第四中学校 2学年御一行様

〜心揺く〜

作:

←(b) →(n)



「あの…ね、わたし……。
 …わかんないんだ……ほんとに。
 家族だから、かなぁ…?」

ゆっくりと、言葉ひとつひとつを確かめるように音にする。

「果那ちゃんは、兄弟いる?」
「うん、お兄ちゃんいるよ。 2つ上の」
「お兄さんに好きな人いたら、気にならない? 彼女できたら、なんか寂しくない?」
真っ直ぐに果那の目を見たその瞳は、静かに揺れていた。
「…確かに、気にはなるけど…」
「そんな感じじゃないかな? きっと。 兄妹、みたいな」
「でも、寂しくはないよ? 彼女いるけど。 なんでこんな男がいいのかなー?とは思うけど?」
小首をかしげて、やれやれと両の手のひらをあげる。

「隣が自分じゃなくなるの、寂しい?」
「……うん、ちょっと…」
「あたしも似たようなこと、思ったことあるよ」
「お兄さんに…?」

きょとんとして、目を瞬く果那。
「ふふっ、まっさかぁ!」
けらけらと果那の笑い声が転がる。今度は未夢がきょとんと目を瞬いていた。
「好きな人に、だよ」
もう一度ゆっくりと瞬きをして。意を呑みこむと真っ赤になった。
「一緒に委員会の仕事とかやってて、このままいつも隣にいてくれたらなーって。
 嫌われてはないと思うんだよね、たぶん。 他の子よりは近いトコロにいると思ってるんだ」
少し頬を染めて、ぴょんっと立ち上がって。殆ど一人で飲みほしたペットボトルを持って、ゴミ箱に歩み寄る。
「…でも、未夢ちゃんに比べると、全然遠いんだ…」
中のものとぶつかって軽い音を響かせたゴミ箱。そこに雑ぜた小さな呟きは、未夢には届かない。

「だから! 寂しいとか、隣にいたいって、やっぱり好きってことじゃない?」
ふわっとスカートを浮かせて、果那が勢いよく振り返る。
「え、えぇ〜〜〜〜〜? わ、わかんないよぉ…」
未夢は両手をバタバタ振り回して狼狽えた。真っ赤な顔からは煙が上がりそうだ。
「そっか、そっか! 未夢ちゃんはまだわかんないかぁ〜」
「ま、まだって、果那ちゃん〜」
「そろそろ戻ろ?」
朱の上った頬を両手で隠し、指の隙間から自分を覗く未夢に、手を伸ばした。


「ねぇ、未夢ちゃん?」
「ん?」
「もし、西遠寺くんのこと好きだなーって気付いたときは…」
「え〜〜〜?」
「だからぁ、もしもの話!」
「う、うん〜〜…」
「そのときは、あたしにエンリョしちゃ、怒っちゃうよ?」

繋いだ手を離し、バイバイと手を振る果那。そこは未夢たちの部屋の前。
返事も出来ず、果那を見送っていると、その小さな背中が滲んできた。
「―――…っ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「まっさかこのタイミングで、果那が未夢を呼び出すとはねぇ…」
そっと柱の陰から顔を出すななみ。彷徨は無言でその柱に背中を預けた。
さっきまで自分たちがいたソファーに、果那と未夢が並んで座る。
背を向けたので、二人の表情は窺えなくなってしまった。


「未夢ちゃん、泣いてたみたいって、西遠寺くん言ってたから…気になっちゃって」
「あ、あれは果那ちゃんのせいじゃないよ! わたしが、勝手に…。
 彷徨が…言ったの?」
「んーん、独り言聞いちゃっただけ。 そんな無神経なことしないよ、西遠寺くん。
 って、未夢ちゃんはよくわかってるか」
静かに肩を揺らす。未夢もほっとしたように笑った。
「たぶん…果那ちゃんがあんな風に言ってくれたのが、嬉しかったの」
「あ、じゃあ宣言しちゃいマスかぁ?」
ニッと白い歯を見せて、片目をつむった。
「ご、ごめん、それはまだ…」
慌てて言葉を濁す未夢に反して、クスクスと笑う果那は実に楽しそうだ。
「でも…」
ふと、笑いを止めて未夢を見上げた。穏やかな瞳で、柔らかいトーンで。言い聞かせるように、未夢に微笑みかける。
「明日で修学旅行、終わっちゃうよ?」
「う、うん…?」

