作:杏
「これで解散式を終わりまーす!
寄り道しないで帰るように!
各委員長は集合ー!」
二泊三日の旅を終えて、四中に帰ってきた一行。
たくさんの思い出とお土産を持って、大きな荷物と、疲れも背負って、生徒たちが家路につく。
「未夢! すぐ終わるから、待ってろよ」
「じゃあ、あたしたちは帰るねー」
「また明日ね〜未夢ちゃん」
「うん、バイバイっ」
「またな〜彷徨!」
「おー」
グラウンドでななみたちと別れると、はぁっとひと息。
彷徨も最後の招集に行ってしまった。
(普通にしなきゃ…
ずっと意識してたら身が保たないよ…)
「光月さん!」
「あ……さっきの…」
「あのさ、うちのクラスの女子が噂してたんだけど」
「…え?」
「光月さんてやっぱり西遠寺と付き合ってんの?」
呼ばれて振り返った未夢の前には、今あまり会いたくない人物が立っていた。
まだ半分ほど生徒たちが残っているグラウンドで、構わず未夢に訊ねる。
「さっきの新幹線で、光月さんが西遠寺の肩に…」
「きゃああぁっ!
ちょ、ちょっと来てっっ!」
周囲が気になって、木陰まで相手を引っ張った。
「なんであんなとこでそんなこと言うのよっ!?」
「別に、付き合ってないんならいいじゃん。
付き合ってるとしても、隠さなきゃいけないんなら、それっておかしくない?」
「……付き合ってない。
けど、…それでもそれを良く思わない子だっているんだから」
「何それ、保身?」
「そんなんじゃない!
…自分だったら、それだけの噂でも辛いだろうなって思うから……」
未夢の答えが思いがけなかったのか、驚いたように瞬きをしている。
「へぇ―――…じゃあ、光月さんは好きなヤツいるんだ?」
「なっ……!」
「アタリ?」
楽しそうに、俯いた未夢を下から覗き込んでみる。
「相手の気持ちはわかんないんでしょ? 俺にしとけば?
今すぐ両想いだよ?」
「……ごめんなさい…わたし、あなたとは付き合えません…」
「なんで? 俺のこと、知らないから?」
「…それもあるけど」
「今から知ればいいじゃん?
知りもしないで全く可能性はありませんって、酷くない?」
「好きな人がいるから…。
たとえ思われてなくても、わたしはその人が好きだから…」
精一杯の言葉。初めて、自分で好きだと口にした。
楽しそうだった笑顔が、瞬時に傷付いた顔になる。それを見て、未夢の表情も歪む。
気付いた彼が先に笑った。
「そっか、わかったよ。 でも俺、諦めないから。 覚悟しといて?」
それだけ言うと、背を向けて走り去る。
「………」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「未夢っ!
先に帰るんならそう言えよ、探しただろ?」
「あ……ご、ごめん…」
ぼんやりと歩いていた未夢は、頭をポンと叩かれて、はっとした。
西遠寺まであと少し。追いかけてきた彷徨の息が少しあがっている。
さっきのことで頭がいっぱいで、好きだと気付いて気まずかったことなんて忘れていた。
それでも、合わす顔はなく、足早に彷徨から離れようとするが、
リュックを背負って、まだ両手には土産袋が3つ。肩にはボストンバッグ。
疲れた身体に重い荷物がのしかかって、足は思うように進んでくれない。
「買いすぎだろ、土産」
「あ、ありがと…」
右手にあった大きな紙袋を彷徨が浚う。
「そっちも」
左手の荷物も、奪われてしまった。
「…彷徨」
「ん?」
手持無沙汰な両手でリュックの肩ひもを握ると、よし!と意気込んで彷徨に声をかけた。
あれから、どうしても訊いてみたいことがあったのだ。
「彷徨はさ、なんて断るの?」
「は? 何の話だよ?」
「告白…」
(またそういう面倒な話を……)
そちらを見なくても、怪訝そうな瞳を向けているのが空気でわかる。
「…別に、普通だけど」
「普通って?」
「…………」
「みんな納得してくれる?」
答えてくれそうにないので、質問を変えてみた。
「…そんなやつばっかなら楽なんだけどな」
ため息交じりの返事。なんでちゃんと答えてるんだ、と自嘲を含んでいる。
彷徨としては。昨日のように興味本位じゃなく、未夢なりの意図を感じたから答えた。
その意図にも直ぐに気付いて、質問を返す。
「おまえは? 納得してもらえなかった?」
目を見開いた未夢が見上げてくる。
「…な、なんで知って…? …見てたの?」
「見えたの。 相手までは見えなかったけど」
いつもと同じように、舌を出してみる。
本当は相手が気になって目を凝らしていたんだけど、薄暗い水族館でその姿を判別することは出来なかった。
「…彷徨を待ってる間に、ね、その…。 ……でも、うまく言えなくて。
諦めないからって言われちゃった。
知らないまま可能性がないなんて酷いって…」
遠慮がちに話す未夢。妙に言葉を選んで、口ごもる。
断ったことに、傷付けたことに落ち込んでるんだろうな、どうせ。
「そーゆーそいつは、おまえの何を知って、好きなんて言ったんだろうな」
「え…?」
「いつもヘラヘラしてるから、元気でかわいーなんて言われてるけど。
本当はお節介でやかましくて、強情で泣き虫で。
乱暴だし、おっちょこちょいだし、料理は下手だし、超鈍感だし。
そーゆーの全部知ってから言えっつーの!」
「なによっ…!
彷徨だって…ちょーっと勉強とスポーツができて、委員長とかやっちゃって、クールでカッコいい〜なんて言われてるけど!
いっつもエラソーだし、口うるさいし、無愛想だし、何にも言ってくれないから、何考えてるかわかんないし。
おかずにカボチャがあると途端に子供みたいにゴキゲンになっちゃってさ!
みんな騙されてるよぉ〜!」
「だろ?
知りもしないで、好きだなんてよく言うよ」
あまりに短所ばかり並べられて、思わず反撃したら、彷徨の意外な言葉。
随分なことを言ったはずなのに、今の彷徨はその内容には関心がなさそうだ。
「…ホントだね」
互いをよく知ってるんだと思えた、彷徨の言葉が嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
それでも、はたと気がつく。彷徨の好きな人の存在。
「彷徨は? そんなに言うんなら、…好きな子のことよく知ってるの?」
「…少なくとも、そいつよりは知ってる、な」
つい、口をついて出た疑問。訊き出したら、気になってしまう。
「どんな子…?」
「――聞きたい?」
ど、どうも、杏です。
すみません、長い上に無理やり感満載の文。
読んでいただいて本っっ当にありがとうございますm(_ _)m
今回が一番書き直しました。
書けば書くほど、セリフばっかりになってしまって。。
諦めてだーっとセリフを書いて、情景を足して調整し。
なんとか形になりました(><)
あ、あと余談ですが、前回、短編「星のうた…」をアップした際、
これまで以上の拍手、ご感想をいただきまして、大変驚きました。
ありがとうございます!
ホント恐縮です。。
何度も見てはニヤニヤ、読み返しては、ニヤニヤ。
周囲は不審がってますが(^^;
励みになります。嬉しいです。
叱咤激励、いつでもお待ちしています(笑)
次回、ラスト!
決めかねているのはサブタイトル。
最終話って感じにならなくて。
頑張ります。