君さえいれば

プログラム5番 幕間

作:

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未夢ぅ―――見ないのぉー?

……見る…けど…



四色が交ざり合い、それぞれが自分の学年を応援する幕間の余興。
彷徨が走る頃には、女子の声援が当然のようにすべて彷徨に向くのだろうと思うと、観たいけど見たくない。
不快感が声援に比例して大きくなる。


自分ばっかり、応援して、心配して。損得で付き合ってる訳じゃないけど、割に合わないというか。
(……負けてるなぁ…)

向こう側で、第6走者がバトンを受けて走り出した。最後にトラックに出たのはタスキをかけたアンカーたち。2年生はもちろん彷徨。
障害走ゆえに、順位は激しく変動してきた。次にバトンが渡ったときには、僅差の1位。


「ね、あの子、誰?」
「若村さん? 6組の委員長で、確か〜…」
「ねー黒須くん! 若村さんって…」
「あぁ! 陸上部だよぉ! 短距離の選手で、学年じゃダントツのはず!」
「………へぇ…」



「未夢ちゃん、イライラしてるね―――」
「朝からマトモに話してもないもん、西遠寺くん不足なんだよー」
隣でなされていたナイショ話に、未夢は気付かない。眉間にシワを寄せて、瞳に力を込めて、最後のバトンパスを見ていた。


「「「きゃ〜〜〜〜〜〜!」」」
「「西遠寺くぅ―――んっ!!」」
「「「頑張ってぇ〜〜〜〜〜〜っ!」」」



「……。 ごめん、暑いし、わたし座ってるね」
まだ彷徨が最初の障害となるネットをくぐり終えて立ち上がったところ。
勝負はこれからなのに、未夢はそう言い残してテントに下がってしまった。




『学年対抗リレー結果を発表します! 1位、1年生! 2位、2年生! 3位、3年生となりました!
 続いて、中間結果を―――…』

「未夢ちゃんっ! お昼…」
『…最後に、生徒の呼び出しをします。 2−1光月さん、2−1光月さん。 至急本部席まで来てください。 繰り返します――…』

「本部??」
「なんだろー?」
「わ、わたし、行ってくるねっ!」
手足を放りだして椅子にもたれていた未夢の顔色が変わった。
「あっ、ちょっと未夢ちゃん! 荷物…!」
「あたしたちも行こう! 綾!」




「――光月さんっ」

本部のテントより手前で、未夢を待っていた水野。連れられたのは本部ではなく、救護テントだった。
「先生っ! 彷徨は…」
「気付いてたの? …ちょっと、頑張り過ぎたかな? でも大丈夫よ、行ってあげて」
未夢の背中をポンと促す。追い付いたななみと綾も、それに続いた。

簡易ベッドに、濡れタオル。片腕で目元を覆った彷徨が横になっていた。
「彷徨…? 大丈夫?」
その指先を少しだけ動かして、返事を返す。未夢はひとまずほっとして、傍らの椅子に落ちた。
「棒倒しのときにはもうおかしかったんでしょ? 何で言わないの?」
緩めた表情をまた険しくして、問い詰めるように、静かに音を強くする。

そうだったの?、気付かなかった、と見守るななみと綾が無言の会話。
「…俺には俺のラインがあるの。 へーきだって」
「平気じゃないからここにいるんでしょっ! 水筒のお茶だって、半分も減ってなかったし…。
 彷徨が倒れたりしたら、みんなが、心配……っ」


「…未夢?」
言葉を止めて俯いた未夢の頬に、彷徨の指先が伸びた。
泣かせたのかと思ったけれど、違った。目を見開いたまま、息をのむように固まっていた未夢。

「未夢? 大丈夫?」
「未夢ちゃん…?」


「…ルゥくんたち待ってるから、先に行くね」
親友たちの声と、頬に触れた彷徨の手に僅かに身じろいで、逃げるようにその場をあとにした。誰にも顔を見せないように。

「未夢! もぉっ…綾、そっち任せた!」
「おっけー!」


「…ったく、何なんだよ、未夢のやつ…」
「身体起こして大丈夫なの?」
ゆっくりと上半身を持ち上げた彷徨に、綾が水筒を渡す。
「放送聞いた途端、未夢ちゃんが西遠寺くんの水筒とタオル持って行っちゃったから…」
「大したことないし。 …サンキュ」
受け取った水筒の重さに、気がついた。
「増えてるでしょ? 未夢ちゃんがね、途中で」
「…そっ、か…」
急に大事そうに、コップを傾けた彷徨。きゅっとフタを閉めて、立ち上がった。

「もういいの?」
「あぁ、腹減ったし。 未夢、探さねーと」
「未夢ちゃんなら、そろそろななみちゃんが宥めて保護者席に向かってるよ、きっと」
自分のと、未夢の荷物を持った綾が後ろに続く。

「あ、これ? だって未夢ちゃん、西遠寺くんのだけ持って行っちゃうんだもん! 自分の荷物なんて、あのときは考えもしなかったと思うよ〜」
「…悪いな、手間かけて」
「そう思うなら、未夢ちゃん構ってあげて? 西遠寺くん不足で、モヤモヤしちゃってるから」
「……何だよ、それ…」


彷徨だって、未夢のことは結構わかっているつもりだけど。
同性だからなのか、親友というだけのことはあるのか。この二人には敵いそうにない。






どうも、こんにちは。杏でございます。
ようやくお昼になりますね。午後こそはさくさくと…いけるといいですね。
全然短編じゃないし…ふぅ。(遠い目)

反対語(?)が出たので、お題発表。
未久しゃんから戴きました、“補給”でございます。
まず浮かんだのが安直に、「水分補給」→「体育祭」。
からの〜…おっと、これ以上は最後にします。

未久しゃんからは他にもお題を戴いております。ありがとうございますぅ〜(*^^)♪
まだまだ途中ですが、お気に召すものに出来るように頑張ります!


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