作:杏
「………来た」
「え…? んぅ…っ!?」
唇が触れる前に、足音がこっちに向かってきた。彷徨の言葉に薄く目を開いた矢先に、奪うようなキス。
「か、かなた…はな、…っして…」
「…やだ」
足音がピタリと襖の向こう側で止まった。頬を捉えた両手は、わたしに上を向かせたまま、固定。
聞こえるのは規則的な時計の秒針と、わたしたちが触れる度に響く、二種類の音だけ。
「カナタ―――ぁ! ……もーいーかーい?」
「…っ、彷徨っ!」
「…もーいーかーいッ!」
「バ、バレちゃう、よぉ…っ!」
恥ずかしい音が彼の耳に届いてるんじゃないかと、慌てて彷徨の胸を叩く。
「もーバレてるって」
ペロリとわたしの下唇を撫でた舌が、今度は首筋を撫でていき、耳元で囁く。遅れて目を見開いたわたしの視界には、満足そうな、いつもの悪戯な笑顔。
「……っ!」
(な、舐められた…っ!?)
「…さてと、風呂行ってくるかなー。 おまえ、長風呂するんだろ?」
「カナタッ! どーして“もーイーヨ”言ってくれないデスカ!? つまんないデスゥ〜」
「あぁ、…もーいーよ?」
「遅いデスゥ〜! One more! ホラホラ、熱ぅ〜いkissしてください〜!」
「―――!!!」
襖を開けて、彷徨が招き入れた彼の言葉に、顔から火が出る思いだった。
(…バレてる…っ!)
恥ずかしさと一緒に体温が一気に上がる。声も出せない。
わたしたちをからかう彼と、そんな彼を小突く彷徨。沸騰しそうなわたしなんて全く見えていないみたいに、じゃれあっている。
「バ――カ、言われて出来ることじゃねーよ! 俺、風呂行ってくるから、…悪さするなよ?」
「ハーイ! 大人しく“トーフニンゲン”観てるデスヨ〜」
「あぁ、机の引き出しに入ってるから、取ってこいよ。 三太が無理やり置いてったDVD…」
「Okey! イッテラッシャ〜イ!」
少し熱が冷めて我に返った頃には、居間にはわたしひとりが残されていた。
「……あれ…?」
トーフゥ、トーフゥ、トーフニンゲーン♪ …Oh! アリマシタ〜!
! What………?
――――いーモノみ〜〜〜つけタッ!!