残暑見舞いに西遠寺

第三話

作:

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「…ん……朝…? あれ…?」
寝ぼけ眼に映るのは自分の部屋ではない景色。
隣の小さな布団は空っぽ。焦点を近くすると、未夢に抱き付くようにルゥが布団に入り込んで眠っていた。
(あれ…ルゥくん…?)



その頃。
台所ではワンニャーが悩んでいた。

今日の朝食当番は彷徨で。だから早くに起きてきたのだろうけど、彼はただ、食卓の自分の定位置で、コーヒーを飲んでいた。
未夢のいない間に昨夜のことを訊こうと意気込んでいたワンニャーは、しばらくその様子を眺めながら、訊いても良いものか思案していた。



(わたし、どーしてここで寝てたんだろ…?)
未夢はルゥの髪を撫でながらぼんやりと考えていた。昨夜は確かに、風呂上がりにルゥを寝かしつけにこの部屋には来た。
でも、その後の記憶は、ちゃんとこの部屋を出て、居間で彷徨としばらくの時間を過ごしたあと、自分の部屋に布団を敷いた、となっている。
ルゥを寝かすことはたまにしかないけれど、その他は毎日のこと。昨日も何ら変わらない夜を終えたはずだった。

(そうよ、ちゃんと自分の部屋で寝て…)
規則的で小さなルゥの寝息が、未夢の意識をも夢の世界に引き戻そうとする。うとうとと閉じようとするまぶたに抵抗しながら、未夢は記憶を巡らせた。





ワンニャーが来てから、すでに3杯目がなくなろうとしていた。
そばでワンニャーがお茶を淹れ、「あちちっ」と火傷をしかけた舌を出し、飲み終えた湯呑を流しに入れ、彷徨の代わりに朝食でも作ろうかと冷蔵庫を開ける。
(今日はトーストにハムエッグでも乗せましょうか〜)
メニューを決めたワンニャーが短い指の間に器用に生卵を挟んで、おしりで扉を閉めたとき。
「…なぁ、ワンニャー」
突然に声をかけられ、ビクリと全身の毛が立ち上がった。
気付いていないものだと思っていたが、彷徨はちゃんと自分が居ることを知っていたらしい。
「あっ…はわわわわっっ」
手中から卵が跳ね、ジャグリングする格好になってしまった。

「ワンニャーは、…ルゥも、…その、なんつーか…死んだ人間が見えたりとかってしないのか?」
不安定に宙を踊る生卵に驚くこともなく、彷徨はワンニャーに遠慮がちに問う。
「? ユーレイってことでしょうか」
「――――……」
なんとか捕まえたワンニャーは両手いっぱいのそれをひとつずつ並べながら、彷徨を振り返った。
もう空であろうコーヒーカップに視線を戻した彷徨から返事はなかったが、肯定と捉えたワンニャーは少し首を傾げて考える仕草。
卵の静止を確かめて、数歩、歩み寄った。

「ええと…、地球人に似たルゥちゃまのような人間タイプ、わたくしのような非人間タイプ、それからオット星の科学によって生まれたアンドロイド…。
 特有の亜種もいろいろありますが、その種の特徴として霊が見えるタイプがいる、というのはありません。 ……霊に関しての研究は、オット星ではタブーとされています」
少なくとも、ワンニャーには千代たちは見えていなかった。それがわかってほっとしたような。
でも、これから避けられないであろう質問責めを想像すると、彷徨の眉間にはきつくしわが寄せられた。
「ただ…個々人の体質でしょうか…種に関わらず、見えやすい方というのはごく稀にいらっしゃいます」
「…へぇ……」
「……彷徨さん。 昨夜は何が…未夢さんはどなたかを見られたんですか? その方は彷徨さんにも―――…」

この唐突な質問が昨夜の出来事に関係しているのは明らか。
チャンスとばかりにぐっと拳を握ったワンニャーは、さらに彷徨ににじり寄った。

「…わたしも、聞きたい」
「ぱんぱ、わぁ〜にゃっ!」

「未夢……」



こんばんは、杏です。
騙し騙しもそろそろ限界か…また最近パソさんの調子が微妙です(;x;)
暑いからしょーがない!(笑)
とゆーわけで、やっと第三話。下書きがいくつか存在する回ですw
どーにも上手くいかなかったんで(^^;
さぁ、未夢ちゃんは何を思い出したのか!?
アニメベースなんで、それっぽく終われたらいいなと思います。
次回もよろしくお願いします。

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