作:杏
「ほらほらルゥくん! 海だよぉ〜」
「キレイですねぇ〜」
初めての海に驚いたのか、声もなくポカンと景色を見るルゥに三人で笑った。
『ねぇ、わたしも行っちゃダメ?』
朝食をとりながら、しばらく考えていた未夢が彷徨に切り出した。
『今日は何にも予定ないし、檀家さんのお家に行ってる間は近くで時間つぶしてるから』
未夢にそう微笑まれたら、彷徨がノーと言えるはずもなく。
『ね、せっかくだからみんなで行こうよ!』
二人で出掛けることに表現しがたい熱を感じていると、それはあっけなく未夢に冷まされた。
『いいでしょ? 彷徨っ』
…やはり、ノーとは言えず。
冷たい風の吹く、海沿いの道を歩く。
ルゥが冷えないようにしっかりと抱く未夢。その未夢を風から守るように、彷徨とみたらしさん姿のワンニャーが両サイドに並んだ。
「さすがに寒いね〜。 ルゥくん、大丈夫?」
「抱っこ、代わりましょうか? 未夢さん」
「んーん、ルゥくん軽いから、平気。 抱っこしてるとあったかいし、ね〜?」
手を出すワンニャーに首を振って、ルゥに笑ってみたけど、返事はない。
「ふふっ、キラキラの海に夢中だね〜。 ねぇ彷徨、まだかかるの?」
「……あぁ、檀家さんちはそこの道入れば、すぐのはずなんだけど」
あの包みを抱えて地図を見る彷徨はついさっき過ぎた交差点を指す。それでも足は真っ直ぐ。
「? じゃあどこか寄り道?」
「何にもないと退屈だろ? …ほら、あの道曲がれば」
海沿いを逸れてしまって、ルゥが赤い頬を膨らませたのも、ほんの数分。
彷徨が案内してくれた場所に、にぱっと笑顔がこぼれた。住宅地の中の小さな公園。遊具はペンキが所々はげているブランコと滑り台だけ。
小さい頃に見たアニメに出てきそうな、“空き地の土管”らしきものが転がっている。寒さのせいか、寂れているせいか、人っ子ひとり居ない。
「公園ですぅ! よかったですねぇ、ルゥちゃま〜」
「早めに戻るようにするけど、あそこのばーちゃん、話し出したら長いからさ。
ここでいい子にしててくれよ、ルゥ」
「あーいっ! ぱんぱっ!」
未夢の腕の中のご機嫌なルゥの髪を撫でて、彷徨は来た道を戻ろうと片手を軽く上げた。
「……? 未夢?」
「わたし、ここ知ってる―――…」
「え…?」
ルゥを抱えたまま、未夢の瞳はずっと公園から離れなかった。無音の風にのせられた、今朝見た夢と同じフレーズ。
古い土管のあたりを見つめたままの未夢から、彷徨も目が離せなくなる。
「未夢さん…?」
「まんまっ、まんまぁっ!」
「……あ、ごめんっ」
冷たくなった顔にルゥの温かい手が触れて、未夢はようやく我にかえった。不思議そうな彷徨たちに慌てて笑顔をつくると、その小さな手をとって、彷徨に向かって振らせる。
「何でもないよ! ほら、行ってらっしゃいっ!」
「お、おう…」
半ば追い出されるような形で見送られた彷徨は、その意味を訊くこともできないまま背を向けた。
いつもお読み戴きましてありがとうございます。
みなしゃんの拍手、コメント、大変嬉しく、次回への励みになっております。
重ねて、感謝いたします。
『ぷれしゃす・メモリー』第2話!
ど、どうでしょう…そろそろネタバレしてそうですね(^^*
これの略称に困りましたw
こんなんでどぉ?ってのあったらコメントへどぞ☆
3話までは出来てますが、その先にサブタイトルを上手くつけれるのか、不安ですw
特に最終話!大事な最終話!!…どーしよう(−−;