作:杏
わたしが音を上げた…とゆーか、ガマン出来なくなったのは、あの子があと2日で帰る、というときだった。
「…何があったの? 未夢ちゃん」
「何が、ってワケじゃないんだけど…」
「ナニナニ、倦怠期ってやつ?」
「あぁ、3の倍数が危ないんだっけ? 3ヶ月、半年、9ヶ月…」
「未夢たちもちょーど3年だもんねぇ―――」
気が付けば、こっちに来てからずっと通い続けてるドーナツショップ。同じ高校に進学して毎日顔を合わせているのに、飽きもせず、馴染みの顔といつものおしゃべり。
これも3年続いてる。
そして、居候先の男の子と付き合うようになって…やっぱり3年目。
「…………そんなんじゃないもん…」
「「じゃあ何??」」
「…何にもない」
「「??」」
5日前―――
ピンポーン
「…か、彷徨、誰か来た…」
「いいよ、ほっとけば。 こっちの方が大事」
あの夜。突然のチャイムを、わたしは居間で聞いた。…彷徨の腕の中で……。
ピンポーン ピンポーン
「そんな訳にはいかないでしょっ!? ほら、新聞の集金とか、三太くんとか、もしかしたら宇宙人とか! わたし出てくるから、離して…?」
(ち、近いんですケド…)
彷徨は明らかに不満そうな目で、焦るわたしを見つめる。だって、あと数秒チャイムが遅かったら、わたしたちは………。
「…わかったよ。 俺が出る。 戻ったら、覚悟してろよ?」
「〜〜〜〜〜〜!!」
すっと時計に目を向けた彷徨は、わたしの頬に手の甲を掠めて玄関に向かった。
離れていく足音にふぅっと息をつく。ドキドキし続ける胸を押さえて、わたしも時計を見上げた。
もう10時をまわってる。あ、だから彷徨、行ってくれたんだ。…こんな時間に誰だろう?
「ハ――――イ! カナタ、ヒサシブリ!!」
「うわっ!?」
気になって、そおっと玄関を窺おうとした矢先に、聞こえた声。驚いて玄関に飛び出したわたしの目に飛び込んできたのは、異様な光景。
「―――アレックス!?」
「ハイ! ショーガッコぶりデスネ〜! カナタ、チーサクなった!」
…男同士で抱き合う彷徨。もとい、男の子に抱き付かれた彷徨。
彷徨にこんなことするのは三太くん以外に見たことがない。ってことは………アヤシイ関係?…あ、外人さんか。なぁんだ。
「おまえがデカくなりすぎなんだって!」
「Oh! Japaneseは小柄な民族でしたネ〜」
楽しそうにじゃれ合うふたりに、ポツンと残されたわたし。外人の彼がわたしに気がついて、笑った。
(わ、可愛い…)
青い瞳とブロンドの髪。人懐っこい笑顔。ルゥくんみたいで、わたしもつられて笑顔を返す。
「カナタ、sisterいたノ? ハジメマシテ〜! ショーガクセーですかぁ?」
「あぁ未夢、いたのか。 アレックス、こいつ、妹じゃなくて…」
(むっ! 小学生!? 妹!? な、なんなの彷徨まで! 前言てっか―――い!)
「ミユってゆーの? ヨロシクね! カナタのトモダチ、ボクのトモダチ!」
「いや、友達とゆーか…」
「ボクのオナマエはぁ〜、Alexander 優太 Johnson! 14歳デース! Alexと呼んでクダサーイ!」
上がり框の上のわたしと同じくらいの目線。
手をとられてブンブン振る豪快な握手に呆然としていたら、ちゅって、耳のそばで音がした。
「―――!??」
と思ったら、彷徨に引き剥がされるように抱き寄せられて。
「アレックス。 …こいつ、妹じゃなくて。 一緒に住んでる俺の彼女。 俺と同い年」
「Oh! ソレは失礼しマシタ! ニッポンジンは若いデスぅ〜! ヨロシクネ、ミユ!」
「…あ、えっと…よろしく。 光月未夢、です」
「コーヅキ? コーヅキ、コーヅキ……。 Shuttle ledyと同じデス!」
「「シャトルレディ?」」
「えっと〜〜〜〜…NASAの、Japanese、ウチュー…シコーキ?」
「あぁ、宇宙飛行士、な」
「…それ、わたしのママなの」
そう言ったら、早口の英語で目をキラキラさせた彼。聞き取れなかったけど、感激してくれた…らしい?
勢いよく飛びついてきて、彷徨に足蹴にされて。
「で? おまえ何しに来たんだよ?」
「ホーショーさん、言ってまセンかぁ? ボク、今日からイッシューカン、ココにお世話になるんデス!」
「…聞いてたの? 彷徨」
「聞くも何も、書き置き残して勝手に出掛けたからなぁ…」
“彷徨よ、わしはちょいと修行の旅に出掛けてくる。 春休みが終わるまでには戻る予定じゃ。
お金は金庫にあるし、前のような長旅にはならん、生活の心配はいらんじゃろう。
心配と言えば、未夢ちゃんのことだけじゃ。 くれぐれも、わしの目の届かんのをいいことに余計な事をするではないぞ。
まあ、今まで散々放っておいたわしが言えたことではないが、お前たちももう子供ではない。 だからこそ、寺の息子らしからぬ行為をしでかすことのないようにな。”
プルルルルル… プルルルルル…
「あ、電話」
「…まさか……」
『ニーハ〜〜〜オ! ワシは今中国じゃ! 彷徨! 言い忘れたが懐かしい客人が…』
「おっせーよ! アレックスならもう来てる!」
『そうかそうか、では、留守をよろしく頼むな! ふたりっきりでなくて残念じゃのぉ〜! はっはっは!』
「とゆーワケなんだ! ヨロシク、カナタ! ミユ!」
一方的に切られた電話を持ったまま、彷徨は大きなため息をついた。その気持ちは…わかるような、わからないような。
そんな彷徨には悪いけど、わたしは内心ちょっとだけ、ホッとしていた。
……その時だけ。うん、その時だけは。
こんにちは。ようやく新作です。春休み、終わっちゃったけど。
高校2年生の二人。
ちょっぴりオトナな感じで書きたいなーと思ってます。アニメ要素多めに。…できるかな?
アレックスくん、180センチ台前半。彷徨くんはそこからマイナス5センチくらい。
未夢ちゃんは…どうかな?これ以上伸びて欲しくない私としては、160打ち止めでいきたい(笑)
どこまで一人称でいけるかわかりませんが、やれるだけやってみようと思います。
と言っても、未夢ちゃんオンリーではなく、彷徨くんの回も1度は出てくる予定。
内容は一応出来てるけど、タイトルもまた、不安要素。
さて、どうなりますやら。
またお付き合い戴けますことを嬉しく思います。
次回もよろしくお願いします。