作:杏
「おーっす! 彷徨! 光月さん!」
「おはよう、三太くん」
暑い夏の朝がさらに暑くなる三太のテンション。
いつもどおりの笑顔で挨拶を返す未夢の隣で、彷徨はあくびをしながら片手だけ上げておいた。
「彷徨、ちょっといいか? 朝イチで今日の説明するから、男子更衣室に集合!」
「…だから、俺は出るなんて言ってねーって」
上履きを履きながら教室とは逆の方向を指差す三太が、予想済みの彷徨の返答にまぶたを半分だけ落とした。
彷徨の肩をポンポンと二度叩いて、挑発するような耳打ち。
「……賞品! 誰かに取られてもしらねーぞぉ?」
「………」
「………?」
二人の視線は同じ動線を描き、クエスチョンマークを飛ばした未夢に向けられる。
先にその続きを描き足したのは彷徨。次いで三太が天井に顔を上げて、後頭部に両の手を添えた。
「体育のいわもっちゃんも出るからなぁ〜。 ま、賞品目当てとは思えねーけど?」
昨日彷徨に報告しそびれた、強力なライバル。ただでさえ、望の話に乗ってきた水泳部のクラスメイトがいて危うい勝負なのに。
「えっ! 岩本先生も出るの? じゃあなおさら女の子殺到しちゃうね〜」
「えーそうなの? あのいわもっちゃんがぁ?」
「うん、若くてかっこいーから、結構人気あるんだよぉ? 彷徨と望くんだけでもすごいことになりそうなのに…」
2−1男子の体育を担当する岩本先生、通称いわもっちゃんは27歳、独身。
背が高く、いかにもスポーツマンといったさわやかな容姿は、大人な男性に憧れる女子たちに密かに人気があった。
「…ロリコンかよ」
「? 何か言った?」
「別にっ。 三太、早く行くぞ!」
教師としては、授業も指導も丁寧でわかりやすいから、嫌いじゃない。
でもこの勝負に出ると言うなら、話は別。
人気があると言った先程の未夢の表情が華やいだ気がして、岩本の気持ちが未夢に向いている訳でもないのに“危険”のゲージが上がっていく。
「あれぇ〜? 出ないんじゃないのかぁ?」
睨みつけた三太が、やれやれ、と未夢にコンタクトすることすら面白くない。
苦笑する未夢の方には視線を向けずに、更衣室へとつま先を向けた。
(あんなに嫌がってたのに…。 賞品って何なんだろ?)
昨日の3時間目に勝負が決まって、放課後までに出場者がどんどん増えていったと聞いた。
そこまでの人を動かす賞品とは、一体何だろう。
未夢は二人を見送りながら、足を止めたままの生徒玄関で頭を捻った。
「光月! おはよう」
「あ、おはようございま〜す」
自分たちがいた場所から聞こえたツーショットに、彷徨は思わず振り返る。
ただ、挨拶を交わしていただけなのに。心なしか未夢の笑顔が嬉々とした紅みを帯びて見えた。
「…実はいわもっちゃんも賞品目当てか?」
すぐに目を逸らしてさっさと先を行く彷徨を追いながら、三太がその背中に推察を投げる。
「…馬鹿言うなよ。 あれでも一応教師だろ?」
前を見据えたままの彷徨の返事。
「だよなぁ〜」
納得と落胆が入り混じった音は、三太のもの。
「一応とは酷いなー西遠寺」
「!」
さらに後ろからかけられた声は、まさに今の話題の人物。
足を止めて、彷徨と三太はその人を見上げた。
「あ、いわもっちゃ〜ん。 はよ〜っす」
「おーおはよう、黒須。
俺はフツーに挑んでみたいだけだよ。 水泳部エースの武岡と、もしかしたら武岡より速いかもしれないおまえに、な」
「普通こーゆー場合、先生は審判とかやるんじゃないですか? そもそもこんなモン許可する時点で…」
「固いコトゆーなって! 安全にやってさえくれれば、って教頭も言ってくれたし! ま、名目上は水泳部に引き抜く生徒を発掘したいんですーって言ってあるけど」
この職権乱用のおかげでこんな勝負をする羽目になったのか、そう思うと頭を抱えたくなる。
これ以上の文句を組み立てるのも嫌になって、言葉を吐息に変えた。
「んじゃ、もしいわもっちゃんが優勝した場合は賞品どうする?」
「そりゃー貰うに決まってるだろー? 優勝は優勝だし。 で? 賞品って何?」
「知らないんすか? コレっすよ、コレ!」
三太が指差すのはチラシのアオリ文句。大々的に賞品だとは一言も書いてないのに、いつの間にやら本人以外は周知となってしまっていた。
「だから、どんなツキが掴めるんだよ? まさか、勝てたからラッキーでした、ってことじゃないだろー?」
「四中イチの、たぶん唯一のツキっすよ! なぁ、彷徨!」
「………何が四中イチなんだよ、あいつの」
「もちろん、男子の人気ナンバーワ…」
「へぇ―――…そういうこと! じゃあ、負けられないなぁ? 西遠寺は」
その立ち位置までは知らないけどなーと含んだ言葉をゆるく放って、岩本は更衣室とは反対方向に去っていった。
こんばんは、杏です。
いやん、未夢ちゃんの出番が少なーい!
次かその次くらいに出る予定…。たぶん……。
またもや不調で書けない日々が続いてます。言葉が出てこない…夏バテかしら(笑)
お盆ネタも進んでないのに、次のネタが出てきてしまった!(※良いことですけど。
10万記念も書き上げます。下書き済みなんですが、オチが上手くいかない!
でも近々あげます。頑張る。
最近、サイトにうまく繋がらないことが多々…(・・;
スパムもないのになんだろう?キャパオーバー?
めげずに再度読み込むのみですが、編集中は勘弁してほしい…。
拍手、コメントありがとうございます。
私の作品で“勝手にベスト3”してくれた方がいらっしゃって、ビックリでした。嬉しい、嬉しい。
みなしゃんもよかったらお寄せください♪
それでは、次回もよろしくお願い致します(^^*