作:杏
「わぁ! すご〜〜〜い! フツーに男の子たちがいるぅ〜!」
「の、のぞみちゃん、驚くの、そこ…?」
「え? あははっ、だってさぁ〜〜〜」
のぞみの気持ちもわかる。未夢だって、預けられた先に彷徨がいなかったら、きっとそれに慣れるまで時間がかかっただろう。
当時は一度におかしなことがあり過ぎて、そんなことに気付く余裕もなかったのかもしれないけれど。
「で、どこから行く!?」
パンフレットをくまなくチェックしながら、のぞみが未夢の腕に抱きついて急かす。
「とりあえず、クラスに顔だけ出してきてもいいかな? 友達と一緒にまわれるのは、午後からなんだけど」
「うんうん! じゃあ、3−1、3−1…あった! 行こ行こ!」
すでにたくさんの人。ハイテンションなのぞみとはぐれないように、手を繋いで友人たちのクラスを目指した。
「あっ! 未夢ちゃん!」
「やっほーみんなぁ! 久しぶり〜。 繁盛してるぅ〜?」
未夢の登場に元クラスメイトたちが集まる。まだ始まって間もない時間だが、花小町お菓子館という強力なスポンサーをもつ3−1の喫茶コーナーは大盛況。
みんな仕事をしながら、代わる代わる未夢に声をかけていく。
「クリスちゃんのレシピと光ヶ丘くんのおかげで、ボチボチでんな〜って感じだよー」
「西遠寺くんもいてくれれば、もっと女性客とりこめるんだけど、忙しくてクラスの方まで手が回らないみたい〜」
「わぁ! ふたりとも可愛い〜!」
ウエイトレス姿の親友たちとも再会。月イチで会ってはいるけど、やっぱり学校で会えるとなんだか懐かしい。
「そちらは、学校のお友達?」
「うん、そうそう! 同じクラスの…」
「綾ちゃんにななみちゃんでしょ!? 初めまして、田原のぞみでーっす! よろしくぅ〜」
人懐こい笑顔で握手を交わすのぞみ。ツツ――っとふたりの間に寄って、口元に両手を添える。
「で、そのサイオンジくんってのが、未夢ちゃんのカレシ?」
「ちょっとのぞみちゃん!」
「「そうそう――!」」
「もぉ、違うってば、ふたりともっっ!」
こっそりと訊いてみたのに、そばの未夢には筒抜け。未夢は両腕を振って否定する。
そんな可愛らしい姿に、のぞみは初対面の二人と顔を見合わせて笑った。
「未夢! あたしたちの当番、12時までだから!」
「一緒にお昼、食べよう?」
教室内が慌ただしくなってきたので、ななみと綾も言いながらキッチンスペースのあるカーテンの向こうに半身、突っ込んでいた。
「うん、それまでテキトーにまわってるよ! 頑張ってね!」
未夢とのぞみは邪魔にならないように、その場をあとにする。
「じゃあ次はぁ〜…これ行かない!? お化け屋敷!」
「えぇ〜〜〜〜?」
「だぁいじょーぶだって! 一年生のクラスだし、きっと可愛いもんだよぉ〜」
「う、うん…」
のぞみが指したのは、廊下の壁に貼ってあった小さなポスター。パンフレットで場所を確かめて、乗り気じゃない未夢を引き摺っていった。
「…あっ」
「え? なになに? 友達っ?」
手を引かれて渋々ついていく未夢が立ち止まった。振り返ったのぞみが未夢を見ると、その視線は自分たちが来た方。誰かとすれ違ったのだろうか。
たくさんの人が行きかう中で、未夢が見つけた人がどの人なのか、のぞみにはわからなかった。
(三太くん、…と、誰だろ? 宝城学院の制服…)
「声、かけないの?」
「…う、うん、誰かと一緒だし、あとでいいや。 行こっ」
行き先を指差して、のぞみを促す。
(…まさか、彼女? 茜ちゃんはどうなったのよ――!?)
「未夢ちゃーん、行き過ぎ〜! みーゆちゃぁ〜ん!」
「あ、あれっ? のぞみちゃんっ?」
考えながら歩いていたら、隣にいたはずののぞみが後ろから呼んでいた。あんまり大きな声で呼ぶから、未夢にものぞみにも、注目が集まっている。
(は、恥ずかしい〜〜〜ッ)
◇◇◇
「てゆーか、学校中走りまわってる彷徨見つけるのって、至難の業じゃね!?」
「だって、私ひとりじゃ校内わからないし…三太以外に頼れる人いないじゃないっ」
「そう言われると、なぁ……」
三太は照れながら、しんとした生徒会室のドアを引いた。賑やかしい校内とは真逆。部屋に待機するのは、一人だけ。
「ちわーっす! 彷徨いるー!?」
「会長なら、今は見回りですよ」
残っている生徒会役員が担当を割り振ってある黒板を確認する。
「昼休憩が12時半から1時間で、その前には一度戻って来られますが…」
「わかった! サンキュー!」
短いやりとりを済ますと片足だけ突っ込んで乗り出していた身をひょっと引いて、三太はドアを閉めた。
「だってさぁ。 どーする? オレ、12時からクラスの当番なんだけど」
「じゃあそれまで付き合って! そのあとは彷徨の休憩時間目掛けて、ここに来てみるから、ね?
私、日本の学校の文化祭って初めてなの!」
ぱっと三太の腕にアキラが絡みつく。わぁっと声を上げて飛び退いた三太に、ごめん、つい…と苦笑した。