遠距離カタオモイ

君との交差点

作:

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いつの間にか、未夢は自分の携帯を手にするのぞみのそばを離れ、ベッドに寄りかかって彼女をぼーっと眺めていた。
(彷徨、大丈夫かな…)

結局、今朝のメールを綾に送る前に、綾から彷徨が風邪で休みだとメールが来た。いつもの報告のような、その裏に、何かあったのと、問い詰められているような。
ますます顔を曇らせ、黙り込んだ未夢に代わって、のぞみがついさっき聞いたばかりの事情をメールで送って、少しズレた休み時間の度に短い文字の対話を繰り返してはいたのだけど、それでは埒があかず。
苛立ってきたななみとのぞみを見かねて、綾が放課後の電話会議を提案したのだった。



いくらここで話したって、何も変わらないしわからないのは誰もがわかっているのだけど、それでも話さずにはいられないというか。
これも、「女ってわかんね」と彷徨に言わしめるひとつだろうな、と未夢は苦く笑う。

自分のことなのに、涙も出なかった。こっちに帰ってきてしまえば、なおさら現実味がなくなってしまった。
今も、親友たちのやりとりがどこか他人事のように見える。本当に好きなのか、それさえも自身に問いかけるほど、ぼんやりと浮かぶ一昨日の出来事は未夢の眼前をゆらゆらと揺れていた。

「こうなった以上はやっぱりさぁ〜…」
「…ねぇ、のぞみちゃん……」
「ん?」

「もう、いいよ…。 ななみちゃんと綾ちゃんも、ありがと」

拳を握り締めて次の作戦を力説しようとしたのぞみに、後ろから笑いかけた未夢。
「…今度行ったときはきっと、フツーに話せると思うから…。 ほら、彷徨って、告白された子にも態度変えたりしないし、ね…?」
「未夢ちゃん…」
これまで、大概のことなら、のぞみは未夢を自分のペースに巻き込んできた。ななみや綾だって、あれこれ二人で押し切った事は多い。でも、今の未夢には。
事が事だけに、というのも起因してはいるけれど、それより何より、未夢の声が、表情が。それをさせなかった。



「…綾ちゃん。 番号、未夢ちゃんから聞いといてもいいかな? …一旦、切るね」
静かに閉じた携帯を未夢に握らせて、隣に座った。
「未夢ちゃん……泣いてないの?」
「え…? うん、だって…」

「…平気だよ?」
帰るね、と立ち上がった未夢に、慌ててのぞみも続く。
のぞみの母に送ってもらう車の中でも、自宅に着いて見送るときも、未夢はずっと笑っていた。








「…どうしよう、受験……」
誰もいない家に帰った未夢は一人、ソファーに寝転んで考えていた。制服を着替える余力もなく、カバンもテーブルに置いたまま。

(せっかく夏におじさまにお願いしたけど、行けないよね……謝っとこ)
白い天井に携帯を掲げて、電話帳を開こうとして。
「…………」
パタンと閉じると同時に身を起こした。時刻はまだ19時過ぎ。いつもならば、彷徨はまだ帰っていない時間だろうけど。
(風邪、ひどかったら起こしたくないし…)
学校を休んでおいて、出掛けるとは思えないし。もし電話に出られたら…気まずいから、自分に言い訳。
「…あ、でもだから、おじさまが出るかなぁ? う〜〜〜〜〜〜ん……」




トゥルルル、トゥルルルル…

小一時間悩んで、結局、先にママに電話してみようとまた携帯を開いた。
「…出ない! ……まぁいつものことだけど…」
優なら、着信に気付いたらすぐに折り返してくれるのだけど、未来はそんなことはない。そもそも着信を知らせて光り続ける携帯電話をよく持って帰ってくる人だ。
「10分経ったら、またかけよ」

受験をやめることは、そこまで急ぎの用事ではないはず。明日でも明後日でも、間に合うのはわかっているけど。
何かを動かさなきゃいけない、そんな気がしていた。何かしていないと、考え込んでしまう。
昨日も一昨日も、そうだったから。


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