作:杏
宝晶とも、今の家族たちとも異質ではあるが、彼女らもまた、彷徨にとって家族であった。
千代は彷徨が生まれる前からここに居る。幼いころは頻繁に姿を見せてくれ、彷徨もそれが当たり前だと思って過ごしてきた。
そこに佐和子がふらりとやってきたのは、彷徨が3つのとき。
始めはあまり会ってはくれなかったし、ずっとここに居る訳でもないようだったのが、いつの間にか西遠寺に居着くようになり、彷徨を弟のように可愛がっていた。
「何のために…」
ワンニャーには、折を見て話そうと考えていた。あれはその場凌ぎにしかならず、誤魔化し切れていない。
問題は、もう一人の方。
「なぁに―――?」
「別にー」
縁側に座り込んだ彷徨の独り言に、襖の向こうから返事がきた。
もしシルエットが写っていたら、そう思うと振り返れない。暑くなりそうな空に向かって、さらに返した。
「おまたせっ」
「……腹減った」
「うん、早く行こっ!」
開いた襖から、未夢。
ノースリーブのシャツに、ふんわり広がる花柄のミニスカート。開いた襟元から覗くピンクのキャミソールは、白いシャツに淡く映る。
いつもはおろしたままの髪を左右に分けて結っているのは、暑さのせいだろうか。
歩み出た縁側、彷徨の先を進む。
「朝ごはん何かなぁ? …ね? 彷徨っ?」
細い肩や絞られた腰、彷徨を振り仰ぐ未夢に合わせて翻った、短いスカートの裾。
その姿に目線の行きつく場所がなくて、彷徨は未夢の向こう側を見やった。
「…ったく、なんでおまえの着替えに付き合わなきゃなんねーんだよ」
「俺に任せろーって言ったの彷徨じゃないっ! ひとりで来て、…な、何かいたらどーするのよっ」
「明るいうちは猫の目も光んねーよ」
こちらが目を逸らしても、未夢の瞳にはなお、自分がいた。慌てる自分がひどく滑稽で、つい憎まれ口。
―――チリン…
「ひゃ…っ!」
ゴンっと、鈍い音がした。未夢が思わず抱きついたはずの彷徨が、目の前にいない。
「ご、ごめん、大丈夫…?」
「―――ッてェ…」
未夢の眼前は柱で、足元にはそれに頭をぶつけた彷徨が後頭部を抱えてうずくまっていた。
「……おまえ…いつか俺を殺す気か…」
「――だって…! 聞こえたでしょ! 音がしたの!」
「居間の風鈴だろ?」
「違う! 風鈴じゃなくて…」
指差した、本堂へ続く廊下。片方の手は彷徨のTシャツの裾を掴んでいる。
チリン……チリリ――ン…
「…ほらぁっ!」
眉頭に力を入れて、ぎゅっと目を閉じた未夢は、両耳を塞いだ。目尻には涙。
「―――いい加減にしろよ」
ため息交じりの言葉に、ビクリと未夢の肩が緊張を見せる。身を強張らせたまま、そっと目を開けると。
「彷徨……?」
溜まっていた滴が片方だけ、流れた。
こんばんは、杏です。
今年の企画を特に思い付かないままです。まぁいいか。
ただ私が歳をとるってだけの話ですから(笑)
千代ばぁも佐和子ちゃんも出てきませんでしたね。。タマが出てるような出てないような…。
行き先がまだ定まってないもので、思うままに突き進んでおります(^^;
今月中には仕上げたいなぁ〜…。
ご意見ご感想、お待ちしております。ご覧戴きありがとうございました!