作:杏
「―――いひゃっ!?」
ぎゅっと目を閉じたら、不意につねられた頬。その指先からは何かを堪えるような震えが伝わった。
「……っの、馬鹿!!」
痛い、もう一度そう訴えようとした次の瞬間、ゴンドラが揺れんばかりの声で怒鳴りつけられた。
その意味がわからない未夢は、目を見開いて至近距離の彷徨を見る。何度瞬きをしても、怒っている彷徨しか映らない。だけど、未夢には特に悪いことをした覚えはない。
「おまえは! 彼氏のフリしたくらいで簡単に男にキスさせるのか!?」
「…へ?? 何のはな…」
「俺、着いたときに言ったよな?」
『今日は恋人同士なんだろ?』
「ちゃんと聞いたよ、小西やワンニャーから」
組み上げた脚の上に肘をついて、窓の外に顔を向けた。一番高い所を通り越したゴンドラが、下からの光で少しずつ明るさを取り戻しつつある。
手のひらに乗せられたその横顔は、怒っているというより、拗ねているような。
「…な、なによっ、知ってたんなら、試すようなことしなくても…」
「おまえが言わなかったのは事実だしな」
「……っ! ちょーっと言葉が足りなかっただけじゃない! 何をそんなに根に持ってんのよっ、子供みたい!」
最初に言われたことの意味はイマイチわかっていないけど、とにかく自分がちゃんと言わなかったことへの怒りだというのはわかった。
それでも、売られたケンカを買ってやろうと言わんばかりに、ついつい握った拳が熱を持つ。
「子供じゃねーから考えるって言ったんだろ! 俺が無駄に悩んだ時間、返せよっ」
「わたしだって、なんて頼めばいーのか悩んだわよっ!」
こうなってはいつもと同じ。未夢と彷徨の乗る小部屋は、ジンクスを実行しに来たカップルばかりの周囲のそれとは全く異質の熱さに包まれた。
「…そもそも、友達騙すようなことしないで、ひとりで来ればよかったんだろっ」
「―――だ、だって! 舞子がダブルデートなんてゆーんだもん! せっかくデートするんなら、彷徨が……!」
言い合っていても、ちゃんと言葉を選んでいる彷徨と違って、未夢の口から出るのは言い訳にもならない言葉ばかり。
売り言葉に買い言葉、勢い任せ。その末に出てしまった、本音。
自身が噤んで呑み込んだ声に驚いて、未夢は慌てて彷徨を見る。聞き逃してはくれなかったようで、自分と同じように目を見開いた彷徨。
固い熱が静かに溶けた。
「……あ、や、なんでもないっ! 今の、忘れてっ」
自分を凝視したままの彷徨からパッと視線を外して、パタパタと両手を振って取り繕う。何もない室内の隅々まで視線を泳がせた。
「…なぁ未夢」
呼びかけると、未夢の肩に僅かに力が入った。動きを止めただけの左右に振っていた手は、次の言葉を拒絶しているかのように二人の間に並んでいる。
「なんで、俺を選んだ?」
「な……なんでって、言われても…………っ」
沈黙の5秒。
喉が渇く。ゴクリと、僅かな唾液と飲みこんだ感情。対照的に汗ばむ手のひら。
「………わぁ…っ」
この雰囲気に合わない感嘆の声を輝かせたのは、未夢。
「6時、か…」
つられて彷徨も、表情を和らげる。ゴンドラを明るく照らしたのは時計塔の鐘の音。園内に色鮮やかなイルミネーションが広がった。
「――――せっかくデートするんなら、…好きな人とがいいなって、そう、思ったから……」
頬を緩めた未夢が見下ろす先を同じように目に映していたら、その視界の端で未夢の唇が小さく動いた。
「…彷徨が、……好き、だから…」
そちらに顔を向けると、未夢は窓に映った彷徨の動きに気付いて、自分も向き直る。
「…あっ、ご、ごめんね。 急にこんなこと言って…あ、あの、今までどおりでいいの!
何も望んでないから、その…わ、忘れちゃってもいいから……」
(もう少しだけ、フリでいいから…)
―――このデートが終わるまでは、恋人でいさせて―――……
こんにちは、杏です。この1話で、もーちょっと進む予定だったのですが…イイ区切りがこの先になくて、ここで。
次で終わるかな!?どうかな!?って感じです。(^^;
この観覧車、頂上までの半分と残り半分の速度がえらく違うのではないかと思います(笑)
このお話の中で、今回の出来は自分の中でまずまず♪
ちょっと今、無駄にテンション高いですw
展開的にも書いてて楽しかったところだからかも。
気になるのはスタイルがだんだんと変わってきて、えらく隙間(改行)が増えたこと。
字数でこのくらいってのは決めてるんですが、行数はわかんないんだよねぇ〜(−▽−;
特にガラケー、スマホでご覧のみなしゃま、長かったらすみません。。
ご意見、ご感想、お待ちしています。ご覧戴きましてありがとうございました(^O^)ノシ