第四中学校 2学年御一行様

〜惑い月〜

作:

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彷徨の隣に並んだ果那。
今朝の落ち込んだような様子はなく、しっかりとした委員長らしい顔つきだった。

(…なんか、お似合いかも。
 でも噂の子がもし果那ちゃんなら、彷徨が好きなのは別の誰か…)

未夢の視線に気付き、目の前の教師たちにバレないように小さく手を振ってくれたのだが、
未夢はなぜか振り返すことが出来ずに、目を逸らしてしまったのだった。

「これじゃただの嫌な子じゃない、わたし…」
公衆トイレを過ぎたことにも気付かず、未夢は悶々としながら歩いていた。




「広瀬さん?」
「…あ、はい、すみません」
「そろそろ集合時間だし、全員無事に戻って来れるように、悪いけど気配り頼むな」
「「はい」」
「じゃあ先生たちは、他の委員長たち捜すから…」
最後まで言い切る暇もなく、教師たちが走り去る。

その姿が見えなくなると、ふぅっと果那が息をついた。
「…らしくないぞ」
「あはは、元凶に言われてもなぁ〜」
「………」
そう言われると、彷徨も二の句が継げない。
そんな彷徨を見上げて果那が笑うと、ポニーテールが軽やかに揺れる。
「冗談だよぉ!
 もう平気だよ、返事はわかってたし。 逆にごめんね、好きな人がいるって噂になっちゃって。
 あたし誰にも喋ってないのに、誰かに見られてたのかな?」
うーんと唸り、空を見上げて考える仕草をする。

「別に広瀬のせいじゃねーし。 どうせ本人は微塵も気付いてないから」
「言っちゃなんだけど、鈍そうだもんねぇ〜。
 でも、何か感じるものはあるみたいだよ?」
誰とは言ってないのに、わかっている果那。ぐっと下から見上げる瞳はやけに楽しそうだ。
「……どうだか」
肩をすくめて、自嘲するほかなかった。
「ふふっ。 じゃあ、あたし行くね! またあとで」
「ああ」


(なんか、やりにくいな…)

背を向けて遠ざかる果那をなんとなく目に映しながら、かき上げた前髪をクシャリと掴む。

告白をされ、それを断ったあと、彷徨の方から態度を変えることはない。いたって普通にしている。
だが、これまで相手の方からそれを突っ込まれることはなかった。
さすがに、それにはどう応えていいものか。
身近な人間だからこそ、彷徨も少し困惑していた。



「ふあっ、ふぁいほんひふん、おふはへはふぁー」
ななみが買ったばかりの八ツ橋を頬張っていた。
「………今日は買い食い禁止」
「うっ! ―――――!!」
彷徨の思わぬ指摘に、喉に詰まらせドンドンと胸を叩く。綾がすかさず水を渡した。
「て、天地さん、大丈夫!?」
「もぉ、ななみちゃん、一気に食べすぎだよぉ〜」

「…ふぃ〜〜〜焦った焦った。 ごめーん、忘れてたぁ。
 じゃあこれは、お土産ってことでー」
丁寧に剥がした包装紙で、手際良くまた同じように包む。見た目は新品同様に戻った。

「で、未夢は? まだ買い物してんのか?」
未夢の買い物の長さは知っている。
どうせまたあれこれ悩んでるんだろうと、軽く考えていた。

「未夢ちゃんなら、さっきそこのお手洗いにー…
 私、ちょっと見てくるね! 遅すぎるもん」
「あっ、あたしも行くよー」
お土産の八ツ橋を袋にしまいこみ、ななみも綾を追った。
綾の言葉に眉をひそめた彷徨も、黙って三太とあとに続く。


「みーゆー?」
「いないね…。
 西遠寺くーん! 未夢ちゃんいないよぉ〜!」
外で待つ男子二人に綾が声をかける。
「…は? いない!?」
「うん…。 さっきのベンチからここまでに他に道はないし〜、すれ違ってはないよね?」
「いくらなんでも、四人もいれば一人くらいは気付くんじゃね〜?」
「ここ見落として他のとこ行ったのかなー?」
彷徨がパンフレットを広げると、みんなで覗きこんだ。

「この先に一ヶ所、左に曲がって少し離れたところにもひとつ…別れて行ってみるか」
「じゃあオレと彷徨で―――…はぅっ! いてっ!」
言いかけた三太の脇に、ななみの肘がどすっと入る。綾の持っていたペットボトルも、顔面めがけて飛んできた。
「……バカ」
彷徨が呆れたように毒づくが、当の三太はそれどころじゃない。腹をかかえて痛みに耐えている。
「あたしと黒須くんは左、綾は西遠寺くんとまっすぐね!」
「ああ」
「まかせて!」

彷徨と綾が走り出したあと、ようやく三太が身を起こし、涙目でななみに問う。
「なんでオレ、殴られたんだよぉ〜」
「…あんたたち、ふたりで女子トイレ覗くつもり?」
「へ? ……はっ! そ、そんなつもりじゃあ〜〜〜」
「はいはい、ほら、早く行くよー」
「待ってよぉ、天地さぁ〜〜ん」



こんばんは、杏です。

早くも5話ですが、まだ半日くらいしか経過してませんね(^^;
あと1話分くらいは、清水寺編が続きます。
その後は十キロ単位で舞台も飛び、時間も進む予定です。
あくまで、予定ですが。。

サブタイトル、惑い月。冒頭の未夢ちゃんです。
硬いタイトルが続いたので、やわらか〜く比喩表現にしてみようかと思ったのですが、
今度は突如、幻想的になりすぎて、バランスがおかしくて、また悩みました(@_@;

どんどん出番の少なくなる未夢ちゃん。
これからどうなるんでしょう?

予告。
…ベタにいきます。

お付き合いありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。





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