恋人ごっこ!?

休憩ベンチの温度

作:

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「あ、見つけた見つけた! あそこのベンチ!」
「なんか未夢ちゃん…疲れてない? 乗り物酔いでもしちゃったかな? あ〜〜〜見えなくなっちゃった!」
「もーちょい、先……あぁっ、止まっちゃった。 綾、行こっ!」
ひょいっと白馬から飛び降りたななみは、慌てて安全ベルトに絡まった綾に構わずメリーゴーラウンドの降り口へ向かってしまった。

「あ〜〜〜ん、ななみちゃん待ってよぉ〜!!」



◇◇◇


「遅いな…」
「………」
賑やかな遊園地の一画は、そこだけが別世界のように沈黙に包まれていた。彷徨の言葉に未夢の返事はなく、たくさんのBGMの中に無音がおりる。
「…俺、その辺見て…」
「……!」
解くタイミングがなく、なんとなく繋いだままだった手の力を抜いて立ち上がろうとすると、それまで力なく呆けていた未夢の手にくっと意が宿った。
行かないで、と言うように不安げな瞳。
「―――…わかったよ…」
先程の反省が胸に重く残っていた彷徨は、揺れる未夢の視線に負けてすとんと腰を下ろす。
沈黙の中でずっと綾のあのノートをリピートしていたけれど、どんな甘いセリフも行動も、現状にしっくりとはこなかった。


「……え…?」
足元ばかりを目に映していたら、薄い自分の影に隣から腕が伸びた。未夢が驚いてそちらを見上げると、そんな未夢に驚いたような彷徨の瞳。
「…え、あ…悪い」
一瞬だけ髪を撫でた手。小さく口内に籠った謝罪と共に、目線と、両の手を。未夢から離してしまった。
外気にさらされた左の手のひらが一気に冷える。手袋越しでも、未夢の滑らかな髪の感触は右の指先に残った。
「……その、…ホンモノの彼氏なら、こーゆーとき、何してやれば、…いーのかなって……」
伸ばした手は、ノートの受け売りではなく、抑制しきれなかった感情。
アトラクションに並ぶカップルたちに視線を移して、言い訳するように口ごもる。その言葉さえもちゃんと言えなくて、濁した語尾に蓋をするように口元に手を上げたら、未夢の甘い香りがした。

「ありがと……」
冷たい頬がほんの少し熱を持った。こちらをチラリと見て、ついっと人混みに目を戻した彷徨の小指の先をきゅっと掴んで、未夢はクスクスと笑う。その頭上で、小さな白い耳も揺れた。
(来てくれただけで、充分なのに…)




「お〜っとぉ! まさかの未夢の方がリード!?」
「…舞子、覗き見は趣味悪いよ? 冷めちゃうし、行くよ」
「えへへ…はぁ〜い」
紘斗にたしなめられて、口先を尖らせた舞子。未夢たちからは見えない植樹の隙間を抜け出して、渋々足をそちらに向けた。


「未夢ぅ〜! どぉ? 落ち着いた?」
両手に持っていたミルクティーのカップの片方を差し出す。さっきの笑顔とは違って、ちゃんと笑ってくれた未夢が嬉しくて、ぴょんっと隣を陣取った。
「うん、もう大丈夫。 ありがと」
「ごめんね、舞子が自分の好みで行っちゃったから」
コーヒーを受け取る彷徨の横で、肩をすくめた未夢が首を振る。
「舞子はいつだってそうですから。 慣れっこですよぉ〜」
「むぅ〜〜〜何よぉ、ふたりともっ! じゃ、次は未夢の行きたいトコ行こっ! ね? 時間ギリギリまで、遊ぶぞぉ〜!」
「うん! 彷徨、行こっ」
拳を上げた舞子につられて、未夢も立ち上がる。自然と手を伸ばしたら、ひとまわり大きな手に包まれた。
少し力を入れた彷徨が、本当に大丈夫か?と言いたげに目を合わせる。交錯した視線と同じラインに、繋いだ手。

(……わわっ)
自分の行動に気付いた未夢は逃げるように腕を引っこめようとしたけど、彷徨がさせてくれない。
「…行くか。 どれ乗るんだ? 未夢」
「―――う、うん! えっとね〜…」

パンフレットを覗く舞子と並ぶのは変わらないけど、その手の分だけ、彷徨に意識を向ける。
握り返される度に、そっと見上げて。触れているせいか、二人きりでもないのにドキドキが増す。
(デ、デートって…こんな感じなのかなぁ〜)
そばに感じられることが、嬉しい。同じ時間を過ごすことが、それを楽しくさせる。未夢にこの日一番の笑顔が咲いたのは、誰もがわかった。
咲かせた本人だけは、そうさせるのが自分であることには気付いていないけれど。




こんにちは!いつもありがとうございます。
はわわわわ!設定からすでにひと月くらい過ぎてます。やばしやばし。

無理やり統一してきたタイトルもついに登場人物切れ(笑)
次くらいからは小道具の擬人化が始まるかもしれません(^^;

なんとか完結は出来そうですが、やっぱりプロット上げて先に目処つけとかないと、小説としてのクオリティは微妙です(-"-;
元々低レベルなんですが(苦笑)
今年の目標にひとつも近付いてないです。まだまだ今年は長いですが…。
次の長編はマトモに順を追って書こうと思います。

何はともあれ、まずはこの作品の完結を目指します。少しでも質を挽回できるように頑張ります。
次回もよろしくお願いします!

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