作:杏
「舞子たちは、いつから付き合ってるの?」
レストランで、注文したランチを待ちながら、未夢が切り出した。
「ん〜〜〜と…半年くらい?」
舞子が隣の紘斗を覗き込むと、彼も頷く。
「は、半年!? だったらもっと早く教えてくれればよかったのに〜」
「ごめぇん、未夢が遊びに来たときにでも、驚かせようと思ってたんだけどさぁ! 未夢、全然連絡くれないんだもん!」
拗ねるように口先を尖らせた未夢。舞子も同じ表情で応戦する。
(う…っ)
どうやら、舞子の方が一枚上手らしい。未夢が早々と白旗を上げて、何も言わずに肩をすくめた彷徨を見やった。
「ご、ごめん…こっち来てから、ずっとバタバタしてて…。 て、転校なんて初めてだったから、ほら、環境に慣れるのに大変で…ね、ねぇ、彷徨!」
「…そーか? 俺にはすぐ打ち解けてったように見えたけどな?」
学校生活に限らず、居候のことや、その後にやってきた騒動のこと。赤ん坊のルゥはさておき、ワンニャーも、生活環境の変わらない自分さえも、最初は戸惑ってばかりだった。
その中で、未夢は一番の順応力を見せ、いち早く今の生活に馴染んでいったように、彷徨には見えていた。
「…そ、そんなことないよ…。 わ、わたしだって、もしひとりだったら…」
(………彷徨がいてくれたから、きっと…)
あとの言葉は胸のうちに留めたけど、それでも顔が熱くなった気がして、未夢は両手を頬にあてて俯いた。
「――――…で。 そーゆーふたりは、いつからなの?」
「「……え?」」
メニュー表でわざとらしくパタパタと扇ぐ舞子が、きょとんとした未夢と彷徨を交互に見る。
「だからぁ、付き合ってどのくらいっ?」
「つ…っ!! つ……き、あっ…て……? ななな、何が…っ?」
「何がじゃないよぉ、未夢は、彷徨くんといつ付き合い始めたの、ってきーてるのっ」
未夢の熱を冷ますように風を送ってみるけど、未夢は真っ赤なまま。沸騰しかけている未夢からは返事がなさそうなので、ふと、視線をずらしてみた。
「……俺らは最近、だよな? 未夢」
「やっぱり!? うんうん、だと思ったぁ〜!」
小さく息をついて答えた彷徨に、舞子が席を立って食い付いた。
「…舞子、座って。 ほら、注目、注目」
たしなめられるように紘斗に袖を引かれて、また椅子に座る。舞子に集まった視線と目が合ったのは向かい側の彷徨。隣の未夢は…まだ熱を放ったまま、そんな視線には気付かない。
こんな様子の未夢を見せておいて、付き合いが長いなんて、言えるわけがない。どちらにしろ、そんなものはないのだから、短い方が話は合わせやすいし。
「じゃあさぁ、彷徨くんは―――…」
熱から解放されない未夢のおかげで、舞子のターゲットは彷徨ひとりに向けられた。辻褄だけを合わせながら適当に彷徨が答えていると、それにつれて未夢の顔は新たな熱を帯びる、無限ループ。
(ちょ、ちょっとやめてよぉ〜〜〜〜舞子ぉ〜〜〜〜〜っっ!)
◇◇◇
「ん――――…さすがに何話してるかまでは聞こえないかぁ…」
「だね〜」
同じレストランの、窓際の並び席。ガラスに映る未夢たちを観察しながら、耳を大きくするななみと綾がいた。
「とりあえず、未夢ちゃんがずーっと固まってるんだよねぇ〜。 あの子がずーっとひとりでしゃべっててぇ〜」
「たまーに西遠寺くんが返事を返す感じ? 彼の方もあんまりしゃべんないねー。 …すいませーん、これとこれ、3つずつ追加でー! あ、こっちのモモン丼も!」
ななみは把握できない未夢たちのデートより、美味しいランチを堪能することに早くもシフト。
高めのテーブルに顎をのせて口をへの字にする綾は、退屈そうに大きなため息をついた。
「あ〜〜〜なんかつまんないっ! せっかくふたりの恋人ごっこを次のネタにしようと思ったのにィ!」
「あ! これ、おーいしーい! 綾ぁ、食べないとあたし食べちゃうよぉー?」
「えっ!? あっ、ダメダメ〜! わたしも食べるよぅ〜」
こんにちは。いつもありがとうございます、杏です。
尾行させるかどうしようか悩んでたんですが…してるよね、きっとw
ってことで、親友コンビの登場☆
この先、活躍の場があるのかどーかはわかりませんが…(^^;
幕間の息抜き的な感じになってしましました。次は恋人らしいことをさせたいですね。
2月のお話が3月に滑り込んでしまいましたし、早めに仕上げたいと思います。
次回もよろしくお願いします。