プールサイド

act5 水際立つ

作:

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「さぁ! これより、第一回! 四中水泳選手権を始めまーす!
 企画に準備、進行、その他雑務はこのオレ! 黒須三太がやりまーす! んでもって審判は、水泳部の部員さんにお手伝いいただきます!
 予選の上位ふたりが決勝に進出! 十七人の頂点に立つのは誰か!! ただひとつのツキを掴むため、男たちの熱い戦いが今、始まります!」



「ななみちゃ〜ん! 早く早く!」
「始まっちゃうよぉ〜!」
「ふん、ふぁふぁっへふー」
悠長に食後のメロンパンを頬張るななみの両手を引いて、綾と未夢はプールへと急ぐ。拡声器の三太の声は学校中に響いていて、窓から顔を出す生徒も多数。
プールサイドにも大勢のギャラリーが詰めかけていた。


「あっつぅーい! フルーツミックスやめてお茶にすればよかったぁー」
「いっぱいだね〜テント…」
飲みほした紙パックに刺したままのストローをくわえて、ポコポコと呼吸させるななみは、ひなたに出るなり、二人を追い越して三太のいるプールサイドのテントに一直線。
しかし、誰もが求めたここ唯一の日陰はやはり、早い者勝ち。三太の開会宣言が始まってからやってきた未夢たちに居場所はなかった。


「ま、間に合いましたわぁ〜!」
「クリスちゃん!」
最後の観客だと思っていた自分たちの後ろから、まさかの人物の登場。先程の出来事もあって、未夢は無意識にクリスと距離をとる。
「遅かったんだね〜」
「お弁当、3秒で食べて教室出てったのに…」
猛ダッシュで教室をあとにする姿を、綾もななみも目撃していた。一番いい観覧席を陣とっていても、おかしくないはずなのに。
「ええ…こんな日に限って水野先生に雑用を頼まれてしまって…。 なーんてついていない、わたくし…危うく彷徨くんの勇姿を見逃すところでしたわっ。
 さ、彷徨くんはどちらに…?」
未夢たちが指差した控えている選手たちの中から、クリスが瞬時に彷徨を見つけ出して熱烈なハートを飛ばす。

「やぁ! 未夢っち! そして美しいレィディたち! ボクの勇姿を見に来てくれたんだね! キミたちの熱い視線を感じてやってきたよ!」
「「送ってない、送ってない〜」」
悪寒を感じたらしい彷徨は三太を盾に身を隠す。呼ばれていない望が、女の子たちにバラを撒きながら未夢たちのもとへやってきた。
「照れなくていいんだよ、天地さん、小西さん。 そんなキミたちにこのバラを。 そして花小町さん、ボクはこっちさ」
「まぁ、綺麗なバラ。 ありがとうございます、光ヶ丘くんも頑張ってくださいね」
姿の見えなくなった彷徨を一心に見つめていたクリスは、名を呼ばれてようやく目の前の望に向き直った。


「え――予選1組目の選手は―――…」

「あぁ、未夢っち! キミにも今すぐにボクの愛に染まった真っ赤なバラを贈りたいのだけど、どうやらしばしお別れのようだよ。
 必ず優勝して、キミのもとにかえってくると約束しよう! ボクとのデートプランを練りながら、待っていてくれるかいっ?」
キラッと効果音でも鳴りそうに歯を輝かせて、自身の最高の笑顔を未夢に向ける望。
日に照らされて暑いプールサイドが一気に凍りついた。



こんにちは。ご覧戴きありがとうございます。
始まったようで始まってない、選手権。
望くんを描く楽しさがちょ〜っとだけわかってきた杏です。
前回の“君さえ〜”のときは、苦手としてましたからw
もうお盆ですね。一年越しのネタがまた来年に持ち越されないように頑張ります。
次回もよろしくお願いします。拍手、コメントもお待ちしております♪


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