第四中学校 2学年御一行様

〜君故に〜

作:

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『はぁ〜い! 今度はだれ〜!? 彷徨ならいないよぉ〜』
「あ、黒須くん!? あたしあたしー天地でーっす!」
大きな声で電話に出た三太に、自然にななみも声を張る。
『あぁ、なんだ〜天地さんかぁ』
「なんだって何よ? 西遠寺くん、ホントにいないのー?」
『ごめんごめん! 彷徨ならホントにいねーよぉ。
 ミーティングだってさぁ! ま、いてもいないって言っとけって、電話出る気ねーけどぉ』

合点が行った。電話に出た三太の口調は、またかといった感じで。
今日の自由時間はこれが最後。
彷徨の部屋に、呼び出しの電話が相次いでいるのが想像できた。
三太がつい、なんだ、と口にしてしまったのも、気に食わないが納得できる。…気に食わないが。

「あ〜〜〜告白ラッシュなんだー。 じゃあ戻ったら、1階のロビーに来てーって伝えてくれない?」
『へっ? まさか天地さんも…!?』
「んな訳ないでしょ! 未夢のことで聞きたいことがあるの!」
『ふぅ〜〜〜ん…?』
「よろしく! じゃーあねー!」




「さて、果那の部屋はぁー…」
「4つ先だね〜」
しおりの名簿を確認して、避難経路図で果那の部屋を指差した綾。
ななみはドアを塞ぐように椅子を置いた。

「…何してるの? ななみちゃん」
「何って? 果那がここ通るの見逃さないように!」
椅子に座って、ドアスコープを覗きながらそう言った。
ずっとこのまま待つつもりらしい。
確かに、綾もそれ以外にミーティングの終了を知る方法は思いつかないのだけど。
「未夢ちゃんがお風呂あがる前に、来てくれればいいけど…」

この異様な光景を見られたら、なんて言い訳しようか。
「そんときはそんとき! なんとかして出なきゃね!」
楽観的なななみの分まで、綾は果那が早く戻ってくることを祈った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ななみが出て行って、5分ほど。
「ふぅ〜ごめんね、先に入っちゃって〜。 あれ? ななみちゃんは?」

パジャマ変わりのTシャツにショートパンツ姿で、未夢がバスルームから出てきた。
纏めていた髪を解いて、タオルで拭きながら、キョロキョロと部屋を見渡す。
「おばあちゃんが電話しなさいって言ってたの忘れてたーって、ロビーに行ったよ〜」
「そうなんだぁ〜」
「点呼までには戻るって。 私もお風呂入っちゃうね〜」
綾がななみと言い合わせた理由を話す。
おさげのクセが残った髪に指をからめて散らしながら、どこか後ろめたい気持ちを押し隠した。

「うん、行ってらっしゃ〜い」
着替えを持ってバスルームに入る綾を見送り、濡れた頭にタオルをかぶったままベッドに転がる。
目を閉じると、頭の中で今日が再生された。


(なんか今日はいろんなことがあって…疲れちゃったなぁ…)





「おっそーい!
 なんで果那が帰ってくるのを見届けてから来た、あたしの方が待たされるのかなぁー?
 ミーティングって確か男子の階だったよねー?」
「…悪かったな。 いろいろあったんだよ」

両手を腰に当てたななみを見て、心底不服そうな彷徨。
エレベーターで降りてくるだけなのに、数人の女子の“口撃”にあったらしい。
「何なんだよ? 未夢のことで話って…」
ななみは奥のソファーを指差す。そちらに歩きながら、話し始めた。

「未夢、夕ご飯の前に家に…西遠寺くんちに電話しに行ったの」
「…知ってる」
「で、帰ってきたらボロボロ泣いてたんだよね」
どさっとソファーに身を投げて、背もたれに寄りかかる。彷徨が向かいに座ると、頭までソファーに預けて高い天井を見上げた。
「……」
「ルゥくんに何かあったの?って訊いても、そうじゃないみたいだし。
 その上、西遠寺くんにあの態度でしょ?
 泣いてたのバレたくないからもあるんだろうけど…、何があったの?」
「…こっちが聞きてーよ。 第一、ここで解散してから夕飯まで、俺は未夢に会ってないし。
 ミーティングが終わって、俺が自由になったのは6時す、ぎ……」
言葉を切った。
顔を上げると同時に、ななみが彷徨を指差す。

