第四中学校 2学年御一行様

〜淡色〜

作:

←(b) →(n)



「――聞きたい?」

昨日は全然答える気がなかったくせに、そんなことを言う。
そう改めて言われるとやっぱり…聞きたいような、聞きたくないような。

返答に迷っている未夢を余所に、彷徨は前を歩きながら話し始める。

「そーだなぁ…自分のことをわかってないから、無防備で、子供みたいに無邪気で。
 周りのやつばっか気にして、いろんなことに巻き込まれて、
 それでも自分のことはそっちのけで、人に手を貸すことを惜しまなくて。
 友達思いで、涙もろくて。 でも意地っ張りで、ほとんど人前では泣かない。
 いつも俺の隣で笑ってて、そいつが笑うから周りのやつも笑うんだろうな――」
その子を思い浮かべるように、愛おしそうに話す、彷徨。
初めて見た表情にドキッとして、その意味にちくりと胸が痛んだ。

「聞いてたのか?」
辿りついた西遠寺の石段の前。彷徨が立ち止まった。未夢もつられて、足を止める。
「…あ、うん…」
「心当たりない?」
「な、ない…よ…?」
本当は、その表情に見惚れて、言ってることは半分以上耳に入ってこなかった。
それを悟られないように、素知らぬ顔をつくる。

「…そっか。 まぁいいけど。 言うつもりないし」
言葉とは裏腹に、彷徨は少し残念そうな、寂しそうな顔。
彷徨のほうを見ようとしない未夢にはわからない。
「どーせ、ここまで言ってもわかんないのか、鈍感。とか思ってんでしょ〜〜?」
「お、よくわかったじゃん。 偉い偉い」
「子供扱いしないでっ!」
ぷいっと思い切り顔を逸らしたら、笑われた。
「それが子供なんだって。 誰だよ、こんなガキに告ったやつ?」
「〜〜〜〜〜〜っ! 知らないわよっ! 名前も忘れちゃったし!」
「はぁ? …おまえ、それはいくらなんでも失礼だろ」
また笑われた。今度は半分呆れている。
確かに、未夢もそう思うけど、思い出せないものは仕方がないと諦めていた。

「…じゃあ彷徨はわかる? 5組の、サッカー部…」
「情報それだけ? サッカー部多いし………」
そう言いながらも考える。彷徨が見た後ろ姿、未夢とそう変わらない背丈。
思い出したくもない場面だけど、頭から離れない瞬間でもあり、思い当ってしまった。
「…あ。 もしかして駿?」
「…え?」
「広瀬駿ってやつじゃねぇ?」
「ああ! そうそう! そんな名前…。 そういえば…なんか、ややこしいからシュンって呼んでって言われた…」
「そりゃ、2組の広瀬の従姉弟だから…」
「えっ、2組って、果那ちゃん?」
「! ってことは……」
(―――――ハメられた……)

「そう! なぁ西遠寺ィ〜! この子ちょーだい?
 俺、気に入ったんだよね!」
「…駿!」
何処に潜んでいたのか、絶妙なタイミングで二人の間に割って入った。未夢に告白した、5組のサッカー部の男の子。
「きゃっ…!」
未夢に抱きついた。そして、飛ばされた。
「いって〜〜〜」
「ふざけんな! 誰がおまえなんかにやるかよ! 離れろ!」
珍しく声を荒げた彷徨の蹴りをくらって、まだ未夢のそばに寄ろうとする。
「ね、光月さんもこんなヤツやめて、俺にしよーよ!」
「なっ、なに言って…! ちょっ、きゃあっ」
「駿! いい加減に…」

「駿―――――――!!!!!」


駿の名を叫びながら、猛ダッシュで駆けつけたのは。
「広瀬…」
「果那ちゃん!?」


「しゅ〜〜〜〜〜〜ん〜〜〜〜〜〜〜?」
その小さな身体に似合わない、背中に炎でも背負っていそうな果那の凄まじい迫力に、今まで飄々としていた駿がたじろいでいる。
「げっ! 果那…」
「あんた何やってんの!
 未夢ちゃん、西遠寺くん、ごめん! こんなやつについ言っちゃったあたしが悪いの!」

