恋人ごっこ!?

偽りの卒業

作:

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「んじゃ、またね! 未夢!」
「うん、今度こそわたしが遊びに行くね」

最寄りの駅、舞子たちを見送るホームで手を振り合う。
「…あ! ごめん、舞子…あの、約束……」
「約束? ……あぁ! いーよいーよ! 目的は達成できたから!」
「そうなの? なら、いいんだけど……?」

舞子からのお願いを忘れていた訳ではないのだけど、チャンスがなくて、果たせなかった。
満足げな顔で見上げて片目を閉じれば、紘斗も訳知り顔で口元を上げる。
二人の様子に、観覧車のジンクスでも果たしたのだろうかとふと考えてしまって、知らず頬が染まる。



『…未夢! お願いがあるの!』
『なぁに? わたしにできることなら…』
『ヒロにさぁ、さりげなく、あたしのドコがいいのか聞いてくれない?』
『えっ……? 舞子、上手くいってないの…?』
『あ、いや〜〜〜そういうワケじゃないんだけど! やっぱほら、そーゆーのって聞いてみたいじゃない!? なんなら、あたしも彷徨くんに聞いてみよっか?』
『へっ!? や、あ、あの、わたしは大丈夫!! わかったよぉ〜任せて!』
『サンキュー未夢! じゃあ、レストランででも…』


(…ホントは、彷徨くんの方聞きたかっただけで、怪しまれないようにそのきっかけ作ってもらったなんて、…言えないよね〜あははは〜〜〜)
舞子の笑顔の理由はジンクスなんかではなく、いびつに膨らんだ彷徨のコートのポケットと、未夢と彷徨の距離。
手を繋いでみせるのは最初と同じだけど、観覧車を降りてからは、その距離感がそれまでとはまるで違った。




――――プルルルルルル…

「じゃあ、彷徨くん! 未夢のこと、よろしく!」
発車のベルにかき消された舞子の声は、彷徨には聞こえなかったけど。強く瞳を合わせた舞子から、その意は感じとった。
声にはしない、けれど。
繋いだ未夢の手を僅かに引き寄せて、意志を返す。
「ひゃ…! ちょ、ちょっと、危ないじゃないっ!」

遮断されたドアの向こうで、慌てる未夢が叫んでいるのがわかる。クスクスと肩を揺らす舞子の頭に、紘斗の手が乗せられた。

一組のカップルが、線路の先へと離れていく。
ホームに残されたカップルが、それを見えなくなるまで見送る。



「あーあ、行っちゃった…」
無事にダブルデートを終えて、ほっとした未夢が解こうとした手を、彷徨は指を絡めて繋ぎ直した。
「俺らも帰るか」
「……っ、う、うん…」
「どーした?」
「あ、あの、手……」
「恋人ごっこは終わったんだろ?」
「〜〜〜〜〜っ」
離して、とは言えなかった。離さないでほしい、けど。


「…来月、また来ような」
「えっ?」
「おまえの誕生日、な?」
「―――ホント!? じゃー今度はルゥくんたちも一緒にっ」
冷たい風の抜けるホームに、ぱっと明るい笑顔が灯る。瞬間、彷徨が脱力したのは言うまでもなく。

「…ばぁか、ふたりでに決まってるだろっ」
「………へ?」
「今度はちゃんと、恋人同士だろ?」
絡ませた手を見せつけるように目線まで上げる。その手と言葉に未夢が湯気を上げるのも、やっぱり言うまでもなく。


「――覚悟してろよ?」

未夢には届かなかった言葉に、漆黒の夜空を廻る大輪の花がピカピカと返事をする。
見上げたそれに勝気な瞳をぶつけて、それから、ため息。

(ひと月も待てってか…長いな……)


fin.


いつもありがとうございます。遅くなりましたが、無事に完結致しました。
おまけ、書きますけどねっ!!(たぶん4月に入りますが…)
誕生日デートは……、みなしゃんのご想像にお任せしますm(_ _)m
たぶんありきたり過ぎて、お話にはならないと思うので(苦笑)

裏設定いろいろ考えてたんだけど、ほぼ使えなかった…。
反省点がいろいろあるお話になりました。
次回作はきっちりやりたいと思います。

ご意見ご感想、リクエスト、アドバイス、どしどしお寄せくださいまし。
ありがとうございました。

2014.03.28 杏

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