プールサイド

act7 決勝進出

作:

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この場外乱闘は、やはり想定内と言うべきか。

「いわもっちゃんがリード! しかーし! 彷徨が追い上げる! 先にその手をつくのは! 顔を上げるのはどっちだぁ―――!?」
テントの上に避難した三太が、実況を続ける。判定役の水泳部員もその場にとどまる。
「あと少し! 彷徨が追い越したか!? …お? おわぁぁぁぁっ!」
慌てて三太が白い布にしがみつく。なだらかな傾斜だったはずのテントの屋根がどんどん傾いて、その上を三太が流されていく。



「クっっクリスちゃん! ほらほら、彷徨見て!」
「そうそう〜! あんな真剣に泳ぐ西遠寺くんなんて、滅多に拝めないよぉ〜?」
「えーいっ! 目の前で応援してらっしゃーいっ!」
未夢と綾が口々にクリスを宥め、とんっとななみが背中を押し出す。拍子に、一本の脚だけを抱えて頭上に掲げていたテントが三太とともに空中をクルクルと回転し、定位置に舞い戻った。

ピィ―――ッ!

「いっててててて…。 …き、決まったぁ!? 勝者は!?
 え〜〜〜1位、かな…っと、西遠寺! 2位はいわもっちゃん!」
逃げ惑っていたギャラリーがわっと歓声を上げた。誰もが見られなかった際どい接戦に、とりあえずの拍手が起こる。

その原因。
当のクリスは、プールから上がる彷徨をただ見つめていた。逆立っていた髪はいつの間にか綺麗に整えられている。
「…花小町?」
濡れた前髪を掻き上げるその仕草に目を奪われたのは、クリスだけではない。
水も滴る…という言葉を、比喩ではなくまんま表すことの出来る男子中学生は彼以外にないだろう。
「かかか彷徨くんっ! おっ、おおおおめでとうございますっ!」
「あぁ…サンキュ」
未夢に押しつけられた彷徨のタオルを両手で差し出したクリス。
周りを見れば、おおよそ何が起こったのかはわかる。彷徨はなんとか笑顔をつくってそれを受け取った。

「かかっかかかっ彷徨くんの…みっみみみみ水着姿…はわわわわわわわわわわわ……ぷしゅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜…」
日差しより、クリスを溶かすその笑顔。それがプールで水着、手渡しタオル、なんて滅多にないオプション付き。
彼女じゃなくとも、大半の女子は沸騰してとろけてしまうだろう。
「はいっ、黒須くん続けてー?」
「お騒がせしましたぁ〜」
ほんっと、罪なオトコだよねぇ〜、とからかい半分、同情半分。
ななみと一緒にクリスの両脇を抱えた綾は、自分も、とあとに続こうとした未夢をやんわりと制して、撤収。
口を開けたまま一連の騒動に呆然としていたのは、他のクラスや学年の生徒たち。
慣れきっている2−1のクラスメイトは、改めて勝者の予想に沸いていた。三太も気に留めることなく、決勝への段取りを進めている。



残された未夢が、なんて声をかけようか、頭の中に言葉を並べて悩んでいたところ。

「いわもっちゃ〜ん、彷徨ぁ! 休憩いるかぁ――?」
三太の声に、テントに戻っていた岩本は彷徨を見た。彷徨は黙って首を振る。確認した三太が、出場者に集合をかけた。
「んじゃ、これより待ちに待った決勝! 強豪揃いの予選を突破し、賞品に一歩近付いた六人を順にご紹介しまぁ〜す! 第1レーン…」


決勝、賞品、の言葉に。瞳の色が鋭く変わった。

(彷徨……)
その目に映るのは、彷徨が見ているのは一体誰なのだろう。
未夢にはどうしても、この勝負が解せない。今まで望の誘いに乗ったことはなかったのだから。

例えば。
その誰かが見に来ているから、イイトコ見せたい、とか。
さっきクリスに向けられた笑顔だって。そうする必要性は十二分にわかっているけれど、もしかしたらそれ以外の気持ちがあるのかもしれないし。
仕方なく、だと思うようにしていたけど、やっぱり賞品を狙っているようにしか思えなくなってしまって。
(…誰のためにそんなに頑張ってるのよっ)


「…せいぜい頑張って、可愛いあの子とのデート楽しんできたらっ!」
胸のうちがむかむかする。周りの子みたいに、素直に可愛らしく、“頑張ってね!”なんて言えなかった。
タオルを差し出す彷徨が、むっとしたのは空気でわかる。
しまった、とは思ったけれど、吐いた言葉は戻ってきてはくれない。

「じゃーそーするさ! おまえみたいに可愛くないやつから一日解放されるだけでもせいせいするよ!」
手を出していた未夢にタオルを預けた。それだけなのに、ケンカごし。
「な…っ、なぁんですってぇ! それはこっちのセリフよっ!」
「…ったく、他のヤツみたいに素直に頑張ってーくらい言えねーのかよ」
「悪かったわねぇ! 可愛くなくてっ! どーせ彷徨なんて、武岡くんに勝てないから! 負けちゃえばいーのよっ!」

「………っ、なら教室戻ってろよ! 邪魔だ!」
発狂しそうな未夢を残して、彷徨はまた水の中に戻った。


(………むっっかつくぅ〜〜〜っ!)





こんばんは。ご覧戴きありがとうございます。
そろそろ毛布を出そうか悩んでいる杏です。
朝晩が寒くなりました。みなしゃん、体調を崩したりしないように気をつけてくださいね(^^)

さて。
ふたりの絡みが少なかったので、ケンカさせちゃったッ☆
水泳キャップは、彷徨くんも望くんも似合いそうにないのでやめましたw
水も滴る…のくだりを入れたかっただけかも?(笑)
いい感じにふたりの思考がすれ違ってくれればいいのですが♪

決勝、長そうですね(^^;
書きたいことがありすぎて…全部書いて、入れ替え、削り…ふたりはどこへ向かうのか!?
勝負の行方は!?(ちゃんと決めました!)
脳内の結末にちゃんと辿りつけますように!

次回もよろしくお願いしま〜す♪

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