「…へ? な、なに…? どーゆーこ、と…」
彷徨はこの異常事態でも現状を把握しているらしいが、未夢にはもう、何が何だかわからない。
西遠寺の石段を前に、彷徨と話してたら突然自分に告白した男の子が現れた。そして直後に、果那が追ってきた。
そこまではわかっているのだが、どうしてこうなってるのかがわからない。

「果那! 人聞き悪いぞ!
 ふたりがくっつかなくて果那がやきもきしてたから、ちょっと手伝ってやっただけじゃん!」
「誰がこんな余計なことしろって言ったのよ!」
横目で駿をジロリと睨んだ果那の拳が一発、駿の腹に入った。
「うぐっ…果那おまえ、手加減ってものを…」
「あんたにはないっ!
 ほら行くよ、お邪魔だから!」
へばっている駿の背中を押す果那。くるりと振り返って、呆れている彷徨とまだ頭にハテナを飛ばす未夢に頭を下げた。
「ホントごめんね、ふたりとも。 また明日ね! バイバーイ!」


「な、なんだったの…?」
未夢は疑問を解決出来ないまま、過ぎ去る嵐を呆然と見送った。
「あ、あれ? 彷徨!? 待ってよ!」
手を振り終えて我に返ると、すでに彷徨は石段のだいぶ上。振り返ろうともしない彷徨を慌てて追いかけた。



「…なぁ、駿の言ってたやつ…どーゆー意味?」
ようやく長い石段を上りきった頃。彷徨はまた足を止めて、沈黙を破った。
「あ、あれは、その…。 あ、あれ? 駿くん、なんで知って…?」

『こんなヤツやめて、俺にしよーよ』

その言葉を思い返して、未夢は駿に知られていたことに真っ赤になる。
全部口にしてしまっていること、それを聡い彷徨が隣で聞いていることに、気付かない。
「未夢。 俺、期待していーの?」
未夢の荷物を石段に置いて、僅かに距離をつめる。
「き、期待…?」
「…てゆーか、俺にあれだけ言わせてわかんないって、おまえどんだけ鈍いんだよ?」
「―――!?」

さっきからわからないことだらけで、未夢の思考回路はショートしかけていた。
それがここにきて、完全に停止。
目の前は真っ暗。
耳には、昨日と同じ鼓動。
「一緒に住んでるうちは言わないって、決めてたんだけどな」

腕を引かれた未夢は、背負った荷物ごと彷徨の腕の中におさまっていた。
「駿に…他のやつに告白されてんの見て、マジで焦った」
視界に光が戻ると、彷徨の顔が近くて、思わず顔をそむけた。でも、腰にまわした腕を離さない彷徨からは離れられない。
片手で未夢の頬に触れると、大切に包んで、強引に引き寄せ、自分のほうに向かせる。
いつになく真っ直ぐに未夢を映す、彷徨の瞳。

「未夢…俺、おまえが好きだ」
「…かな、た……?」




「あ―――――っ!」

イイトコロで降ってきた声。
二人は反射的に離れて背中を向ける。
(今度はなんだよ…っ)

「…あ、ルゥくん! ただいまぁ〜」
「ぱんぱ! まぁんまぁ〜!!」

未夢にぱっと笑顔が咲き、飛び込んできたルゥをしっかりと抱きとめる。
直前のことをもう忘れたのではないかと思うほどのいつもの笑顔に、苦笑する彷徨。
ルゥにさえ嫉妬してしまう自分にため息をつく。
(まぁ、いいか…)
再会に歓喜する母子の笑顔には敵わない。

