作:杏
――明日で修学旅行、終わっちゃうよ?
(そんなこと言われても…まだわかんないよ……)
「あっ! 未夢ちゃん!」
「綾ちゃん! ななみちゃんも一緒だったんだ?
チャイム鳴らしても出てこないから、寝ちゃったかと思ったよ〜」
部屋の前で佇んでいた未夢に声をかけると、ぱっと笑顔が咲く。
「ごっめーん! ふたりとも遅いからロビー行ってみたんだけど、未夢ちゃんとはすれ違っちゃったんだね〜」
未夢に並んで、綾がドアノブに手をかけた。
「あ、あれ?」
「綾ちゃん、カギ! カードキー!」
「カギ? あぁ、忘れてた! カードキーは……どうしたっけ?」
「綾ぁ〜〜〜〜?」
ポケットに手を突っ込んでカードキーを探す綾を、ななみが横目で問い詰める。
「えへ、やっちゃった…」
「あちゃ―――…先生の部屋って覚えてる?」
ぶんぶんと首をふる綾。未夢があっと声を上げて廊下の奥を指差した。
「わたし、果那ちゃんのトコ行ってくるよ〜」
「どーしたんだよぉ? 戻ってきてから暗いぞぉ〜?」
疲れているとか、怒っているとかでもなく。
言うならば、珍しく落ち込んでいるように見えた。
「光月さんに、なんかあったかぁ?」
「……なんで未夢なんだよ」
「オマエが変なときは絶対光月さん絡んでるからなぁ〜」
「………」
ピンポーン
「誰だぁ? また彷徨に告白かぁ〜?」
「ここまで来るやつはいないだろ…」
「ハァーイ! 西遠寺くん! 今日の結果を聞きに来たよ!」
「…は? 何だよ、結果って」
(また面倒なやつが…)
三太がドアを開けるとそこには、招かれざる客、望。
頼んでもいない華麗なターンで部屋の中央を陣取った。
訊き返してみたが、言いたいことに見当はついている。
自分で口にしたくないのと、“今日の”のあたりがなんだか腑に落ちないのと。
仏頂面でベッドに転がっていた彷徨が、憮然として望を見る。
「決まってるじゃないか! 今日レィディたちに告白された数だよ!
昨日はみんな、今日に備えてお参りに行ったり、お守りを買ったりしただろう?
おかげでキミもボクも、まさかのゼロに終わってしまったからね!
勝負は今日と明日にかかっているってワケだよ!
ボクのライバルとしては、やっぱり二桁くらいの数は…」
「知らねーよ! 俺はそんな勝負、するって言った覚えもねーし」
さも当たり前に展開される『望論』。聞く耳もなく、片腕を枕に背中を向けた。
「あ! 光ヶ丘ぁ、噂しらねーのぉ? 昨日、彷徨に告ったやつがいたんだってさぁ〜」
「!? なんだって黒須くん! キミ、昨日はゼロだって言ってたじゃないか!」
「えっ、いやぁ〜〜〜なんか点呼のときだかミーティングのあとだかってハナシで…はは…」
やっぱりおまえか、と無言の圧力が三太にかかる。背を向けたまま、視界の端に三太を映している彷徨。
淡い色の大きな瞳も、三太が映るときは細く鋭い眼光を放っていることが大半。
流れる冷や汗とともに、乾いた笑いしか出ない。何があったか知らないが、すこぶる機嫌が悪いらしい。
「…点呼、行ってくる。 おまえも自分の部屋戻れよ」
「お、おう…」
「逃げるつもりかい? このボクに勝てないからって…」
望の首根っこを乱暴に掴んで引き摺った。彷徨と望を吐き出したドアが静かに閉まる。
残された三太が溶けるように床にへたり込んだ。
(天地さぁ〜〜〜ん、何したんだよぉ〜〜〜)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ずらりと並んだ窓の灯りがひとつ、ふたつと消えていく。時刻は消灯、22時。
今日は早々に眠りについた親友たち。
静まりかえった部屋で未夢はひとり、寝返りを繰り返す。
(眠れない…)
寝ようと思えば思うほど、冴えた頭は働いてしまう。
その胸に、心に浮かぶのは。
(……
―――――…)
心に正直に、溢れる。
想いと涙。
すでに深く深く自分に浸透していた、その事実に
胸の奥がきゅうっと締め付けられて、途切れることのない雫を絞り出す。
ひっそりと泣き続ける未夢。堪え切れずにしゃくりあげる。
いてもたってもいられなくなった綾が身を起こしたが、ななみがそっとその手をとり、綾に首を振ってみせた。
いつもありがとうございます!
次回から最終日。
ちょっと悩んでます。
だいぶ悩んでます。
間隔あけないように頑張ります。
焦ってもダメなんですけど!(><)
ちょっと気分転換を考えてます。
では、次回もよろしくお願いします。杏でした!