作:杏
「……未夢っ」
――――ドンッ
「…っ、彷徨のばかぁっ!」
少し脅かしてみようと、離れたところで様子を見ていた彷徨が未夢のそばに駆け付けると、胸に鈍い衝撃。
両手に拳をつくった未夢がそれをぶつけていた。
「…ってーなぁ! おまえが怖くないってゆーから…」
「こんなところで、ひとりにしないで…っ」
俯いたまま、落とした右手の指先で彷徨の袖を小さく掴む未夢。数センチしか変わらないのに、未夢が急に小さく見えた。
「………ごめん」
あまり見せたことのない、か弱げな未夢の様子にさすがの彷徨も戸惑う。
いつもの言い合いならポンポン言葉が出るのに、こんなときの気のきいたセリフの引き出しは持ち合わせていない。
「…未夢、出よう。 な?」
見かねてリタイア出口を示した半魚人に気が付き、そう言って未夢の手をとるのが精一杯だった。
「未夢っ! だいじょーぶっ!?」
「……まいこ…?」
外に出るなり、二人に駆け寄ってきた舞子と紘斗。
「よかった、一緒で。 すごい叫び声聞こえたから、舞子が戻るってきかなくて…」
未夢の悲鳴はすでに出口を通過していた舞子たちにも聞こえていて、引き返そうとした舞子が紘斗と係員に止められていたところだった。
「うん、大丈夫。 ちょっと、はぐれちゃって…」
「そっか…ありがと、彷徨くん。 未夢、見つけてくれて」
「…いや、俺が目を離したから……」
未夢の空いた手をとってニコリと見上げる舞子から、彷徨はバツが悪そうに視線を外した。苦い思いを隠すように、仏頂面をつくる。
「ちょっと休憩しよっか? 何か飲み物買ってくるから、彼女、座らせてあげて」
「は、はい、すみません…」
手近なベンチを指差した紘斗は、舞子を連れて人の波に消えてしまった。
会釈で見送った彷徨が、未夢をベンチに導く。舞子に笑顔を見せていた未夢は、どこかぼんやりと引かれるがままだった。
(………何しに来たんだ、俺は…)
喜んで二つ返事、という訳では決してなかったけれど。フリであっても、どこか楽しみにしていた今日のデート。
気を張っていたのに、未夢の隣は舞子にとられ。拍子抜けしたのと、残念な気持ちと。少しだけほっとした気の緩みが、余計な悪戯に繋がったのだろうか。
未夢の怖がりはよく知っているはずなのに。
未夢の望む、恋人のフリすら満足に出来ていない自分に、無性に腹が立った。
◇◇◇
「―――ねぇ、ヒロぉ。 あのふたり、どー思う??」
「どうって言われても、なぁー…」
「あたしの予想、当たってると思うんだけどなぁ〜」
「んー……かもしれないねー…」
フードコートで長い列に並びながら、舞子は眉間にシワを寄せて腕組みをする。カウンターの上のドリンクメニューを眺めながら、紘斗は曖昧な返事しかしない。
「ヒロ! ちゃんと考えてくれてる!?」
「まぁ、まだ時間はあるんだから、じっくり様子見たら?」
「う、うん〜…」
同意が得られない舞子は、ますます難しい顔になる。
こんばんは。やっぱりご無沙汰気味になってしまってます。杏です。
今日は自分の調子とパソコンのご機嫌が上手くマッチしたようです(笑)
焦れば焦るほど、先が浮かびません(><)
明日はホワイトデー、明後日は未夢ちゃんのバースデー。
………こ、困った。。。
ネタが浮かんだら、そっちに浮気するかもしれません(^^;
ご覧戴きありがとうございました。
閲覧数もいつの間にか65000を突破。嬉しい限りです。
拍手、コメントもありがとうございます。
またお待ちしております。 杏