すぷりんぐ すとーむ

嫉妬

作:

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「ありゃ―――そりゃあ残念だったねぇ…」
「内心、待ちに待ったふたりきりだったろうに…」
「そそそそんなこと…っ!!」

「「…西遠寺くん」」
「…………」
ん?わたしじゃないんだ?…ってなんで彷徨が??
「未夢だって、ちょっとは期待してたでしょ?」
「ないない! そんなことなーいっ!」
「「へぇ―――――?」」
うっ……。ふたりの目が明らかにウソだとニヤけてる。
「ホントにホントに! ホッとしたの! 1週間もふたりっきりなんて、さすがに…、…どーしていいかわかんないし…」
グラスの水滴を拭きながら。俯いた先のチョコレートドーナツを頬張って、気持ちを隠してみた。一緒に飲みこんじゃおうと。
「―――けど!!!」
思いの外、大きな声になってしまって、目の前のふたりが驚いてる。
お腹に入ったのはドーナツだけで、かえって言わなきゃおさまらないくらいにわき上がってきた、説明しようのない感情。

「あの子、ず〜〜〜〜〜〜っと彷徨にベッタリなんだもん〜〜〜〜! もぉ、四六時中!
 寝るときまで、彷徨の部屋に布団並べちゃってさ! 聞いてよ! 昨日の夜なんてね!!」





昨晩―――

「カナタ! 一緒にオフロ入ろーよ! ムカシみたいに!!」
夕食後に、居間で本を読んでいた彷徨の背中に抱きついた彼。
ようやくこの光景に慣れてきた昨夜、何を思ったのかわからないけど、彼は突然そんなことを言い出した。昨日までは何も言わずにひとりで入ってたはずなのに。
い、一緒に、入っちゃうのかな。わたしの脳裏にはつい、そんな妄想が…。きゃあ〜〜〜〜〜〜!

「…はぁ? なんでおまえと…やだよ、狭いし。 早く行ってこい」
(…で、ですよね…)
ちょっとだけ期待したのに。ホッとしたような、残念なような。
台所で洗い物をしながら小さく息をついたら、手元の泡がパチパチと消えた。

「〜〜〜〜〜〜いーじゃナイ! オフロォ――――!!
 サテハ! ボクだけヒトリにして、ミユとイチャイチャする気でショー!? フタリでオフロ入るつもりでショー!?」
「…なっ!? そ、そんな訳ないでしょっ!? 何言って…」
「くだらないこと言ってないで早く行けよ、あとつかえるだろ? 重いんだけど」

慌てて弁解してるのがバカみたい。読書中の彷徨は彼に目もくれることなく、さらっと流した。
「…ダヨネー。 もっとglamourなカノジョなら、ボクも一緒に入ってイイコトしたいデスケドォ〜」
ぐ、グラマーじゃなくて悪かったわね…っ!イイコトって何よ!?年下のクセにィ〜〜〜!
「アレック…」
「ミユはペチャパイちゃんですし、まだまだ待って…」
(な、なんですって――――!?)
「――アレックス!!
わかった! わかったから、風呂なら銭湯行こう! な!? 久しぶりだろ、銭湯!!」

慌てて彼を廊下に連れ出した彷徨に、わたしの怒りは強制的に静められ…ううん、抑え込まれた。
「セントーですかッ!? …デモ、外は雨デスヨ〜? セントー、明日でも…」
「いいから! 早く用意しろ!」
「ハ〜〜〜イっ!」

残されたわたしと、わたしの行き場のない気持ち。
わたしの為なのはわかってるんだけど、彼の楽しそうな声がなんだか癪に障る。…わたしはここ数日、彷徨とあんな風に出掛けてもなければ、……。
男の子に嫉妬するなんて、どうかしてる…。





「…って感じで……」
「完璧に西遠寺くんとられちゃったんだね〜未夢ちゃん…」
「………」

そうやって言葉にされてしまうと、なんだか余計。寂しさとか、悔しさとか、いろんな気持ちが溢れてしまいそうで。
押し隠して、唇を噛んだ。

「……にしても、ペチャパイかぁー…そりゃあ、向こうの子と比べられちゃえば、ねぇ?」
「日本人のわたしたちなんて、…ねぇ?」
「……だよねぇ…」

三人一緒に目線を落とした、それぞれの身体。

「「「…………」」」



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