第四中学校 2学年御一行様

〜内緒〜

作:

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「「うわぁ〜!」」
「おぉー綺麗だねー」

海沿いのホテルの13階。
ドアをあけて感嘆の声をあげた未夢と綾。
窓辺に寄ったななみが薄いカーテンを開けると、眼下には瀬戸内海。

清水寺でのトラブルののち、
何とか二日目のスケジュールをこなした一行は、予定通りの時刻に本日の宿泊地に到着した。


「明日には帰っちゃうのかぁ」
「なんだか寂しいね〜」
「うん…。 でも早く帰りたいかも。 ルゥくん心配だし」
「未夢ってホント、ルゥくんのママみたいだよねー」
「えっ! そ、そうかな?」
「歳の離れた弟が可愛いのはわかるけど…」
「弟離れするの大変そうだよね〜」
親友たちの観察眼は鋭い。秘密を持っていることに罪悪感を感じつつ、苦笑いでごまかす。
「はは、あははは…。
 あ、わたし、ちょっとうちに電話してくるね。 ロビーに公衆電話あったし」
「うん、行ってらっしゃ〜い」
「じゃああたしはひと眠りしよっかなぁ! たくさん歩いて疲れちゃったし」
「あっ、じゃあわたしも〜」
「あはは、おやすみ〜。 帰ってきたら、ちゃんと開けてね〜?」
財布からテレホンカードを抜き取ると、部屋を出た。



『はい、西遠寺です』
「あ、ワンニャー?」
『未夢さん! どうですかぁ〜修学旅行! 楽しんでますかぁ〜?』
「うん、楽しいよ! ワンニャーやルゥくんも連れてきてあげたかったよ〜。
 今ね、ホテルに着いて、休憩時間なんだぁ。
 彷徨も話せればよかったんだけど、委員長は忙しいみたいで」
『まんまぁっ!』
「あっ、ルゥく〜ん! いい子にしてる〜?
 お土産い〜っぱい買って帰るから、もうちょっと待っててね〜」
『あーいっ』
『ルゥちゃまもお二人がいらっしゃらないとグズってばかりで…
 気晴らしにモモンランドに行ってみたりもしたんですが、親子連ればかり寂しそうに見ていらっしゃるルゥちゃまがもう、不憫で不憫で…
 こうやってお電話をいただけただけでも、とっても有り難いですぅ〜〜〜』
「ワ、ワンニャー…」
受話器の向こうでワンニャーがおいおいと泣いている。相当ルゥがグズっていたのだろう。

『あーぁっ! まんまぁ、ぱんぱ!』
「あ…ごめんね、ルゥくん。 彷徨は今ここにいないんだぁ。
 明日は一緒に帰るからね、待っててね?」
『ぱんぱ…?』
「うん、今お仕事してるんだ、ごめんね」
『ぱんぱ…ぱんぱぁ〜〜ぅあ――――…っ』
「ルゥくん…」
『よしよし、ルゥちゃま〜泣かないでください〜〜』
ルゥの泣き声が遠ざかり、ワンニャーのあやす声が聞こえた。
寂しいと泣き叫ぶルゥに、なんだか胸が痛む。

『み、未夢さーん。
 ルゥちゃまはわたくしがなんとかしますので、楽しんで来てくださいね〜』
「うん…。 よろしくね、ワンニャー。 彷徨にも、時間つくって電話するように言っとくから」
『はい、ぜひお願いしますぅ〜あたたたた! ルゥちゃま〜ひげを引っ張らないでくだ…いたた!』
「じゃ、じゃあ、また明日ね! 夕方には帰る予定だから」
『はい! お気をつけて。
 いいですか、未夢さん! おうちに帰るまでが修学旅行ですよぉ〜』
電話の向こうで、目を瞑って、小さな人差し指をピッと立てて。得意げに言っていそうなワンニャーが浮かんで、心が柔く和む。自然に頬が綻んだ。
「うんうん、わかってる。 じゃあね〜」
笑いながら、受話器を置く。吐き出されたテレホンカードを取ると、ふぅっと肩の力を抜いた。
(早く、帰りたいな…)


「あれ? 未夢ちゃん?」
13階でエレベーターを降りると、隣のエレベーターも開いた。
「果那ちゃん! あ、ミーティング終わったの〜? お疲れさま〜」
「うん、やーっと束の間の自由だよ〜」
果那はノートやプリントを片手に持ったまま、大きく伸びをする。どちらともなく、自販機の方に歩み寄った。

「あっ!」
「どしたの?」
「わたし、テレカしか持ってきてないんだったぁ」
「じゃあ半分こしよっか! 嫌じゃなかったら」
果那は自分が買って、一口飲んだだけのジュースを、未夢に差し出す。
「えっ、いいよぉ〜悪いし…」
「今度半分くれればいいよー」
ニンマリと笑う。いたずらっ子のような笑顔に、未夢もつられる。
「じゃあ、…いただきます」
差し出されたままだったジュースを受け取って、未夢も一口。
「それでよしっ! …ふふっ!」
「あははっ」
二人で吹き出して、笑い合った。

「ねー未夢ちゃん、ちょっと聞いてもらってもいい?」
「? なぁに?」
ソファーに飛び乗るように、未夢の隣に座った。
未夢が覗きこむと、目を合わせて二コっと笑う。そのまま視線を正面の窓の外に向けた。
「あたしね、好きな人がいたの。 昨日、告白したんだけど、フられちゃったぁ」
「え……っ」
「知ってるでしょ? 噂。 あれ、あたしなんだ」
果那の思いがけない告白に、言葉を返せずに俯いた。両手に包んでいたジュースを、果那が浚って、一口、口に含む。
「やだなぁ、そんな顔しないでよぉ!
 噂になっちゃったのはあたしの不注意だし、かえって西遠寺くんに迷惑かけちゃったなーって思ってるくらいだから!」

わかっていても、果那の口から聞いた相手の名にドキッとした。
未夢より小柄で細身の果那は、その元気で明るい性格も相俟って、少し幼く見える印象がある。
でも今、一瞬だけ見せた寂しげな笑顔はすごく大人びていて、未夢にはその瞬間だけ、果那が知らない人に見えた。


「もう諦めはついてるの。 こたえはわかってたしね。
 その子には敵わないし、その子も大事な友達だから。 今はもう、うまくいってほしい、かな?」
「果那ちゃんも知ってるの? 彷徨の…好きな、人…」
大きな瞳をさらに大きく見開いて、果那を映す。
「え? …うん、知ってるよ。 見てたらわかるもん」
クスクスと笑う。さっきとは違う、果那らしい、可愛らしい笑顔。
「そっ、か…」
「未夢ちゃんはわかんない? 気になるの?」
仔猫のようなまんまるの瞳。少し上目遣いに未夢を見る。
真っ直ぐ射られたように、視線が外せない。ごまかしは効かないな、と観念してゆっくりと話し始めた。



「あの…ね、わたし……」



毎度、ありがとうございます。
杏でございます。

宣言通りに舞台を変えられて一安心です。
この先、ちょっとすっとばしたり、もどしたりします。
読みにくいと思うので、せめて、出来るだけ間をあけずに書こうと思ってます。

その時代風景で書きたかったので、テレカに公衆電話なんて登場させてみました。
実は『注目』の回の他校の女の子にも、ルーズソックス穿かせたかった…(笑)

拍手、コメント本当に嬉しいです。ありがとうございます。
どうなる次回!杏にもわかりません(^^;
お付き合いいただき、感謝いたします。
ではでは。



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