作:杏
イケ! ガンバレ〜!
…Oh〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
ネーミユ! What that!?
「…えっ!? わ、わかんない……」
突然振り返った彼の質問に、わたしは答えられなかった。…だって、わかんないし。トーフ人間なんて。
それでも、ふたりきりの時間を持て余すことなく彼の相手をしてくれる白いヒーローには、感謝してるんだけど。
三太くんにこの面白さを説かれ続けて3年。
わたしにはまだまだ、わかりそうにない……って、何倍も親友やってる彷徨だってわかってないんだから、いいよね?
「ミユッ? どーしたの?」
「…うひゃっ!」
「ヒャクメンソーだヨッ?」
「え、…えっ!? なにっ?」
彼に三太くんを重ねて考えてたことが、つい顔に出てたみたくて。わたしを観察してたらしい彼がケラケラと笑う。
「…………ねぇミユ? ボク、オネガイがあるんだ」
「お願い? わたしに?」
笑い終えた彼が、すっと真剣な顔をした。
「ボクね、欲しいモノがあるんだ」
「欲しいもの?」
「……ボク、小さいコロから、ずっとカナタにアコガレてたんだ。 カナタの持ってるモノは何でも欲しがって、ハハウエにねだってた。
カナタと同じtrain、エホン、カナタのママがfruitくれるとね、どれも同じなのに、カナタの持ってるのがオイシソーに見えるんダ」
「…お兄ちゃん、みたいな感じなんだ?」
「ウン!」
ぱっと目が輝く。幼い思い出に苦笑する彼が、ホントに彷徨を慕ってるのがよくわかる。
嬉しそうに彷徨のことを話す姿は、なんだか可愛くて、微笑ましい。
「ソレでね! イマ、カナタがイチバン大事なモノ。 それが欲しいんダ、ボク」
「いちばん、だいじなもの…?」
「知ってル? ミユ」
「………?」
わたしは見慣れた天井を目に映しながら、思考を捻った。
大きな身体をぎゅっと縮めて正座して、仔犬のように可愛く首を傾げてわたしをじっと見つめる彼が、答えを待っている。
(…あれ? でも……)
ふと、気がついた。
わたしにも、近所のお姉さんに憧れた記憶はあるけど。いつの間にかそれは薄れていって、同世代の友達とばっかり遊ぶようになって。
今では顔を見たってわからないかもしれない。
(…いくら憧れてるからって…今でも、欲しいものなのかな…?)
「……ごめん」
自分の横槍に邪魔されて、彷徨の大事なものへの道は遮られてしまった。…それに。
わかったとしても、言っちゃいけない気がして。
「わたしにも、わかんな、い……」
「ホントに?」
嘘じゃないんだけど後ろめたい気持ち。小さく頷いて、目線を落とした。
(………!? そ、そんなに迫らなくても…っ!)
わたしよりも大きな彼が近付くのは、どうやったって視界には入っていたはず。
なのに、彼の青い瞳に捕えられるまで、自分の思考だけを見ていたわたしにはその姿は全く見えていなかった。
「カナタのタイセツなモノ……。 Ah、正確には、イチバン手に入れたいモノ、かな?」
「…一番、手に入れたいもの…? ―――きゃ…っ!」
「ソウ。 イマまで、ずっとカナタの持ってるモノを追いかけてきたんダ。 …デモ今回はネ?」
「――――カナタのまだ知らないモノを、ボクが先に手に入れるんダ…」