!」
「えっ、わたくしもですかぁ〜〜?」
「そうそう、みんなで未夢を救出するの!」
ななみと綾が意味ありげにワンニャーにウィンクをして見せた。
「…だから、違うんです! きっと何かの手違いで…」
「未夢!」
「未夢さぁん!」
「ほら、ミユさんでしょ? 光月未夢さん。 間違いなくエントリーされてるよ! えっと…彼がお相手?」
受付係の腕章をつけた男性が、駆けつけた彷徨とルゥを抱いたみたらしさん姿のワンニャーを見比べて、彷徨に目を向ける。
「彷徨、…みたらしさん」
「キミが西遠寺彷徨くん?」
「え? あ、はい…」
「いいじゃない! 美男美女で、画になるし!」
男性が親指と人差し指をカメラのようにして片目で覗き込む。
(なんか、やな予感…)
こうやって巻き込まれるときは、ろくなことがない。早く立ち去るのが賢明だと、彷徨の直感が言っていた。
「い、いや、俺たちは…」
「優勝したら10万円分のお食事券!
副賞にみたらし堂のスペシャルみたらし100本チケットだよ!」
「みたらし堂のスペシャルみたらしですかぁ〜〜〜!!! 一日5本限定の幻のおだんごですよぉ!
彷徨さん、未夢さん! おふたりなら大丈夫! スペシャルみたらしは手に入れたも同然です! 頑張ってください!」
目をキラキラと輝かせて、ずずいっと未夢と彷徨に迫るワンニャー。
あまりの興奮に、みたらしさんの顔にはヒゲが生えている。
「「ワンニャー! ヒゲ!」」
出る出ないよりも、バレる方が大変。返事もせずに小声で指摘していると、二人は手を引かれた。
「今年はエントリー少なくて、今さら辞退なんて困るんだよ〜。 さぁ、時間ないから、急いで急いで!」
思わぬ応援に驚きながらも、男性は二人を連れてニコニコと控室に消えていく。
「頑張ってくださぁ〜い!」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ〜〜〜〜」
「みたらしさん、さっすがぁー!」
「みたさしさんがいなかったら、西遠寺くんに断られたかもね〜」
「わぁ! ななみさん、綾さん! もしやおふたりがエントリーされたんですか?」
彷徨と未夢が控室に消えたところで、ななみと綾がワンニャーの背後に寄る。
ななみの両手には、からあげとカステラ。
「ピンポーン! 西遠寺くんがイベント知らなくてよかったよー。 さ、あたしたちは客席で見守るとしますか!」
「そうですね、楽しみですぅ〜」
「あのふたりなら優勝間違いなしだよね〜」
第2話です。終われませんでしたね(^^;
次でラストに…辿りつけるかなぁ。。
さぁコンテストの始まりです!
二人に何をさせようか?ウキウキしております♪