残暑見舞いに西遠寺

第七話

作:

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「あっ、こちらにいらしたんですかぁ〜」
ワンニャーの声が本堂の高い天井に響いた。
「あんにゃ!」
「…ワンニャー? どうしたの?」
本堂の中央に佇んでいた未夢の肩からルゥが顔を出す。遅れて、顔まで片手を上げる仕草をした未夢が振り返った。
戸口から射す逆光でワンニャーの姿は真っ黒にしか見えないけど、その輪郭から、いつもの奥さんだとわかる。
「未夢さん…」
「? なぁに?」
「え、あっ、いえ! お買い物に付き合っていただけないかと思いまして…」

彷徨から、先程の出来事を訊いたワンニャーは、未夢の笑顔に戸惑った。
今の今まで泣いていたのだろうと推測される、僅かに赤い目元。何も知らなければ、それを見逃してしまいそうな、いつも通りの笑顔だった。

「うん、いいよ〜。 あっ、サンダル、履き替えてくるね! ちょっと待ってて〜」
その表情を保つことはやはり辛いのか、早口でそう言った未夢は俯きがちにワンニャーの横を過ぎた。


「ルゥちゃま…未夢さん、泣いてらしたんですか?」
「う?」
母屋の玄関に向かう未夢の背を目に映しながら、去り際に預けられたルゥに訊ねてみたけれど。腕の中の幼子はただ首を傾げるばかり。




◇◇◇


彷徨は本堂の裏手にある墓所をまわっていた。
もうお盆も終わる。墓参りのピークは越えているが、まだまばらに家族連れが花を抱えていた。
(どこだ…?)
決して広い墓所ではないが、時期が時期だけに、ここにかえっている者も多く、その中から小柄な二人を見つけるのは大変なことだった。



チリン。
鈴の音に振り返ると、一番端の墓石の隅にタマが行儀よく座っていた。
「な―――ご…」
タマは彷徨を確かめるように一度目を合わせ、尻尾を揺らして跳ねるように歩き出す。そのあとを追うと、佐和子がいた。
「……佐和子」
周囲を確かめてから、小声でその名を呟く。

「おばあさまはご自宅へ行かれましたわ。 もうすぐ戻られると思うけど…。 ねぇ彷徨、あなた、弱くなったんじゃない?」
「…今じゃなきゃ、佐和子くらいもっと簡単に見つけられたさ。 今は人数が多すぎるんだよ」
「まぁ…。 小さい頃は可愛かったのに…しばらく見ない間に随分と可愛げがなくなったのね?」
小さく肩を揺らす佐和子は振り返ることなく奥へと進む。街が見晴らせる場所まで来て、すいっと空へ上がった。
タマも倣うように宙を駆け上がり、そばの一番高い木にごろんと身を委ねた。己の席を決めたらしい。


「…で? ホントに、何しに来たんだよ」
「お邪魔かしら?」
「…そーゆーワケじゃないけど」
「じゃあ、いいじゃない。 帰ってきただけよ」
眉に添うように両手を当てて、佐和子は街を見下ろしている。

「居るのはいーけど……あいつにちょっかい出すのやめろよ」
「あいつって、あのお嬢さん?」
ようやく、佐和子が振り返って彷徨を見下ろした。
「…………」
「彷徨も言ってたじゃない、見えない体質みたいだって。 あの子は本当にそうよ?」
「………」

それも、あのときのこと。いつから居たんだ、と怪訝な目に映された佐和子は、臆することなくニコリと微笑む。
「あなたに怒られたのは初めてだわ…よほど大切なのね、あの子のこと。
 確かに、ちょっと悪戯がすぎちゃったけど、あの子もあんなに怖がることないのに」
「だからやめろって…」
「やめろとは言われてないもの。 怖がらせたくないのね、あの子を」
クスクスと息を漏らす佐和子に、彷徨は言葉を継がなかった。口元を曲げて、ふいっと視線を逸らす。

そのとき。


退屈そうに寝そべっていたタマが、ピンと耳を立てて目を開いた。彷徨と佐和子が眼下に広がる街並みへ目を向ける。
「おかえりなさい、おばあさま」
街から吹き上げた熱風とともに、千代が姿を見せた。




こんばんは、杏です。
テンションがいい感じなので、連投です!
もう集中力切れましたけどw

ようやく文章が降りてきました(笑)
書けないときって書けないんですよぅ…。時間的な都合とそのタイミングが合わなかったりとか…。
なかなか上手く廻りませんネ。。
佐和子ちゃんの口調がイマイチ掴めないです(><)
イイトコのお嬢様っぽい口調で、落ち着いた雰囲気の、ちょっと大人びた感じ。…を文字にしたら、ただ偉そうな感じになってしまったり。悩みます。
セリフが上手くいかないが為に、前後の文章ぜーんぶ変えてみたり。仕草でカバーしてみたり。
うーん、、文章を書くって難しい!

とゆー訳で、そろそろ佳境です。頑張ります。
次回もよろしくお願いします。



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