君さえいれば

プログラム4番 勝利

作:

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空に突き上げた棒。

その上ならば、君が見えるはず。



「未夢ー! こっちこっち!」
「ふぃ〜〜間に合ったぁ〜」
一番前を陣取っていたななみが、テントの後ろの方を走ってくる未夢を見つけて、大きく手を振る。
水道と救護テントに寄ってきた未夢が慌てて団席に戻ってきた。
「ケガ、大丈夫だった?」
「うん! 洗ってみたら小さい傷だったし、平気だよぉ〜」

「始まるよ! 男子の棒倒し!」
「予行練習のときに予選やってたみたいで、決勝に赤と白、3位決定戦に青と緑らしいよ〜!」
「へぇ〜…」


『両団、掛け声よぉ―――い!』


『『赤団! いくぞ―――!』』
「「「おぉ――――――!!」」」

『『白団! とつげきだ――――!』』
「「「おぉ――――――!!」」」


「なっ……!」
「どしたの? 未夢ちゃん?」

バッと一斉に青い空に放られた体操着。
「ぼ、棒倒しって、脱ぐの?? なんでぇ〜〜??」
真っ赤になって俯いてしまった。
「そりゃー女子のテンションを上げるために…ねぇ?」
「うんうん!」
「あ、上がらないよぉ〜…」
両手をバタバタさせながら周囲を見渡せば、確かにさっきの200メートル走よりも、大きく、甲高い声援。

「ってのは冗談だけどぉ〜、引っ張られて首がしまらないようにーとかぁ〜」
「掴まれて落ちないようにーとか、安全対策らしいよ? 裸足なのも」
「へ、へぇ……」
綾とななみの説明に納得できるような、できないような。そこまでしてこの競技が必要なのかと、首をかしげる。

「…で、何で未夢ちゃんはそんなに慌ててるの?」
「ふたりとも何で平気なの?」
高い棒に群れる男子たちを指差して、恥ずかしそうに小さく言う。

きょとんとする綾の隣で、ななみが「あっ」と声を上げる。
「そっか! 未夢、前は女子中だったし、慣れてないんだぁ!
 別にパンツ脱ぐってんじゃないんだからさぁ、上半身くらいー」
きゃらきゃらとからかうようにななみ。目線は堂々と競技中のトラック。いけーそこだぁ!なんて、拳振り上げて応援する。

「でもさぁ、同棲しててそれもないんじゃない〜?
 西遠寺くんだって、お風呂上がりにパンツ一丁で出てきたりしない〜?」
「あーうちのお父さん、やるんだよねぇー。 よし登った! もーちょい!」
「しないしない! ってゆーか、同棲じゃなぁーいっ!!」


「「やったぁ!!」」
「え?」

――パンパンッ
『赤団の勝利!』

白団の棒の先に上っていたのは、三太と彷徨。
わぁっと周囲から上がった歓声、隣のテントからの落胆の声。




「――――彷徨…っ!」
反する声が次の瞬間、すべてどよめきに変わった。
一定の傾きで勝利は決まったが、二人が下りる前に、生徒が散り始めた下の方から力がかかり、振り落とされた。
『…だ、大丈夫でしょうか…?』
今まで力強かったアナウンスの声が、初めて不安定に揺れる。

落下したのは団席側。反対側の本部からは二人は見えていないらしい。駆けつけた補助の先生が、本部に大きく両腕の丸を送る。
棒の高さはせいぜい3、4メートルほど。それなりの運動神経をもつ彷徨と三太は、ちゃんと足から着地していた。

「びっ…くりしたぁ!」
「あのふたりでよかったよねぇ〜」
「う、うん……」

(彷徨……)






「ねぇ! みんな遅くない〜!?」
「「え?」」
「か…、男の子たち!」
次の競技が始まってしばらく。待てど暮らせど、誰ひとり帰って来ない。
「あーみんな砂だらけだから、たぶん水飲み場に群がってるよー!」
「去年もそうだったね〜。 そこらじゅう水浸しにして怒られてた〜。 ねぇ! 行ってこようよ、未夢ちゃん!」
「だね! 午前はこれで終わりだし!」
「う、うん…。 あ、待ってっ」
応援する仲間たちの中から這い出て、三人は校舎の方へ。




「あっち〜〜〜! お茶お茶〜っ!」

テントの下に猛ダッシュしてきた三太を皮切りに、続々と男子が戻ってきた。
「あ、帰ってきた」
「黒須くん、おかえりー! すごいじゃん、勝利の立役者っ!」
「だろだろ〜!? まぁ、彷徨の作戦のおかげだけどなぁ〜。 でもむこうのガードが強くてさぁ、オレも一時は…」

「さ、三太くんっ、…彷徨は?」
三太の話が途切れるのを待っていても、埒があかないことはことは周知。未夢はそれを遮って、戻る気配のない彷徨の行方を訊いた。
「あぁ、彷徨ならインターバルの招集があるってそのまま集合場所いったよぉ〜」
「インターバル…? 何それ??」

「西遠寺くんから聞いてない?」
「う、うん…」
プログラムにはそんなもの載っていなかったはず。未夢はななみと綾、三太を順に見比べながら頷いた。
「うちの名物そのイチ! 学年対抗障害物リレー! これがけっこー盛り上がるんだぜぇ〜」
「通称、委員長リレーだよぉ〜」
「委員長リレー??」
繰り返す未夢が、目をぱちぱちと瞬く。

「西遠寺くんみたいに文武両道もいれば、勉強はできるけど運動はからっきしダメーって人もいるから、面白いんだよぉ〜」
「午前の部の得点の集計するから、その間の余興みたいなもんだけどねー」
「ふぅん……?」



こんにちは、杏です。
ご覧いただけて嬉しいです。ありがとうございます。

最近はめっきりと、書けない症候群に陥ってまして…。
ノリが良いときが少ないと言いますか(苦笑)、まぁただボキャブラリーに尽きてきただけですけども。。

思うように進まなくて、何度もプログラムから見直しを計ってます。。
目標は、ちゃんとお題に辿りつくことと、甘めのふたりを描くこと!

実はそろそろ、「遠カタ」第2部の季節が近付いてるんです!
どっちも頑張ります。ありがとうございましたm(_ _)m

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