君さえいれば

プログラム6番 昼食

作:

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賑やかな昼食タイム。

日影でのんびり、ひと休み。



「彷徨くんっ!」
「彷徨さんっ! 大丈夫ですかぁ!?」
ワンニャーたちが待つ保護者席には、未夢とななみはもちろん、三太、望、クリス。いつものメンバーがすでに揃っていた。

(何でみんな知ってるんだよ…)

余計な心配をかけたくないから、未夢だけをわざわざ、本部席に呼んだはずなのに。こんな風にみんなから覗かれるのは、慣れない。


「かなたおにいたん、いーっぱいはしったから、つかれちゃったの?」
「ぱんぱ?」
心配そうにももかが彷徨を見上げると、ルゥも隣で不安げに瞳を揺らす。
「大丈夫だよ。 ありがとな、ももかちゃん。 ルゥも」
屈みこんで頭を撫でると、二人とも嬉しそうに頬を染めた。

「かぁなぁたぁ〜〜〜生きてるかぁ〜〜」
大げさな親友は、何故か号泣しながら彷徨の肩を掴んで大きく前後に揺すった。
「く、黒須くん…」
「西遠寺くん、ホントに倒れちゃうよぉ〜?」
「オレがついていながらぁ〜〜」
「西遠寺くんが倒れたら、ボクが代わりに混合リレーに出るからご心配なく! むしろ今のうちに、大事をとってボクに任せると言ったらどうだ〜い?」

「さ、三太くん! 彷徨、死んじゃうっ!」
「お昼ごはんにしましょう! さぁさぁ三太さんも! さぁさぁさぁ! たくさんありますから、どんどん召し上がってくださいねっ!」
「わたくしも4時起きでつくってまいりましたの! ぜひ、黒須くんにも召し上がっていただきたいですわ〜」
「……へ?」
ワンニャーとクリスが大きなお弁当を差し出して、ようやくピタリと止まった三太の手から、彷徨が崩れ落ちた。
「あ、ちょっと彷徨! 大丈夫っ!?」
「…三太おまえ…あとで覚えてろよ……」
シートに伏せたままの彷徨から、最大限まで低くした、睨みつけるような声。
背筋が凍ったようにピンと背を正して固まった三太の横で、未夢が手を差し出した。
「…いい。 しばらく、ほっといて」
ほんの僅かだけ首を振って、その手を制した彷徨はそのまま背中を向けてしまった。



「先に食べてていーって…」
「じゃあ遠慮なく! いっただっきまーす!」
一番乗りで箸を出した三太。じとっと仲間の冷ややかな視線が集まっても、お構いなしだ。
「黒須くんはちょっと遠慮した方がいいんじゃないのかい?」
「えーなんでなんで〜〜!?」


「…やっぱり、辛いのかな?」
「あれは元気でもしんどいと思うよー? ガンっガン揺さ振られてたしー」

「未夢ちゃん、心配なのはわかりますけど、ちゃんと食べてくださいね。 彷徨くんに心配かけちゃいけませんわ」
ね?と未夢の瞳を覗き込んで微笑むクリス。
「うん、ありがと。 クリスちゃん」
クリスが取り分けてくれたおかずを受け取って、憂う笑顔を返した。
「そういえば、未夢ちゃん、知ってました? 三人四脚のとき」
「? なぁに?」
「彷徨くん、未夢ちゃんが走り終わるまで、団席に残って応援してらしたんですよ」
「そ、そう、なんだ…」
そう言った笑顔に、今までの威圧感はない。儚げな笑みは、寂しそうで、少しばかり羨望を滲ませていた。



走りながら耳にしていた応援の中に、その声を聞いた気がした。でも、顔を上げた一瞬では、見つからなくて。走り終えた頃に振り返っても、彷徨の姿はなかった。
すでに次の招集に行っているはず、そう思っていたから、勘違いだと思った。
いくら話していないとはいえ、たった1日のことで願いが聴こえてしまうほど、自分は彷徨に射抜かれているのかと、己の心の熱さに呆れていたのに。


「みなさん、デザートもありますわ。 プリンと、ゼリーと…」
(やっぱり、彷徨いたんだ…)
仲間の輪の中に戻った、いつもの笑顔のクリスを目で追いながら、未夢は考えていた。
(その分くらい休んどけばいいのに、もう…)
クリスから、彷徨の方へ目線を移す。
「あ、あれっ? いないっ」
「腹減ったー。 みたらしさん、俺にも皿と箸ー」

「もういいんですか?」
「大げさなんだよ、みんな…」
最初に口にするのは、かぼちゃ。全員が輪に揃って、ようやく空気が軽くはずみ出した。


「黒須くんがあんなに振ったときはホントに倒れちゃうんじゃないかと思ったけどねー」
「て、天地さん! し―――っ!!」
蒸し返すななみに、三太が慌てふためく。彷徨が忘れる訳がないのは、三太が一番わかっているけれど。出来ることならスルーしたかった話題。
「あーさっきから頭痛いのはそのせいかー。 俺、午後から委員会の役割も抱えてんだけどなー」
「わ、悪かったよぉ〜〜〜。 役割ってなんだ!? オレに出来ることなら代わってやるからぁ〜〜」
わざとらしく、芝居がかったセリフ。のせられるのは、三太ぐらい…。

「えっ!? 大丈夫なの!? 横になってた方が…」

「「「「……………」」」」

もう一人いた。疑うことなく心配そうに彷徨を覗き込む、未夢。
「み、未夢さん〜〜〜…」
「おばたんこそ、だいじょーぶ? こんなのあたちだって、ひっかからないわよ?」
「へ…?」
「あぁ、未夢っち! キミはなんて純粋なんだ! じゃあ黒須くんが委員会を、そしてこのボクが西遠寺くんに代わってキミのパートナーを…」
「え、えっと…? えっ、どーゆーこと??」

「西遠寺くん〜、頭痛のタネいっぱい抱えてそうだね〜」
「……ほっときゃいーよ、もう…」


(ホントに頭痛してきそ…)
お昼の僅かな休憩時間も、彷徨は休めそうにない。



こんばんは、杏です。
はぁあ〜〜〜〜〜やっとお昼!
総勢10人、大集合!一応、全員喋ってるはず!って、大事なのはそこじゃないんだけど…。クリスちゃんに大事な一言を言わせるが為の回です(^^;

私の下書き荒らしの犯人はだいったい、三太くん(笑)
彼が暴走を始めると、手に負えませんw
彷徨くん、振り回す予定はなかったんですが…(><)
他にも、プロットでは出る予定が、どっか行っちゃったとか。プロットの時点で、出たが為に話がおかしな方向に飛んでってお蔵入りになったとか。もぅしょっちゅう…(笑)
逆に言っちゃえば、扱いやすくてイイんですけどね〜ははははは〜。

ってな訳で次回から午後の部です!
競技が思い付かないので、きっと上手く進みます、きっと…きっと。

ご覧いただきましてありがとうございます。
コメントにお返事が出来ないのが寂しいのですが、お言葉を戴けること、とても嬉しく思っております。
みなしゃんにおっしゃって戴けた、“きゅんきゅん”出来るお話が描けるように、頑張りマス!
なんたって私も“きゅんきゅん”大好物ですから!

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