「! …行くぞ」
「あっ、ちょっ…西遠寺くんっ」
(行っちゃった…)
引き止める間もなく、彷徨は静かに立ち去る。
一瞬だけ垣間見えたその瞳は、痛い色をしていた。

(未夢も鈍いけど、西遠寺くんも相当だよねー…)
「あれだけモテたら鋭くなりそうなもんだけど…」
「やっぱり、自分の好きな子の気持ちだけはわかんないものなのかな?」
「みたいだねー。 まぁ未夢も、他の子たちほどわかりやすくはないからねぇ………って、綾! いつの間に!?」
何気なく返事をしてから、綾がいるという違和感に気付いた。柱の影に座り込んでいた自分の隣で、両膝に手をついて屈んでいた。
「お風呂あがったら未夢ちゃんがメモに化けてたんだもん〜」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

Dear 綾ちゃん
果那ちゃんとロビーに行ってきます
点呼までには戻るね
From 未夢

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ひらひらとメモを見せる。ななみが字を追っている間に続けた。
「ロビーはまずーい!と思って追いかけてきたんだけどぉ〜。
 ななみちゃんは西遠寺くんとこんなトコ隠れてるし、あっちのふたりはわかるようなわかんないような話してるし!
 これは未夢ちゃんライバル宣言!? 三角関係!?
 広瀬さんはどうしたいの!?
 もう物語の核心に迫っちゃう!? まだ1日残ってるのに!
 この私の演劇愛くすぐりまくるシチュエーション! こりゃあ創作意欲が沸くってもんよ!
 なーんてノート広げてあっちとこっちを見比べてたら、西遠寺くんは帰ろうとしちゃうし〜!
 とりあえず、西遠寺くんを止めなきゃーって来たんだけど、やっぱり間に合わなかったーってワケ〜。
 …で! 未夢ちゃんは!?」

いつもの早口で一気に話して、綾は目を輝かせてぐるっと身を返す。
「いない…」



お読みいただきありがとうございます。

さて、今回は回想からのスタート。すっとばした涙の理由に、ちょっとだけ迫ってみました。

明らかに回想!…にしようか、前回からの流れと見せかけて、よく読んだらあれ?って感じにしようか悩み、後者にしました。
わかりにくくてスミマセン。。
杏は無駄にややこしいコトが好きなのです(^^;

『君、故に…心揺く』
「こころ、あゆく」と読みます。意味はそのまんまです。
“きみ”は未夢ちゃん。
未夢ちゃんに、未夢ちゃんだから、心を揺るがす…それぞれ。
彷徨くん、ななみちゃんと綾ちゃん、そして果那ちゃん。

で、未夢ちゃんにとっての“きみ”が、彷徨くんであり、果那ちゃんであり。

と。タイトル先行でみんなの動きを書こうとしたもんで、難しかったです。
動きは書きたい、けど、心情は書き過ぎたくない。
杏の頭と指先は揺くどころか、常にオーバーヒートで燻ってました。
炎上した日にゃ、今日はもうやーめたってもんで。
進まない( ̄▽ ̄;)
技量の足りないことは避けるのも手であると。今回学びました(笑)

今回に限らず、うちの子たちでフットワークが軽いのがななみちゃん。三太くんも、出せば勝手に動きますね。
そしてメインの二人が一番動きづらい。考えて考えて、動かしてやらなきゃならない感じです。。未夢ちゃんはまだ周りにつられてくれますが、彷徨くんなんてもー動かない!!

この先が思いやられます。。

あ、でもちょっと浮気ゴコロで書いた短編はさらさらと二人とも動きました。なんでかな?

長くなってしまいました。
では、このへんで。
次回もよろしくお願いしますm(_ _)m

←(b) →(n)


[戻る(r)]