作:杏
「休憩ナシの彷徨といわもっちゃんは、やっぱ不利か!? 最初に折り返したのは武岡だぁ〜〜〜っ!」
ターン直前、最後の息継ぎ。
キラキラと光る水しぶきが上がる中で、武岡と目が合った気がして、未夢は何故だかドキリとした。
ゴーグル越し、しかも向こうは真剣勝負の真っ最中。
(…なワケないよねっ)
自分に突っ込むように、片手をパタパタと動かしてみる。
(あれ…そーいえば、なんであんなこと訊かれたんだろ?)
「続いて、光ヶ丘もタ―――……」
二番手で壁面に触れたのは望。
「おぅえっ!? ちょっ…光ヶ丘、何やってんだぁ!?」
生徒たちが一気にざわついた。誰もが望に注目する。
望が蹴ったのは目の前ではなく隣の壁で、ターンはまさかの90度。
一番遠いレーンから、今までにない速さでプールを横切った。他の選手たちの隙間をするりと抜けて。
「…の、のぞむくんっ?」
呆気にとられた一同が覗きこんだプールの角。端まで辿り着いた望は水面からすっと右手だけを出して、パチンと鳴らした。
どこからか見守っていた彼のパートナーが空へ出現。くちばしには、いつもの三倍ほどのバラを咥えている。
「呼んだかい? 未夢っち」
「……………はい?」
未夢は望の奇行にきょとんとしながら、目の前に差し出されたバラを反射的に受け取った。
いつの間にやら水から上がって、熱いコンクリートに跪いた望はニコリと微笑んで、髪の滴を指先で美しく流す。
「あぁ、未夢っち! ボクとのデートが待ちきれないんだね! そっと手招きでボクを呼ぶなんて、なんてキミはいじらしいんだ!
それはまるで、キミとボクだけの暗号の…」
「光ヶ丘ぁ〜〜〜…」
手のひらを未夢に掲げて、もう一方はバラ柄水着を纏った自分の胸に当てる。いつものポーズを披露した望と未夢の間に、彷徨がするように三太が割って入った。
「……なんだい、黒須くん。 ボクはむさくるしい男子に用はないんだ」
目を細くして邪魔だと言わんばかりの望。三太は負けじと半目でマイクを構える。
「光ヶ丘! しっか―――――くっ!」
「はっ! し、しまった! 未夢っちに呼ばれてつい…! あぁ、なんて悲しいんだ! これが美しい男の…ボクの性だね…!
悔しいが、今回はここで負けを……」
「さぁ、残る五人はどーなった!? おっ、いつの間にかこっち向きに! 相変わらずトップは武岡! ペースを落とすことなく泳ぎ続けている!
残る四人は横並び! 僅かに彷徨がリードか!? 隣にずっと並んでいたいわもっちゃんを少しずつ離す!
ここはオレたちを代表して若さを見せてほしい気もする! 同じ条件でも彷徨が勝ぁ――つ! 現役中学生の体力ナメんなよぉ、いわもっちゃん!」
「「「おぉ〜〜〜〜っ!」」」
いまだ自分ペースで悩ましくポーズを決める望は置いといて。三太の声を合図に、全員がプールに目を戻した。
「こんなんだから西遠寺くんだってマトモに勝負してくれないだよね〜」
「…ま、みんなこの展開は分かりきってたでしょ。 ねぇ未夢ー?」
「うん……そーだね…」
「…ありゃ、うわのそら」
「西遠寺くん、勝てるのかなぁ? さすがに武岡くん相手は厳しいよねぇ〜」
彷徨が負けられないのは、ななみと綾もわかっていた。
絶対に勝って、これを期に“動いて”欲しい。
「誰に…、なんて……」
自分の耳にだけかろうじて届く音量で、未夢はポツリと漏らした。
誰に勝って欲しいのか。
何でもない勝負なら、そんなのは決まっている。
「彷徨が武岡に迫る!! あと15メートル! 間に合うか!?」
三太の実況にも熱が帯びてくる。心なしか親友びいきのそれになっているのは、誰も気付いていないだろう。
冷たい水が跳ねるプールサイドが、白熱する戦いを固唾を呑んで見守る。
(…でも、今回は………)
俯いて、肩に力を入れた。
賞品さえなければ、彷徨に勝って欲しいに決まっている。考える余地なんてこれっぽっちもない。
そう、賞品さえなければ。
「………誰よぉ…」
「並ぶか!? 武岡の腰あたりまで来た! ラストスパート!
『未夢は俺のだ! 誰にも渡さねー!』…と親友のオレにはそんな心の叫びが聞こえます!」
「…えっ? ちょ、ちょっとぉ、三太くん! 何言って―――…!」
「フィニ―――――ッシュ!」
わぁっと周囲が沸いた。拍手が鳴り響く。
決着の瞬間、未夢の目にはマイクを握り締めた三太が映っていた。
「……かなた…っ!」
歓声と拍手に。
プールの縁まで詰め寄る生徒たちに。
埋もれてしまった。
こんばんは、杏です。
ご覧戴けて嬉しいです。ありがとうございます。
彷徨くんが出産…もとい、彷徨くん役の三瓶由布子さんがご出産されたそうですね♪
おめでとうございます(^O^)/
さてさて、お約束のカタチをとりました。可哀想な望くん…(TxT)
直角ターンは危険です!真似しちゃいけませんw
勝利を目指す、彷徨くんと武岡くん。
彷徨くんに勝って欲しい、ななみちゃんと綾ちゃん。
公平な実況から、だんだんと本音が出てきちゃった三太くん。
わからない賞品のために、揺らぐ未夢ちゃん。
いわもっちゃんは……まぁいいや(笑)
そんなみんなの希望を詰め込みました。
次がラストです。(たぶん)
長くなりそうなので、その後は分けます。
(タイトル未定)〜after the POOLSIDE〜…って感じになります。
さぁ、勝ったのだ〜れだっ?
あ、あと、今回は川柳っぽいのないですが、見つけてくださった方、ありがとうございます!当たりです!
6話にもそれらしきものがあったらしいです(気付かなかった…w)
読みやすさ(語呂、音や文のつなぎ、切れの良さなどなど)を大事にしながら書いているつもりなので、そんな発見をして戴けたのはなんだか嬉しかったです♪
ありがとうございます!
コメント戴けるだけでうはうはなのに…狂喜しましたとも(笑)
これからも精進しながら頑張ります。
また次回、よろしくお願いします。