作:杏
天気予報は、ときに嘘つき。
こればっかりは予測不能。
「ちょっ、クリスちゃん、落ち着いてっ! わたしたちまだ…っ!」
「まだ…? まだってことはこれから先にはあると、そーゆーことですのねっ…!」
「や、だから、あの…っ」
「なんて……」
ここはグラウンドの一角。生徒たちは行き交うが、周辺には何もない。
モノは飛んで来なさそうだけど、何が起こるかわからない。未夢はぎゅっと閉じたまぶたに力を入れた。
「なんて……」
『2−1花小町さん、2−1花小町さん。 至急200メートル走集合場所に来てください――』
「「…………」」
スピーカーからの声が二人の時を止める。
「………あら、いけませんわ。
わたくし、次の200メートル走に出ますの。 未夢ちゃん、ぜひ応援してくださいましね」
「も、もちろんだよぉ〜!」
一拍置いて、ふわりと背中に花でも背負ったように上品に微笑むクリスが、座り込んでいた未夢に手を差し伸べた。
手を引かれて立ち上がる未夢は冷や汗モノ。それでもなんとか笑い返して、クリスを見送った。
「た、助かったぁ…」
「大丈夫ー? 未夢ぅ」
「ななみちゃん! おかえり〜…って、あれ!? 800メートル終わっちゃったの!?」
「うん、とっくに。 もーすぐ男子の1500も終わるよ?」
「え〜〜〜見逃しちゃったぁ〜…」
クリスの向かった方から、競技を終えたななみが戻ってきた。ななみの勇姿を見れなかったことに気付き、落胆する。
「で、結果はっ!?」
ずいっと迫る未夢の目の前に、ニッと歯を見せたななみがVサインを出した。
「2位!? すごーい! おめでとう!」
「もーちょっとで追い抜けたんだけどねー」
「十分すごいよぉ〜わたし絶対走れないもん〜」
二人が並んで団席のテントに入ったとき、競技を終えたピストルの音がグラウンドに響いた。
「ななみちゃん! お疲れさま〜! すごいよ〜2位! おめでとう!
1500も光ヶ丘くんが1位でね、うちの団、大幅リードだって!」
「へぇ〜すごいじゃん! 一応勝負になるとマジメに走るんだ?」
「みたいだね〜。 それでも流し目とウィンクを忘れなかったのが光ヶ丘くんらしいけど〜」
興奮気味に話していた綾が、一気にクールダウン。やれやれと両手を上げて見せる。
「あはは…」
『赤団―――! ファイっト―――――!』
『『『お―――――っっ!!!』』』
「あ、始まったみたいだね〜」
「次って何だっけ?」
ななみがうちわ代わりにしていたプログラムを開いた。
「「200メートル!」」
「あ、そっか! クリスちゃん!」
確かめる前に、揃った未夢と綾の声で思い出した、さっきの光景。見に行こうと、前の方を指差した。
「変わったよねークリスちゃんも」
「え〜そうかなぁ〜?」
「やっぱり、ななみちゃんもそう思う!?」
ハテナ顔で苦く笑う未夢の横では、綾が力強く頷いていた。
「なんで…?」
「ん〜〜〜なんてゆーかぁ…」
「あ! 次、クリスちゃんだよ!」
――パンッ
『頑張れ! 赤団!』
「「「がんばれ、あかだん!」」」
「クリスちゃーん!」
「頑張ってー!!」
走者が2年生になり、そのままおしゃべりが応援に変わる。先程の些細な疑問は、いつの間にか忘れられていた。
「未夢ー! 西遠寺くんと黒須くんは何番目くらいー!?」
「知らないよぉ〜! 後ろの方だった気はするけどー! 彷徨の番なんか、見てなくてもわかると思って〜!」
応援の合間に交わす会話は、声援に負けないように大声になる。
「あれ! 次の次、黒須くんじゃない〜!?」
綾が指した先を未夢とななみが凝視する。女の子は遠くても髪型でわかったりするんだけど、男子は遠目に見ればみんな似たり寄ったり。
「「わかんなーい…」」
結局、それが三太であると確認できたのは、半分走って、トラックのこちら側にだいぶ近付いた頃。1位でゴールしたことは、アナウンスで聞いた。
「ま、こんなもんだよねぇー」
「「「「きゃ――――――!!」」」」
「あ、彷徨だ」
「なるほど〜、わかりやすい…」
敵味方なく、大方の女子が騒ぎ出す。応援団の低く響く声も、耳をつんざく黄色い声援にかき消された。
(な、なんかドキドキするよぉ〜…)
自分が走るときよりも、緊張する。彷徨だから、きっと余裕で1位とっちゃうんだろうけど。
スタートの合図と同時に、未夢は祈るように目を瞑った。
声援が、彷徨がトップにいることを伝えてくれる。
「―――すごいよ! 未夢!」
「ちゃんと見なきゃ! 未夢ちゃん!」
両側から二人に言われて、おそるおそる片目を開ける。
後ろを大きく引き離して、一番前を走る彷徨が視界に入った。目を見開いて、その姿を追う。
大きかった声援が、急に遠くなった気がした。
口の中で小さく紡いだその名前は、音にならなかった。
(頑張って……!)
こんにちは、杏です。
いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。
まだお題は出せませんネ(^^;
きっと、最後になると思います。
ここ最近、調子が悪くて…文章の。ちょっと創作から離れてみたりしてました。
パソコンに向かうのは、1週間ぶりくらいでしょうか。。
それなのに閲覧数は増えていき、拍手やコメントを戴けている…ホントにホントに、嬉しいです。
ありがとうございます。
これからも、マイペースに頑張りますので、よろしくお願いします。