恋人ごっこ!?

番外 隠されたメッセージ

作:

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「「ただいま―――」」

ダダダダダダダッ

「お帰りなさい、彷徨さんっ! 遅いじゃないですかぁ〜〜〜〜!
 わたくし、くたびれましたよぉ〜〜〜〜〜!!」
「あぁ! お疲れさま、ワンニャー」
出迎えたワンニャーが彷徨に縋りつくと、未夢が察して声をかけた。
「……? なんの話だよ?」
ワンニャーの嘆きっぷりに少々引き気味な彷徨は、首をかしげて訊ねた。とりあえずワンニャーを引き剥がして、靴を脱ぐ。

「どこにあるの? ワンニャー?」
「台所のテーブルに山積みですぅ〜」
彷徨の質問には答える気がないのか、主語のない対話で通ずる二人は、ワンニャーの示す台所に向かった。
「………。 なぁ、一体なんの…」
「見ればわかるわよっ」

帰り道は繋いだ手をずっと意識して、一言も話そうとしなかった未夢。玄関を開けた途端に普通に戻ったのはいいのだけど…なんだか怒っているような。
台所に入った彷徨と入れ違いに、「お風呂入ってくるね」と背を向けてしまった。

「もう、ずーっとチャイムも電話も鳴りっぱなしで、ルゥちゃまもお昼寝出来ずにグズってしまいますし…」
愚痴るように今日の報告を始めたワンニャーが指差したのは、チョコレートの山だった。
「……あぁ、今日ってバレンタイン…」
「そうです! そのばるれんたりんとかゆーイベントのおかげで、わたくしが止め処なくやってくる女性たちの対応を…」
「…お、お疲れ、ワンニャー! これ、食べちゃっていいからさ、サンキューな!」
「―――いいんですかぁ!? で、でも、彷徨さんに向けられたお気持ちをわたくしがいただく訳にも…」

「…俺は欲しいヤツひとつあれば十分だし。 とゆーか、俺がうちにいたらコレ全部受け取らなかったし、気にすんなよ、な?」
「は、はぁ…では、遠慮なく…」
逃げるように台所をあとにする彷徨の一言。そのときは何気なく聞いていたものの、ワンニャーは後々その意味に、自身の希望する妄想を重ねるのだった。



「ふぅ…」
(わかってたことだけど…あんなにチョコくれる子がいるんだ…)
浴槽に身を沈めながら、頬が膨らむ。予想済みのことではあるけれど、やっぱり面白くないというか。
彷徨は何も悪くないのに、素っ気ない態度をとった自分が可愛くないな、と思う。
(うぅ〜〜〜〜〜〜モヤモヤするぅ〜〜…ヤキモチってゆーのかなぁ、これ…)


『―――なぁ、キスしていい?』
未夢の告白に、同じ思いを告げてくれた彷徨は、あの小さな密室でそう囁いた。
『や、だ、ダメ…っ! だ、だってっ、今わたし、真っ赤だもん〜〜〜』
そう言って両手で顔を覆ってしまった未夢に、観覧車でのキスは拒まれた。
彷徨の中で上りかけた熱が、行き場をなくして身を潜める。
『…わかってるって』
息をついてポンと頭を撫でた彷徨が、その肩に未夢の頭を引き寄せた。髪が触れた首筋が、自分と同じ熱を持っていたことは、知っている。

(キス……してたら、こんなに不安じゃなかったのかなぁ…)
無意識に指先で撫でた唇。
あのまま、もしも…と考えたら。湯船に沈みたくなる恥ずかしさに襲われた。



◇◇◇

(…あいつ、妬いてんのか?)
チョコレートの山を目にしてから、態度にも言葉にも棘。
風呂場に行かれてしまっては追いかけることもできず、居間で未夢が上がるのを待った。
ポケットから出した白い箱をじっと見つめた。華やかなラッピングのものも、もっと高価なものも、時間と手間をかけた手作りだって、台所にはたくさんあるだろうけど。
遠慮がちな小さなリボンで括られたそれが、彷徨にとっては何よりも欲しかったもの。
売られているものだから、同じものは他にもあるけど、“未夢からの”と付くことに大きな意味がある。

「……彷徨? お風呂、あいたよ」
「…あぁ、うん…」
「………もっと美味しそうなのあるんだから、そっち食べたら? 一日持ち歩いたから、崩れちゃってるかもしれないし」
口先で小さく音にした未夢は、廊下からこちらに寄ることもなく、目も合わせずに自室に向かった。
「おい、未夢…っ!」
立ち上がると同時に、何かがひらひらと箱から舞い落ちる。また追うタイミングを逃してしまった。
落ちた紙きれを拾った彷徨は、大きなため息をついた。

「これ……。 未夢―――…」






(………彷徨のせいじゃないのに…)
「ホント、可愛くない…」

「……未夢? いるんだろ?」
灯りもつけず、自室の壁にもたれて小さくなっていた未夢。抱えた膝からそっと顔をあげると、障子に彷徨のシルエットが写っていた。
「…な、なにっ…?」
「開けていいか?」
「だ、ダメ……っ!」
思わず拒否。今は合わせる顔がない。
「…顔見て話したいんだけど」
「……ご、ごめん、明日じゃ、ダメ……?」

(あ……)
彷徨の仕草なら、障子越しでもわかる。ため息をつかせてしまった。
さっきからチクチク痛み続けている胸が、ズキンと鳴った。
「――このカードに、返事したかったんだけど…じゃあ、明日な。 おやすみ」


「―――ま、待ってっ」
去ろうとした影を追って、障子を開けたときには、何故だか涙が溢れてきていた。振り返った彷徨があまりに優しく笑うから、余計に涙腺がおかしくなる。
座り込んだ未夢の傍に、彷徨も膝をついた。
「…何泣いてんの」
「わ、わかんないもん…っ」
子供みたいにしゃくりあげる未夢の頭を、ルゥをあやすように撫でる。
「子供扱い、っしない、でっ」
「…充分、子供の泣き方だけどな」
ふっと吐息をもらした彷徨の口元は楽しそうに見えた。反撃に出たいけれど、この涙腺では反論できない。
「…まぁ、子供はこんなカード書かないか。 なぁ、未夢?」
未夢の視界に突き出されたのは、チョコレートの箱に挟んだメッセージカード。

“to KANATA from MIYU”

「…この意味、ちゃんと知ってんの?」
「………」
覗き込むように訊いたら、指差したカードの隅から未夢は目を泳がせた。
「……じゃあ、俺にも返させて」
「や、やだ、恥ずかし…」

「もう聞かない。 自業自得―――…」




ジンクスとは違うけれど。
未夢の誕生日を待たずして、未夢の唇を手に入れた彷徨。

カードの隅には…


×××


こんばんは。おまけ、勢いで書き上げました。
書いてたらいつもように方向性が変わっていき…。。
ワンニャーの苦労と、観覧車での飛ばしたその後を書ければよかったんですが、こんなんになりました(笑)
とっても遅いバレンタインですみません。
バレンタインにしちゃおうと思ったのも、バレンタイン間近にネタがなくての路線変更だったり…(^^;

次回作は…いくつか考えてますが、上手くいきそうなのから仕上げたいと思います(^^*
どれも途中で止まってます。あははは〜(−▽−;
最後までお付き合い戴きまして、ありがとうございました!

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