指先が届くまで〜after the POOLSIDE〜

リクエストはお断り

作:

←(b) →(n)




「買い物当番、付き合ってもらえないかな?」
(かいもの…?)

今日は大して買う物はないはず。未夢ひとりでも、十分だと思う。
買い物に付き合うのが嫌なんてことは、あるはずがないけど、どうして未夢は付き合って欲しいなんて言い出したのか。
そんなことを考えながら、未夢から視線を外して帰り支度を進める。
カバンを閉じて、もう一度未夢を見上げたとき、その小さな肩の向こう側に見つけた武岡の視線。
「…いいけど」
今日は特に予定もないから、断る理由はないし。もし、これを断ったあと、独りになった未夢を武岡が呼びだしたら。
今だけ遮ったって、明日も明後日もある。自分のいない隙に、いや、もしかしたら、自分の目の前で未夢を誘うことだって有り得る。
瞬間、そんな考えが巡って、ついむっと顔をしかめて立ち上がった。


「なにやってんだよ、いくぞ!」
慌てて追いかけてきた未夢の表情が、どこかぎこちないことに今さらながら気付く。
(……あぁ、気にしてたのか)


内心では、きっとどう話しかけていいのか必死に探っているのだろう。
小突いた額をさすりながら見上げる目は、腫れモノにでも触れるように、いつもよりそっと自分を窺う。
(あんな勝負に負けただけで…)
それだけでこの表情。自分とのデートが賞品だと知ったら、それがたとえ不本意だったとしても、未夢は断らないだろう。
そしてきっと無防備な未夢とチャンスを待つ武岡の間に割り込み続けることも、敵わない。
呆れるほどのお人好しの隣で、いつもの三割増しのおしゃべりに相槌を打ちながら。
彷徨は心のうちで腕を組んで良案を捻り出していた。

(いっそのこと、その日はずっと尾けてまわろうか…?)



◇◇◇



「出来ましたよぉ〜サラダにコロッケ、グラタンにシチュー! もちろん、煮付けもありますよぉ〜」
テーブルにはワンニャー特製のかぼちゃ料理が所狭しと並ぶ。かぼちゃの入っていない皿はない。
品数も多く、豪勢な夕食は色鮮やか…とはほど遠く、まオレンジのかぼちゃ色だった。
「わぁ、さっすがワンニャー!」
それでも十分美味しそうなので、未夢は目を輝かせて食卓についた。隣では椅子に座る前からひょいっと彷徨がつまみ食い。
「うん、美味い。 これはもう、ワンニャーからの残念賞だよなー。 俺が自分で持って帰ってきたんだし」
「むぅっ。 まだ言っちゃいますかぁ、彷徨さんや。 だから持つって言ったのにぃ〜」
袋に詰めながら未夢は一応、自分が持つと言ってみたけども、持たせてもらえなかった。
それを棚に上げて、彷徨は“俺が”“自分で”を強調する。
「かぼちゃふたつも入った買い物袋をか?」
「う…っ」


“頑張ったで賞”が食べられる形に変わる前に受け取ったのは、気にかけてくれただけで十分嬉しかったから。
未夢に持たせたのでは時間がかかると、この炎天下じゃ傷みやすいものばかりがリストに並んでいたのをこれ幸いとかこつけて。

「まっ、いいでしょう、いいでしょう! じゃあこれはワンニャーからってことにして…、ねぇ、他に何かないの?」
「他に?」
「そう! わたしが言い出したのに、結局ワンニャーに取られちゃったらなんか納得できないもん!」
かぼちゃは諦めて、それでも何か。賞品を手にしそびれた彷徨に、何かしてあげたかった。

「わたくし、別に未夢さんからお渡しする賞を取ったつもりは…。
 一緒にお食事するんですから、未夢さんとわたくしからってことでいいじゃないですかぁ〜」
「あんにゃ! ぶぅ〜〜」
「そうですね! もちろんルゥちゃまも!
 三人からのお疲れさまかぼちゃディナーですよぉ!
 そ、それにしても、残念でしたねぇ〜。 一瞬どっちが勝ったかわからないくらいの僅差だったんでしょう?」

除けものにされたルゥがすかさず唇を尖らせる。ワンニャーが慌てて付け加えて、話題を逸らした。先程未夢から伝え聞いた結果を、眉を下げて繰り返す。
途端、茶碗を持ったままの未夢がことりと首を傾げた。

「…そうなの?」
「いや、そんな接戦ではなかったと思うけど…」
三太の一段と大きな声は水音に紛れながらも確かに聴こえた。それが決着の、彷徨にとっては敗北の合図だったのは、水面に顔を上げてから気がついたけど。
それから、彷徨が壁面に触れるまで。記憶と感覚でしかないけど、おそらく数秒はあった。

「見てたんだろ?」
「えっ…うん、そこだけ見逃しちゃったんだよね…」
僅差だとは聞いたから、ワンニャーにはそう伝えた。でも、それがどの程度だったのか、未夢も知らない。

(あのとき…三太くんが変なこと言うから…)

