作:杏
力いっぱい教室の戸が開けられたのは、チャイムが鳴り終わる間際だった。
「…ギリギリセ―――フッ!」
そう言って飛び込んできた三太、その後ろには彷徨、望、そして彼らの強敵となる水泳部の武岡。
「ホントにギリギリよー黒須くん。 もうちょっと早く終わらせて欲しかったわぁ」
「水野先生! はは〜すいませ〜ん…」
すでに席についているクラスメイトの面々、そして水野の視線が一気に四人に注がれる。
身を小さくして頭を掻く三太を置いて、彷徨たちは自分の席へ。
(……?)
訝しげな視線を受けて、なに?と未夢は目で訊ねる。もちろん相手は彷徨。
視線を向けたのは彷徨だけでなかったけれど、無言の対話が出来る相手ではなかった。
「きり―――つ! 礼!」
未夢の問いかけに、彷徨は眉ひとつ動かすことなく号令をかけてしまった。
◇◇◇
「ったくもぉ! 何なのよ、彷徨のやつぅ〜」
「別に深い意味はなかったんじゃないのー? ただ目が合っただけで」
「うんうん、考えすぎだよ〜未夢ちゃん」
1時間目の授業を終えた未夢たちは、教室を出て、北側でほんの僅かに風が通る廊下に集まる。
「い―――やっ! あれは絶対何かある! どーせわたしの悪口でも言ってたん…」
「……未夢っ」
つんつんと綾に二の腕を小さくつつかれた。呼んだななみが目で促した目の前には、先程未夢に視線を向けた、もうひとり。
「武岡くん? どしたの?」
「あ、えっと…」
「あっ! 武岡くんも選手権、出るんだよね? 頑張ってね!」
特に理由もなく、笑顔でエール。
クラスメイトではあるけど、ほとんど話したこともない人物が、なぜ自分の前に立っているのかわからなかったけど。
「あ、うん、ありがと…。 あ、あの…」
「なにー? 言いたいことはちゃんと言いなよぉ、男らしくないっ!」
「ちゃんと言葉にしなきゃ、伝わらないよぉ?」
特にこの子には、とこっそりと目くばせをして。目を瞬くだけの未夢の両側で、ななみと綾が武岡をけしかける。
水泳部エースの彼は、県の代表選手。細身の彷徨とは違うガッチリとした体格で、ななみの言葉とは矛盾する、“男らしい”感じ。
「あのさ! …光月は、誰に勝って欲しいのかな、と思って…。 やっぱ西遠寺?」
「えっ?」
「いわもっちゃんも出るってゆーしさ、おれ、だんだん勝てる気しなくなってきて…」
これまたその逞しい姿からは想像できない、不安げな表情。
彷徨よりも高いところから見下ろす武岡の目が、本当に自信のなさそうな色をしていた。
「いいじゃない? 負けても、勝っても、自分が精一杯やったんなら」
「……え?」
「あ、ごめん、…男の子には、勝負って大事なんだろうけどさ。 わたしは、一生懸命やってる人を応援したいな」
ニコリと笑いかける未夢の言葉は、暗に、何でもさらっと出来てしまう彷徨にかけていた。
努力をしていないとか手を抜いているとかじゃないんだけど、こんな風に弱気になったのは見たことがないから、つい。
「あ――――あ…」
「これはいいネタになりそう〜っ!」
ほっとしたように頬を緩めた武岡が立ち去ってから、頭を抱えたななみと目を輝かせた綾に気がついた未夢であった。
こんばんは。いつもありがとうございます。杏です。
すぐに選手権開催、3話完結!…ぐらいに思ってたんですが。連載前は(^^;
またしても前フリが長くなりそうです。。
ちゃんと一番大きな仕掛けを回収できるのか、不安ですw
オリキャラ二人も出して大丈夫か!?((((゜△゜;;))
結末…誰を勝たせようか、ちょっと悩んでます。はい。
彷徨くんが勝つとは限りません。でも、そうかもしれません。
賞品かかってますからなぁ〜。
拍手、ご感想、ありがとうございます。アドバイスください。誤字脱字教えてください(笑)
第4話もよろしくお願いします!