遠距離カタオモイ

白き蕾をあたためて

作:

←(b) →(n)




雪の降る公園は静か。
一歩踏みしめるたびに、ブーツに圧された雪が奇妙な音を立てる。


「…こんなとこで何してるの? 彷徨」


そっと声をかけたのは、あの足跡の主だった。


「…未夢……!」
ベンチに座る傘が、薄く積もった雪を落として立ち上がる。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない。 こんなとこで声かけるの、わたししかいないでしょ」
あぁ、のぞみちゃんともここで会ったんだっけ、てゆーか彷徨なら色んな子からナンパされちゃうか、なんてクスクスと笑う未夢。
先日はろくに話せなかったのに、今はなんとか言葉が出る。

「この間も思ったけど、…また背、伸びたね」

こんなところまで来ておいて何も言わない彷徨に、今まで通りを繕って笑いかけた瞬間。冷たい手に引き寄せられて、ふたつの傘が雪模様の黒い空を舞った。

「……彷徨? どれだけここにいたの…? 手、つめたい…」
頬が当たるコートも、額をくすぐるマフラーの先も、たった10分歩いて、冷えてきた自分の手を掴んだ彷徨の手も。

「…うち、行こう? 風邪ひいちゃう……」



「…ここでいい」

離した手が背中にまわされた。きつく抱き込まれて、それでも動じない自分が、未夢は不思議だった。

(…わたし…夢でもみてるの、かな……?)








「…未夢、ごめん……俺…」

自分を抱き締める彷徨の肩先をぼんやりと目に映していた未夢の耳元。ポツリと小さく聞こえた謝罪に、背筋が凍る。ようやく力強い腕を現実に感じて、慌てて首を振った。



「……いいの! あれは、忘れていいから…。
 また、一緒に暮らすんだから! …なにも……」
「…未夢」


「お願い、何も言わないで……!!」

「………未夢!」

いや、と首を振り続ける未夢。肩に手をかけてその身を引き剥がしたら、未夢の瞳は怯えているようにも見えた。



「…ちゃんと聴いてほしい。
 俺はおまえに何も言われてない。 俺が言いたいから、伝えに…来たんだ」

目線を合わせてくれた彷徨の真剣な瞳は、力がこもっているのに、笑いかけるように優しい。
彷徨の言った意味はわからないけど、その瞳に負けた未夢は小さく頷いた。

「うち、行こ…?」





←(b) →(n)


[戻る(r)]