作:杏
全力疾走。確かに聴こえた、君の声。
耳じゃなく、ココロに。
トラックの脇は、生徒たちの群衆。体操着の白、四色の鉢巻。
彷徨は楕円に沿って脚を動かしながらも、目だけは無意識にその色を探していた。
赤い色の中に、垣間見えた金。祈るように自分を見る。
今までも全力だったけど、さらに加速。120パーセント。2位以下と大差だったことは、ゴールテープを切ってから聞いた。
「かぁなたぁ〜! すぐ戻るぞっ! 先輩、次のリレー出るから応援いかねーとっ!」
「おー!」
テントにはもちろん、彷徨と三太の席もある。けれどそこには、タオルと水筒が座るばかりで主はなし。
応援に競技に、二人は出突っ張り。
朝から日にさらされて熱のこもった椅子に座れるのは、未夢たちだって僅かな時間。
「…まだ時間あるかな?」
「これが終わったら、わたしたちも招集だよ〜?」
次の次が2年女子の団体競技、三人四脚。その次に2年男子の棒倒しが続くため、未夢たちの競技に彷徨の応援は、残念ながら、ない。
「5分くらいはあるんじゃない?」
「ちょっと、保護者席行ってくるね」
「ルゥくんが気になるのかなぁ?」
「違うでしょー。 ほら!」
「あぁ〜!」
「なんてゆーかさぁ…」
「「可愛いよねぇ〜」」
生徒の波の向こうに消えていく未夢の姿を見ながら、綾とななみが声を揃えて笑った。
「まんまっ!」
「ルゥく〜〜ん!」
「未夢さぁん! こっちですぅ〜」
中学生にもなれば、見に来る保護者も少ない。みたらしさんとルゥ、そしてももか。
傍目には仲の良い親子のようで、でも中学の体育祭の保護者席には少し年代が合わないような。不思議なこの三人組は、すぐに見つかった。
「ふたりとも可愛いね! 赤いハチマキ!」
「アっタリマエじゃなーい! きょうはふたりでおーえんデートなのよっ」
「あーいっ!」
小さな応援団に微笑んで、それから隣の大きな方を、横目でジロリ。
「…ちょっと、ワンニャー。 みたらしさんでそのハチマキは…」
「えぇ!? いけませんか!?」
「うん。 なんか、アヤシイ」
「だからやめなちゃいって、いったのに…」
未夢の言葉にしっかりと頷きながら、ショックで石化したみたらしさんをももかが宥めた。
「お茶、もらっていくね〜」
未夢はそれに構わず、シートの隅に置いてあった大きな水筒から持ってきた水筒に、お茶を注いでいる。
「ぱんぱっ?」
「うん、そう。 彷徨のだよぉ〜。 わたしと違って、彷徨は応援と競技で休むヒマないから…」
言いながら靴を履いて、ルゥの頭を撫でた。
「かなたおにいたん、ちゅごかったもん! いっとうちょうだったわ! さんたおじたんと、クリスおねーたんも! おばたんは…」
「わっ、わたしはいーのっ! じゃあ、わたしも招集あるから行くね!
お昼はみんな誘って来るから、ルゥくんとみたらしさんのこと、よろしくね〜」
「まかしぇて〜!」
アナウンスがアンカーの出番を伝えている。未夢は水筒と新しいタオルを持って、団席へ急いだ。
「せーのっ! いっちにっ! いっちにっ!」
三人四脚が始まった。
スピード感のある競技ではないけれど、意外と盛り上がるのがこれ。30メートル先のコーンを廻ってきて、次の組にバトンを渡す。
自由に身動きができないから、バトンを落としたり転んだりしたら大幅に遅れる、チームワークがモノを言う競技。
未夢たちは第二走者。スタート位置にスタンバイして、精一杯の応援をする。
コーンに近い方から綾、未夢、ななみ。
(真ん中って難しいんだよねぇ〜)
何度も練習してだいぶ上手くなったけど、それでも不安は募る。
「やった! 抜いたよ!」
「2位だぁ! わたしたちも頑張ろ!」
「うんっ」
どのチームも順調なリズムでほぼ横並び。スターターでは大差は出来ない。
「――綾ちゃんっ!」
内側の綾がバトンを受け取る。
「「「いっちにっ! いっちにっ!」」」
足元に集中。掛け声を絶やしたら、そこでリズムが崩れてしまう。
三人で、声援に負けない声をあげる。
(…あれ……?)
ふと顔を上げると、もうすぐそこに折り返しのコーン。
ぐんと広くなった視界に、赤団のテント。声援をくれる上級生、下級生。
(気のせいかな…?)
集中がそがれた未夢は後半、両脇のななみと綾に引かれるように、機械的に脚を動かしていた。
「クリスちゃんっ!」
「お任せくださいましっ!」
綾からクリスに、バトンが渡る。トップの青団にはピタリとつきながら、後ろとは少し差をつくった。次で逆転も、できそうな距離。
「「…わぁっ!」」
「!??」
ゴールラインを過ぎた直後、バランスを崩して共倒れ。
声はかけていたけれど、未夢の脚は動かなかった。
「いたた…ご、ごめん、ぼーっとしちゃって…」
「もぉ、未夢ぅー! バトン渡してからでよかったよぉー」
「暑いし、疲れちゃった? 未夢ちゃん」
「ううん、ちょっと…」
「未夢! ヒザっ!」
「へ? ヒザ??」
両脇の二人は咄嗟に手をつけたけど、真ん中の未夢の両手はななみと綾の腰にまわっていたために、膝から砂の地面に落ちた。
「あ……」
「大丈夫!? 救護テント行こっ!」
「だ、大丈夫だよぉ〜。 言われて気がついたくらいだし…。 今動くと目立っちゃうし、これ終わったら、洗ってバンソウコウだけもらってくるよ」
心配そうに膝を覗くななみと綾に笑いかけて、一緒に列に戻る。
(やっぱり、気のせいだったかな…?)
毎度、ありがとうございます。杏です。第3話です。
せっかくの恋人設定なのに、二人の絡みがなかなか出てこない…。。
これからです!もちょっとお待ちください!
てゆーか、すでに3話なのにまだ午前中って。
長すぎなのは、毎度のことですが。
これ以上の量はひとつに詰め込みたくないし…もっと上手く収めれるようになりたいです。。
練習あるのみ!頑張ります!