朱に映える笑顔

若葉色の面影

作:

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なんとか駅を見つけて、そこから未夢の記憶だけを頼りに、未来の実家を探し始めた未夢と彷徨。
「…なんか、小さい頃と変わってないんだよね…。 前に来た時の方が、駅前の感じとか、建物とか。 変わったなーって思った」
「前って、高校んとき?」
「うん…」
「確かに、なんとなくだけど…すれ違う人の服装とか車とか、ちょっと昔って感じするもんな」
未夢に行く道を任せた彷徨は、ゆっくりとした歩調に続きながら、見えるものからその時代を推測する。
気になったのは、自分たちの恰好がまるで注目されないこと。



「あ! ねぇ彷徨! テレビテレビっ!」
未夢が指差したのは、“セール!”の文字が躍る電器店。周辺を見渡していた彷徨の手を引いてガラス越しに見たのは、ウインドウに並べられた古めかしい新品のテレビ。

「…あぁ、そっか」
「? 何が?」
「“今日”、1月15日だって」
「…うん?」
ピタリと両手をガラスに付けたまま、隣の彷徨を見上げた未夢。テレビを指差した彷徨が言ってることは見ればわかるけど、言ってる意味がわからない未夢は、しかめっ面で小首を傾げた。
「俺らが中学生くらいんときって、15日が成人の日だったろ?」
「………そーだっけ?」
きょとんと目を瞬いて、更に首を傾けた。

「…そ、それでっ!? 何がそっか、なのよっっ?」
呆れて、おまえなぁ…とため息をつきそうな彷徨の視線にはっとした未夢は言いながらくるりと背を向けた。いつもなら足早に歩いていくところだけど、今はそうはいかない。
髪飾りと散らした毛先を足取りと同じリズムで跳ねさせながら、ちょこちょこと幼い子供のように歩く。

うさぎのような可愛らしい姿に、思わず頬が緩んだ。
「こんなカッコの俺たちが注目されないのは、なんでかなーと思って」
未夢がわかるかわからないかのラインで謎解きをして、大きなリボンを背負った未夢を、彷徨はゆっくりと追いかける。



◇◇◇


「…確か、この先を曲がって、3件目…」


「――――ミキ!?」

「……え…?」
交差点を曲がったところで、後ろから大きな声。
それとともに、バサッと何かが落ちる音がして、二人は振り返る。
声の主であろう中年の女性がひとり、立っていた。足元にはスーパーの袋。その中から、みかんがいくつかコロコロと転げ落ちる。
「…ミ、…あ……」
人違いと気付いたのか、一旦は目を伏せたその女性の視線は、もう一度、驚いたように未夢に向けられる。
散らばったみかんに向かおうと、するりと未夢の手をといた彷徨は、未夢が小さく呟いた一言を聴き逃さなかった。

「おばあちゃん……」






「…あ、ありがとう…。 ごめんなさいね。 娘と同じ柄だったの、…あなたの、振袖」
彷徨が拾い終えたみかんを渡すと、女性はそう笑いかけた。
「そう…だったん、ですか…」
未夢も笑顔を返すが、どこか寂しそうな、悲しそうな笑顔に、彷徨の目には映る。
(……?)

「未来は、…娘は行かなかったのよ、成人式。 あなたの振袖はいいわね、ちゃんと出番をもらえて…」
「………」
眉を下げた笑顔は、娘を想う母の笑顔だった。これまでに何度か、彷徨も同じ笑顔を未夢の母、未来に見たことがある。
笑顔の種類だけではなく、口元の上がり方や、眉の形、その雰囲気。どれもが、未来と同じ。

「きっと、いつかきますよ。 娘さんの振袖にも、…出番。 …な?」
隣で言葉をなくしていた、彼女の面影をも残す未夢に助け舟を出す。

目を丸くした未夢が大きく頷くと、未来の母はありがとうと笑った。





こんにちは〜(^^*
いつもありがとうございます!

今日中に終わらせる予定だったのですが、高校サッカーに夢中な今、指が全く進みませんw
いつもは特に興味を示さない私ですが、この試合は面白い!
サッカー詳しくないけど面白い!!
成人式ネタ、ちょっとばかり遅刻しそうです(^^;
実はこの先、詰ってるのですが……。ど、どうにかなるよね!?
頑張ろう……。

若者に負けじと私も頑張ります!次回もよろしくお願いします。



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