「そう、ちょうどその時間。 未夢が戻ってきたのが6時半くらいだったもん。
 さっきも部屋に戻るときに、意味深な発言してった子がいるんだよね。
 未夢に、ごめんねって。
 …今からミーティングって言って、エレベーター降りてった。
 でもその子も、未夢に意地悪するような子じゃないよ。 未夢は聞いてあげてただけだと思うんだけど」
「…含ませんなよ、めんどくせー」
大げさにため息をつく。苛立ちを隠すつもりもない。

「……広瀬も言ってた。 自分が泣かせたんじゃないかって」
「その言い方…果那の前では泣いてなかったってこと?
 …果那に感情移入したんじゃ、ないんだ……?」
彷徨の言葉があまりに予想外で、言うつもりのなかった推測をポツリと漏らしてしまった。
口にしてしまったことに気付いて、バツが悪そうに彷徨を窺う。
「俺もそう思ったけど。 だったら広瀬だってそんな言い方しないだろ。
 そもそも、あいつは気付いてなかった。 俺が」
「言ったの? 果那にわざわざ!?」
ななみは身を乗り出して、彷徨に食ってかかった。未夢のことも気になるが、果那の気持ちを知っておいて、それも許せない。
ななみの意図することを知ってか知らずか、彷徨は眉ひとつ動かさずに平然と続ける。
「言った訳じゃねーよ。 口にしたのを隣にいた広瀬に聞かれただけだ」
「だ、だよね…ごめん」
また、背もたれに上半身を委ねた。沈黙がおりる。


ふいに彷徨の口元が僅かに緩み、失笑を漏らした。
「え? な、なに?」
突然笑われて、ななみは目を白黒させる。
「いや…未夢も同じこと思ったんだろうな、と思って」
「そりゃあ、未夢だから、ね」
「天地みたいに突っかかることはなかったけど、目がなんで?って言ってた」
「未夢だもん」
当たり前だというように繰り返して、ななみは得意げに笑った。

「もう戻るぞ。 わかんねーんだろ? 未夢が泣いた理由」
すっと立ち上がり、ななみを見下ろす。図星をつかれたななみがたじろいだ。
「あははは…。 果那のみぞ知る、ってトコかなぁ?」
苦しい言い訳をしながら、彷徨とエレベーターに向かう。
「広瀬がわかんねーから俺らもわかんねーんじゃ…」
「それでも! 果那との会話にヒントはあるでしょ? まぁでも、果那に聞く訳にもいかないし。
 未夢が自分で整理して、話してくれるの待つしかないのかなぁ」
「…………」
「あ、誰か来る!」

まだ先のエレベーターのランプが到着を示し、ゆっくりと扉が開く。
思わず彷徨を引っ張って、柱の影で息をひそめた。

「…なんで隠れるんだよ?」
「はは、なんとなく…。 先生だったらなんか嫌じゃない?」
「…先生よりまずそうだけど」
「??」
少し不安な面持ちで、彷徨の視線の先を辿る。現れた人影に、頬がひきつった。

(ふたりセットときましたかぁ…)



「ごめんね、呼び出しちゃって…」
「ううん! 大丈夫だよぉ」



祝!10話〜〜〜〜パチパチパチパチー!(≧▽≦)

お読みいただきまして、ありがとうございます!
今回、一度スマホでイジってたら編集中に本文が行方不明に。。。
消えたかと思って、焦った焦った!((゜Д゜;))))
もうスマホで編集はやめようと心に決めた杏です(笑)

約束どおり、ななみちゃんには首突っ込んでもらいました。
突っ込ませた割には、結果は出てません。
次が勝負です!(…きっと)

タイトル。『きみ、ゆえに』と読んでください。
10話と11話。セットのつもりでおります。
ので、後書きっぽいのは次回に。

さぁ、やってきた二人とは!?
呼び出したのはどっち!?
…バレバレですね(笑)

次回もよろしくお願いします。

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