「ルゥが寝るまでは、おあずけくらってやるよ」
未夢の耳元でそう囁いて、クシャリと腕の中のルゥの髪を撫でて、そのまま目隠し。
淡いピンクの頬に、唇を寄せた。
「〜〜〜〜〜〜っ!!?」

思い知らされた、彷徨の気持ち。まだ信じられないけど、彷徨は冗談でこんなことしない。
「ちょ、ちょっとごめんね、ルゥくん」
「? まんま?」
ルゥを浮かせてから、先に玄関に向かった彷徨にダッシュ。その勢いで強引に腕を引っ張って、背伸びして、その頬に仕返し。
抱きついた腕から、ばさっと未夢の荷物が落ちた。
「わ、わたしの方がっ、好きなんだからねっ!」
見上げた顔には、恥ずかしくてたまらないって、きっと書いてある。
頬が熱い。彷徨が触れたトコロだけ、もっと熱い。
(きっとわたし、真っ赤だよぉ…)
「ルゥくん、おいでっ」
「あーいっ!」
ルゥを抱えて、玄関に逃げた。

「………」
まさかの反撃。
未夢が触れた頬に、手の甲で触れた。予想外の不意打ちに、白旗。
(そんな可愛いコトされたら、屈服してやるしかねーじゃん…)
逃げる未夢を目で追いかけて、やっぱ未夢らしいな、なんて思う。
髪の隙間から見え隠れする耳も、細い首も。
(完熟トマト…)
それを見つけてしまったら、そんな未夢がたまらなく可笑しくて。
頬の手を滑らせて、どうにも緩んでしまう口元を隠した。
「…家に帰るまでが修学旅行、か」


俺の未来をかけて、興味のないジンクスの真偽を確かめてみようか。

「はずすつもりもないけどな」


「ぱんぱっ!」
「…彷徨? ほら、早くっ! ルゥくんの、…お土産っ」
満面の笑顔のルゥと、まだ赤い顔で躊躇いがちに彷徨を見る未夢。
ワンニャーの作ってる夕飯も、いい匂いをさせて呼んでいる。
「おー、今行くー」
落とした荷物を拾い上げて、彷徨は待っていた未夢と玄関をくぐった。


「「ただいまー!」」
「おかえりなさ〜い!」
「きゃ〜い! ぱんぱぁ、まぁんまぁっ!」


fin.




ご覧いただきありがとうございます!
無事になんとか!完結いたしました〜〜〜!

どっかでボツったタイトルを使っちゃいました。えへ。
書き始めた当初は、くっつけないつもりだったのが、ワンニャーのあの一言に、『これだぁ〜〜〜!』と、急遽、帰宅直前の告白に。
最後にルゥくんの邪魔が入るのは決めてました。それが、だぁ!らしいかな、と。
あ、駿くん?勝手に出てきたんですよ、この人(笑)
果那ちゃんは一枚噛ませるつもりでしたが、彼がキーになる予定は全くなかったです。。
彷徨くんに告白していた女の子たち同様、名前もなくちょい出で終わるはずだったのに(^^;
まぁ、周りに振り回されての彼らです!きっと!

告白シーンのセリフ&描写が一番困ります。
みなさんの作品を読み過ぎて、何度書いてもどこかで見た感じになっちゃうんです。
一番多いシーンだろうし、ある程度は仕方ないのですが、自分の力のなさにかなり打ちのめされます。

いやはや、長編って難しい。途中で平気で方向転換するから、なおさら…。。
次回作は…まだ何も考えてません(^^*)
何か案があれば欲しいくらい(苦笑)
とりあえず、これの番外書いてー、ずっと考えてた拍手御礼用の小話で遊ぼうと思ってます。
あくまで予定。番外とか実現するのかあやしい…

最後に、読んでいただいた皆様に。
ありがとうございました。
もし気が向いたら、ご感想いただけると嬉しいです。

2013.07.04 杏


←(b) →(n)


[戻る(r)]