第四中学校 2学年御一行様

〜束の間〜

作:

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新幹線が発車してしばらく。狭いバスで身を縮めていた一行が、手足を伸ばして寛ぎ、談笑を始める。
「あーあ、もう帰っちゃうんだねー」
「帰りたくねぇよぉ〜! また明日から退屈な授業かぁ〜」
名残惜しく、流れ去っていく景色を眺めていたななみと三太。
「わたしは早く帰りたいなぁ」
「ルゥくんが待ってるもんね〜」
「お土産だってルゥくんのものばっかり! 未夢ママはルゥくんにべったりですなぁ〜」
未夢の口調を真似て、ななみが呆れている。
「いいじゃない! ルゥくん可愛いんだも〜ん」
小さく舌を出した未夢。
無邪気な仕草に似合わない母性が、柔らかい瞳から溢れていて。愛らしい笑顔に、彷徨は目を奪われる。
広げた本を上げて、熱を帯びた顔を隠した。

「あっ!」
ななみがリュックを探って、小さな箱を出した。
「みんなでトランプしよーよ」
「ななみちゃん、用意い〜いっ」
「だって、さすがに2時間なんにもしないのは退屈だもーん!」
手際良くカードをきっていく。
「…俺はいいよ」
「黒須くんはー?」
「オレはちょっと出掛けてくるぅ〜!」
新幹線が楽しみだったらしく、いそいそとカメラを提げて前の車両に向かった。
「迷惑になるようなことすんなよー」
「お〜〜!」
二人のやり取りに、ななみと綾が笑う。
「保護者だよね〜」
「うんうん。 あ、じゃあ未夢、そっち行ったら? 並んでちゃやりにくいし」
窓際から、ななみ、綾、未夢。
三太がいた自分の向かい側をななみが指した。
「あ、うん…っ」
当然、隣には彷徨。努めて普通に席につく。

(隣に座ることなんて今までいくらでもあったんだから! 平常心よ! 未夢!)
どんなに自分に言い聞かせても、全神経が右半身に集中してしまう。
おかげで全く身の入らないババ抜きは、10戦全敗の結果に終わった。

「ちょっと休憩しよ〜? わたし、お手洗い行ってくるね〜」
「未夢、負けっぱなしなんだもんー」
「わかりやすすぎるんだろー?」
「あはは…」
本に目を落としたまま、彷徨が横槍。
いつもなら拳をあげて反論する言葉も、なんて返していいのかわからずに苦笑で流した。
「あーそれもあるけど、今日はやる気が感じられないんだよねー」
「…ババ抜きにやる気いるのか?」
「いるいる! 真剣しょーぶっ!」
「そ、それはななみちゃんだけだよぉ〜」
ようやく二人に混ざって、未夢が声をあげた。

「あとどれくらいで着くー?」
「あと1時間半くらい」
彷徨が腕時計を確かめる。左腕を少し動かしただけなのに、ドキッと心臓が鳴る。
「じゃーあたしちょっと寝よっかなぁ!
 15分前に起こしてねー」
「え〜〜ちゃんと起きてよ〜? ななみちゃん起こすの大変なんだからぁ〜」
「ふぁ〜い…」
聞いているのかいないのか、生返事でおやすみ3秒。窓に寄りかかるようにしてななみは眠ってしまった。
「なに、天地は寝起き悪いんだ?」
「え、えと…う、うん…」
彷徨が目線を未夢に向ける。戸惑いながらも、なんとか返事をした。
「そりゃあこの二日間、小西は大変だったなぁ」
綾に同情するように、眉を下げて笑う。
「………どういう意味よぉ…」
「私がなーにっ?」
「寝起き悪いのふたりもいたから、小西が大変だっただろーってハナシ」
戻ってきた綾に、彷徨が説明する。すぐに察した綾が、笑いながらそーっとななみを窺う。
「ななみちゃん、寝ちゃったんだぁ。
 未夢ちゃんも今のうちにちょっと寝たら? …あんまり寝てないでしょ?」
「え…う、うん…。 でも、綾ちゃんは?」
「私? 私はねぇ〜…これ!」
いつものネタ帳をポケットから取り出した。満面の笑みで目を輝かせる。
「もー観覧車とか水族館とか、いろいろ見てたらネタ浮かびまくってたんだけど、書くヒマがなくってぇ!
 1時間もあれば2つ3つ書けちゃうくらい、私の頭の中に情景が浮かんでるのよ! セリフがめぐってるのよ!
 だから、これから…」
「そ、そっか! うん、じゃあわたしも少し休むね!」
「うん、おやすみ〜」
「おやすみ…」
綾の話が止まらなくなると、十中八九、とばっちりを受ける。未夢は早々と遮って、眠る体制をとった。


――――パタン

未夢が眠りに落ちた頃、綾はネタ帳を閉じる。
「さすがの演技だな」
「え?」
「小西なら、思い付けばその場に座り込んででも書いてるだろ。
 この移動時間を待ってるなんて、ありえねーよ」
彷徨も、読んでいるページに指を挟んで本を閉じた。
「えへへ…バレてた?
 だって、ちょっと寝かせてあげないと…」
「全然寝てないのか?」
「うん、ほとんど…」
ほぼ同時に、二人で小さく息をつく。
直後、とんっと彷徨の肩に、未夢がもたれた。顔にかかった髪をそっと掬う。
「…ったく…」
それが当たり前のような彷徨の様子に、声を殺して笑う綾。
見られていることに気付いて、平然とまた本を開こうとしたが。動揺していたのか、手元から本が滑り落ちた。
「はい。 私も寝ようかなぁ〜」
本を拾い上げた綾はまだ笑っている。今の仕草が今度の演劇のワンシーンに使われるのか?などとつい考えてしまった。

「…あ、あの、西遠寺くん!」
彷徨と綾が揃って声のした方を見上げる。
「ちょっと…いいかな?」
声の主はデッキの方を指差す。女の子が一人。1組の子ではなかった。
(わぁ〜生呼び出し! 1組の車両まで来るって、勇気あるよね〜。
 西遠寺くん、どうするのかな!?)
綾がワクワクしながら行く末を見守る。窓際の二人は熟睡中。
幸い、同じ車両にいるはずのクリスも眠っているのか、気付いていないようだった。
「…悪いけど、今動けないから。 ここじゃダメなら、あとでいいか?」
「…え? ……あ、ううん、やっぱり…いい……」
訝しげに彷徨の周りを見て。奥の席の未夢に、その状況に気付くと言葉を濁して立ち去った。
「…罪な男だね〜」
「何のことだよ…」
今度は大きなため息。
未夢がずり落ちない程度に肩を落とした。




杏です。
ご愛読ありがとうございます。

これで14話。長いお話になりましたねぇ…。
やっと帰路につき、束の間の休息。
新大阪→東京間は2時間半ほどみたいですね。
彼らが何処まで乗るのか、東京で乗り換えるのか、杏は知りませんが(^^;
仲間と話してたり、眠ってたり。2時間半なんて、あっとゆー間ですよね、きっと。

一番早く感じたのは、新幹線を楽しんでた三太くんではないでしょうか(笑)
彼は到着ギリギリになっても帰ってこなくて、彷徨くんが渋々探しに行く。なんて裏小ネタがあります。
三太くんの行きそうな場所はきっと、保護者な彷徨くんにはお見通しで、すーぐ見つかりそうですネ☆

では、また次回でお会いできることを願っております。

さ、未夢ちゃん!
これからが大変ですよぉ〜!

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