作:杏
「久しぶりね、彷徨…」
未夢をワンニャーに任せて、彷徨は未夢の部屋に戻った。
中央に敷かれた布団の上にぼうっと浮かび上がった少女が、ニコリと微笑む。
「イタズラふっかけて、それを消去するってのは新しい遊びか? 千代ばぁ」
「ほっほっ…そうしろと言ったのはおまえさんじゃろ?」
少女ではなく、背にした戸口の気配に、静かに話しかける。寸分も身を揺らすことなく、彷徨に近付いた小柄な老婆。
何も言ってないだろ、と言いたげに口元を歪めた彼の目線の高さまで身を浮かせた。
「この部屋は夜な夜な幽霊が通るらしいでな、その通りにあの娘っこの布団の上を通っておっただけじゃ? のう、佐和子」
「ええ、あの子にそう言ったのは彷徨自身ですわ」
先刻から彷徨の足下に纏わりついていた鈴の音が、佐和子と呼ばれた少女の傍らにすり寄っていった。
「な―――――ご…」
すらりとした黒い毛色の成猫。老婆らと同じように背景と重なってはいるが、鈴の音が妙にリアルに聞こえるのは昔と変わらない。そして猫らしく、その瞳はちゃんと闇に明るい。
「佐和子もタマも変わんねーな」
「この前会ったときはまだわたしを見上げていたのに」
拗ねたように肩をすくめて彷徨を見上げた佐和子の外見は10歳くらいだろうか。ちゃんと足をついて並べば、背丈は彷徨の胸ほどしかない。千代も同じくらいだ。
「可愛らしいお嬢さんね」
「大層気に入っとるようじゃのう?」
「…別に、そんなことねーよ」
目を逸らしたら、その視線の方に千代がついてきた。
嘘をつくなと言わんばかりのにやけた表情。本人には隠し通せていても、どこかであからさまな好意を見られていたのかもしれない。
自分の前に姿を見せたのは8年ぶりだけど、彼女らがいつ、どこで何を見ていたかはわからない。
現に、この部屋に幽霊が、などと言った己の悪ふざけ。それを見ていたらしい言い様だった。
「…で、何しに出てきたんだよ? あいつの前に」
露見してしまったなら、話は早い。未夢を守る意を視線に乗せる。
「姿は見ておらんはずじゃよ。 娘っこに聞いてみい」
「聞いて…って、消去したんじゃ…」
「いいえ、今回はただ眠ってもらっただけよ」
未夢の目元を覆った彷徨の合図に合わせて、彼女を眠らせたのは佐和子だった。愛らしい笑顔が逆に気にかかる。
「―――何のために?」
「そりゃ、おまえさんが暗にわしらに告げたから…」
「違う。 何のために千代ばぁたちの記憶を残したんだよ?」
人一倍怖がりの未夢。目を覚ましたら、何を思うのか。
淡々とした口調とは裏腹に、怒っているかのような瞳。そんな彷徨に佐和子はまた、笑った。
「それは…まだナイショ、ですわ。 ねぇ、おばあさま」
「そーゆーことじゃ。 しばらくはここにお邪魔するでの、勘のいいおまえさんなら、そのうちにわかるかもしれんのぉ…」
チリン、と。一度だけタマが鈴を鳴らして、佐和子の肩に飛び乗る。
廊下では、3時を告げる柱時計。
「な―――ご…」
この部屋に、彷徨ひとりが残された。
こんにちは。
みなしゃんはいつからお盆休みでしょうか(^-^*
休みの方がかえって疲れる!…なんてときもありますよね(苦笑)
今年は長いお休みをいただいてるので、毎日お休みな私ですが、例年、私は仕事してたい派ですw
お仕事的には忙しくて大変ですが、帰省を考えると頭痛くなります…なんて、口が裂けても言えませんが(^^;;
さて、第二話です。
千代ばぁは、宝晶さんが言ってた、あの千代ばぁさんです。
こっちの話が先で、先日の短編はいわばスピンオフのようなものです。
関係あるけど、ありません(^。^ゞ
最初は、檀家さんで、お盆にお墓にかえってきた設定だったのですが、なんだか基本西遠寺に居ついていそうな千代ばぁ&佐和子ちゃん(とタマ)です。
アニメのコイシ岩の回ありきのお話ですが、佐和子ちゃんのモデルはあの女の子です。
未夢ちゃんを眠らせたのが佐和子。この感じだと、“消去”するのも彼女かな?
何者なんでしょうね(^^;
さぁ、彼女らは一体何をしでかすのか!?
3話じゃ終われそうにありません(><;
もうしばらくお付き合いくださいm(_ _)m