「何やってたんだよ? 一番注目すべきとこじゃないのか、フツーは」
「べ、別にっ! ちょっと他に気になることがあって目を離しただけよっ」
「……ふぅん」



(他って…それが未夢の……?)
口に出さないけど、それでも、未夢の“好きなヤツ”、と単語は継ぎたくなかった。
もしかして。
一番に思い当るのは、自分と武岡以外の、決勝に出た人間。

(光ヶ丘…はないとして。 第2レーンが美術部の北川先輩で…第4が3組の宮下。 で、第6が―――…)

彷徨の箸に捕まっていたかぼちゃの煮付けがポロリと、テーブルの上に落ちた。
「彷徨さん?」
「彷徨? どしたの?」



『若くてかっこいーから、結構人気あるんだよぉ?』

今朝の未夢の言葉が、岩本と挨拶を交わしたときの表情が、鮮明に蘇る。
あくまで客観的な言葉だったけど、それに同調する主観が隠れているのかもしれない。




「ねぇ、彷徨っ?」
「……」
「ねぇってば! かぁなた〜〜〜?」
呼び掛けても無反応な彷徨の肩を、未夢はそっとつつく。どこの世界に行っていたのか、ビクっと肩を跳ね上げた彷徨がようやく未夢の方を向いた。

「さすがに疲れてる? …落としたよ?」
「あ、ああ…」
未夢が指差した先に、転がったかぼちゃ。箸でつまんで口に放り込むと、そこにふきんを持ったワンニャーの手が伸びてきた。
「ね、何かないの? 代わりの頑張ったで賞!」
「そー言われても…特に欲しいものはないし、なぁ…」

(やっぱり…?)
彷徨がアレコレ欲しがる方じゃないのは未夢だって知っている。予想通りの返事に、肩を落として。
「……あれ? 欲しいもの、ないの?」
はたと気がついた。

「…? これと言って、特に……」
「アレは? 賞品! 欲しかったんじゃないの?」
賞品があるから、今回はあんな大仰な勝負になったはず。それがなければ、いつも通りに望の果たし状は行く先を無くしていたはずだ。

「賞品? あーあれは………」
もごもごと言い淀んで、彷徨はまた箸を止めた。茶碗の上に二本の橋を架けて、目線は宙を泳ぐ。

「てゆーか、結局賞品て何だったの?」
「わたくしも気になりますぅ〜。 もしかして、幻のみたらしだんごとかぁ〜」
「「ないないっ」」
「そ、そうですかぁ…」
お決まりの突っ込みに、未夢と彷徨の声が揃った。
ですよねぇ〜と頭を掻きながらも、心底残念そうなワンニャー。

「あれ、は………。 …俺は別に、賞品目当てじゃねーし。 しいてゆーなら、それを他のヤツに渡したくなかっただけで…」
「??? 意味わかんないんだけど…」

自分が欲しいんじゃなくて、他の人の手に渡ったら困るもの。
訳がわからずに未夢とワンニャーは鏡のようにハテナ顔を見合わせた。

「いーんだよ、おまえは知らなくて」



武岡がそれを行使して、賞品が何かが未夢にわかったとしても。
超がいくつもつくほど鈍感な未夢は、今の自分の言葉が意味するところは辿り着かないだろうと思う。
それは、彷徨にとって有り難いような、残念なような。

全く別の方向で未夢が誤解するのは、もう少し先。


「あ、モノじゃねーけど…」
「えっ、うん! なになにっ?」
「せめて焦げてないかぼちゃの煮つけを作れるようになるとか、プリン食ったくらいで怒らないとか、毎日寝坊しないで…」
「もっ、もーいいっ! わたしが決めるっ!!」

(デートに誘われても行かない、………とか?)
いつものからかいにぷいっと顔を背けた未夢の、ほんのちょっと赤らんだ頬のラインを目に映しながら。
口元で笑いながら内心では盛大なため息をついた彷徨は、ひっそりと願っていた。





こんばんは、杏です。
だいぶ寒くなってきました。みなしゃん、体調は大丈夫ですかぁ〜?(^^;
ちゃっちゃとこの真夏なお話を完結させましょう!
まだ2話だけど…。。。

タイトル先行な2話です。
デートを断って欲しい彷徨くん、訊いてみたけどやっぱり自分で考える、リクエスト訊くのやーめた!な未夢ちゃん。
って感じ。無理やりかしらw

一話ずつ書いて上げて、をやってるんですが、このやり方はやっぱりよくないですね…。
まとめて書きたい。時間が取れない。
うわぁ、ストレスたまるぅ〜。
ラブラブ書きたい!もう、Rでもいい!いやん、だぁ!じゃなくなる…。
あぁ!語りたい!だぁを!二次小説を!この苦悩を!どなたかお相手してください(笑)
掲示板で賑やかにやれればなぁ…今さら難しいかなぁ…(;_;)
もはや、あとがきでもない。。いかんいかん…グダグダですみません(><)

とりあえず、次回をお楽しみに!
感想ください!待ってます!

←(b) →(n)


[戻る(r)]