朱に映える笑顔

長年の付き合い

作:

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「……そういえば、ソレ」
「ん??」
「…似合ってんじゃん」
「……へ?」
小声でボソリと言った彷徨の言葉を聴き逃した訳ではないのだけど。
「えっ、なに??」
「なんでもね。 …さぁ、今回はどこだー?」
「あっ! はぐらかした! ねぇ何なに〜!?」
「二度と言わねーよっ」

べっと舌を出した彷徨は、キョロキョロと辺りを見渡して、歩き出してしまった。
ぷぅっと頬を膨らませた未夢も、彷徨が背を向けた頃には嬉しそうに顔を綻ばせた。彷徨が振り向くのを待って、足早に追いかける。
「…彷徨も!」
「なに?」
「似合ってるよ、袴姿!」
大きな袖に絡みつくように腕をひっかけて、見上げて。ニコリと笑った。
彷徨がその小さな手に、当たり前のように指を絡ませる。

「袈裟と大して変わんねーだろ?」
「え〜違うよぉ、全然!」
大学に入ってから少しずつ宝晶を手伝うようになって、最近ようやく身に馴染んできた袈裟姿。同じ着物でも、凛とした背筋のそれとはまた違って、モノトーンの中に華がある。
(かっこいーよ、なんて。 なんか悔しいから、言ってあげないけどっ)



「時期は変わんねーみたいだけど…公園っぽいなー」
「う、うん…。 みんなを巻き込まなくてよかったですなぁ〜」
さくり、さくり。草履の足で、未夢の歩幅に合わせて、ゆっくりと雪を踏む。
「けどさ、せっかくなんだから、三太くんみたいに色のあるの借りればよかったのに」
「……あの色はないだろ」

「誰も彷徨に金を着ろなんて言ってないじゃない。 濃紺とかグレーとか、落ち着いた色なら似合うと思うんだけどなぁ〜」
「俺はおまえに―――……なぁ未夢、あれ。 道路の看板。 こっから見えるか?」
「えっどれどれ? ん〜〜〜…」
おそらく唯一と言ってもいい、未夢が彷徨に勝る部分。

「ひらおかちょう、にちょうめ…?」
「平岡町…ってどっかで……」
視力。出会った頃はそれも差はなかったはずだが、読書量を考えれば、彷徨の視力だけが落ちても何の不思議もない。
未夢がこれまで目を通した文字はきっと、彷徨が1年で読む分ほどにもならないだろう。
ましてや最近は、深夜、未夢を起こさないようにと、机に置かれた小さなスタンドライトだけで本を読むことも多い。当然、宝晶が不在のときに限る、と但し書きはつくけれど。


「……あ」
「? 知ってるの?」
何か思い当ったらしい彷徨を、きょとんと見上げる未夢。
「…おまえもたぶん知ってると思うけど」
「???」
彷徨任せで、考える気もなかった未夢の頭は突然動き出してはくれず、疑問符だけが浮かんだ。
「母さんの実家、確か三丁目。 ってことは、おまえの」
「あ! おばあちゃんちだ!」
だろ?と言いたげな目で、手を打ってぱっと輝かせた未夢の顔を見やる。
「あとは時代だな。 見た感じ、俺らの時代とかけ離れてはなさそうだけど」
「…行ってみる? ママの実家」
「わかるのか?」
「た、たぶん……駅とか、わかれば。 …ってゆーか、ここに居た方がいいって選択肢はないの?」
「同じ場所に出た試しないだろ?」
「………で、ですなぁ…」
即答した彷徨の言葉に、これまでを思い返して妙に納得。この数年、二人で何度となく出会ってきたから、慌てることもなくなっていた。

「どんなとこ歩きまわってても、何故かうまくそこに出てくれるのが有り難いけどなー」
「あはは……っくしゅん!」
「…ほら、風邪ひく前に、とりあえず何か手掛かり探そーぜ」

はぁっとかけた息より、彷徨の手が未夢の冷たい指先を温める。
繋いだのは片方の手だけなのに、全身がほわりとあったかくなるのを感じた。

(…彷徨と一緒だもん、ね)
道標はないけれど、きっと今回も大丈夫。



こんばんは、杏です。
いつもありがとうございます♪
第2話です。んふふふふ〜やっちゃいました、すっとばし。
突然ですが、二人きり。何が起こったかは、言わずと知れたアレですが。
アレは私のお話では二度目の登場になりますが、アレを出すとイキナリ難易度が上がる気がする…。
上手くまとまるかなぁ…。不安。

あぁ、そろそろ拍手御礼も書かねば…(><)
年明け2日に、のべ閲覧数50000突破致しました。ありがとうございます。
ネタは決めてあるんです!でも時間が…。
遅筆も改善したいなぁ…。

次回もよろしくお願い致します!

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