作:杏
(なんなんでしょう、この空気は………)
どんよりとした食卓。
先に戻ってきた未夢も、焦ったような足音で彼女を追いかけてきた彷徨も、“いただきます”以降の言葉を発しない。
「…なぁ未夢。 さっきの…」
「―――ごちそうさま…」
逃げるように自分の食器を持って席を立つ、その背中が。今は話しかけないで、と言っていた。
(……傷つけた、か…)
怒りに力の入った後ろ姿ではない。力なく落とされた肩は哀しそうにしか見えなかった。
流しに食器を置き、身を返してもこちらには目を向けない。俯いたまま、飛びこんできたルゥを抱いて台所を去る未夢を、ただ目で追いかけて見送った。
戸が閉められたのとほぼ同時に、ため息を漏らす。
「……彷徨さん、伺ってもよろしいですか?」
「――――何から話そーか…」
◇◇◇
「まんまっ?」
自室に戻ることを避けた未夢は、玄関でサンダルをひっかけて外へ出た。本堂へでも行こうと思ったのだけど、母屋から通じる廊下には行きたくない。
「…………」
「まーんま、まんまぁっ!」
「…うん、ごめんね、ルゥくん……」
きょとんと未夢を見上げるルゥが、小さな手を伸ばす。柔らかい手のひらが、異常に頬にはりつくのを感じた。
水分量の多いルゥの肌は、確かに吸い付くように滑らかだけど。
「あれ…?」
足を止めた、境内の真ん中。
音もなく流れる涙に気付く。
「――――…っ、ルゥ、くん……っ」
二人を包む風は、朝から熱い。
静かな西遠寺でそれはただ、木々を鳴らしていた。
こんにちは。杏です。
月内完成は果たせませんでした(泣)
もう秋ですね。二学期ですね。
……早く完結させましょう、はい。
繋がりがイマイチで、六話は短くなってしまいました。
次は長いかもしれません(^^;
次回もお楽しみに!…して戴けると嬉しいです。。