作:杏
「泣いたの、わかるかな?」
エレベーターの中で、未夢が訊ねた。
部屋ではなく、エレベーターホールで待っていてくれたななみと綾が、揃って首をかしげる。
「えー? もう大丈夫だと思うけどなー」
「うん、誰も気付いてなかったよ〜?」
時間ギリギリまで冷やしていた未夢の目は、殆どはれてもいないし赤みもない。
いつも一緒のななみと綾が見ても、わからないくらいだった。
「「………あ」」
そんな僅かな変化に気付きそうな、たった一人の人物に思い当たって、同時に声をあげた。
「西遠寺くん、気付いてたの?」
「あーだから! 不機嫌とゆーか、なんとゆーかぁー…って顔してたんだ?」
「…そんなだった? 彷徨」
気付かなかった、というより、見ていなかった。なんとなく顔を合わせづらくて、彷徨の方を見ないようにしていたから。
「で、何か言われたの?」
「あ、うん……」
これ以上は、果那のことを話すことになってしまいそうで、黙ってしまった。
チ―――――ン
「あれ〜? 遅かったんだね〜」
小さな箱の中がしんとしたのは一瞬。
到着を告げたエレベーターが出口を開けると、明るい廊下に、聞き慣れた人懐っこい声。
「果那ちゃん…」
「あ、果那。 今からミーティング?」
「うん! あたしがゆっくりできるのは夢の中だけみたいだよ〜」
未夢たちと入れ違いにエレベーターに乗り込む。肩をすくめて笑うけど、疲れた様子はない。
「果那なら寝なくたって大丈夫でしょー?」
「ななみ、それひどくない〜? あたしを何だと思ってるのぉ〜」
「そりゃ果那にしろ、西遠寺くんにしろ、委員長やら学年リーダーやらできちゃう優等生だもん!
尊敬してますともー?」
ニヤニヤとからかうななみに、果那も負けじとニーッと悪戯に見上げて、拳一発。
「思ってもないこと言うなぁ〜!
あたしは西遠寺くんみたいに何でもできる訳じゃないもん。 追い付いてくのが精一杯だよぉ〜」
軽く止められた右手をパタパタと手首で上下させて軽く笑うと、未夢に向き直る。
「未夢ちゃん。 …ごめんね?」
「…え?」
「じゃあ、未夢ちゃん! 就寝前の点呼もよろしくぅ〜」
ドアが閉まる間際に、果那は手を振って笑った。
「未夢? 果那と…」
「ななみちゃん! ジュース買ってかない〜? ほら、未夢ちゃんも!」
「あ、…うん」
あからさまに遮った綾が、ななみを自販機の方に引っ張っていく。
「ななみちゃん、今はまだ…」
「わ、わかってるよぉー、つい…。
あの感じはついに自覚したかな?と思ったんだけど…」
「うん…なんか違うみたいだね…。 広瀬さんと何かあったのかなぁ?」
後ろの未夢に目を向ける。
「わ! ど、どうしたの?」
未夢は未夢でぼんやりと果那の言葉の意図を考えていたので、同時に振り返った二人に驚いた。
「どーせ未夢のことだから、果那の相談とか聞いちゃって、自分のことのように悩んでるんでしょー?」
「人の相談事、他の友達に話すような子じゃないもんね、未夢ちゃんは〜」
ななみが呆れたように眉を下げる。綾は柔らかく笑った。
「え? ななみちゃん? 綾ちゃん?」
「ヒトゴトに悩み過ぎないように!」
「…ってこと、ね?」
ななみがビシッと未夢の鼻先に人差し指を突きつける。
ななみの逆の腕に、綾が腕を絡めて、同じように人差し指を自分の顔の横に立てた。
「う、うん…?」
(ちょっと違うんだけど…まぁいっか)
「あっ、あたしコーラ!」
「未夢ちゃんは〜?」
「わたしはミルクティーかなぁ〜」
「部屋戻ったら、一番にお風呂入ってさっぱりしちゃいなよ、未夢?」
「うんうん、それがいいかも!」
未夢を真ん中に、三人で並んで廊下を歩く。
思うことはたくさんあるけれど、とりあえず今は。
この二人の輪の中に自分の居場所があることを、嬉しく思った。
後から来た自分を受け入れてくれた二人に、改めて感謝した。
「ありがとう」
(やーっぱあの噂、果那だったかぁ…。
どこまであたしたちが首つっこんでいいもんかなぁ…)
こんにちは、杏です。
今回、短いですね…どーにもここで切るしかなくて!
次も半端に長くなるか、短めになるか…。
最後のはななみちゃんです。
首突っ込んでもらわないと、先に進まないので、突っ込ませます!
ななみちゃんと果那ちゃんは仲良さそうですね。
合同の体育とかで本気で張り合ってそうです(笑)
一方、綾ちゃんとはそうでもない感じ。
何故でしょう?
なんとなく、そんなイメージだったんです(^^;
果那はああ言ってますが、この子も優等生ですよ!!
勉強も運動もできる子です。
未夢と張るくらい、モテる。って設定で書いてます。
賢いから厄介なんでしょうね、ななみちゃん。
さて、次回は。
あの二人の密会を、あの二人が覗き見…!?
…いかん、下書きに追いついてしまう(゜ロ゜;
ご愛読、ありがとうございました。