遠距離カタオモイ

この夏最後の思い出に

作:

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「花火キレイだったねぇ〜」
「だねー! やっぱ河川敷で見ると違うよー! 西遠寺くんも来ればよかったのにー」
「彷徨、人混み嫌いだからなぁ〜」
「ちゃんと誘ったんでしょ? 自分から連絡しない上に、未夢の誘いを断るなんてェ―――!」
「あはは…きっと忙しいんだよぉ〜、生徒会もあるし」


下駄が軽快な音を立てて鳴る、帰り道。耳に残る花火の余韻が、静けさの中の下駄の音と相俟って、心地良く響く。
未夢の肩には、浴衣に不似合いなボストンバッグ。

「明日はふたりでゆっくりしなよー?」
「生徒会もきっと日曜は休みだし!」
「う、うん…」

街灯の狭間でも、未夢の頬が染まったのがわかる。
綾と顔を見合わせて笑うことに、懐かしさを感じるななみ。二人は、未夢とよく会っているのだけど。
やっぱり彷徨と会うときじゃないと、こんな可愛らしい未夢には出会えない。
久しぶりのからかい甲斐のある未夢に、綾はニンマリと頬を上げた。

「で、いつ帰るの?」
「ん〜決めてないけど、彷徨も忙しいだろうし…明後日くらいには、帰ろうかな」
「そっかぁ…電車の時間、決めたら教えてね! 見送りに行くから!」

立ち止まった交差点。ななみと綾の家と、西遠寺は別の道。
ここで5分10分と話し込んでしまうのは、以前と変わらない。






「…あ、ほら未夢。 お迎えだよ?」
「え?」


「かなた……!」
暗がりから全速力で現れた彷徨。両手を膝について、息を整える。
「彷徨っ! 大丈夫? 迎えに来てくれたの!?」
「…っ、な…」

「「「な?」」」




「何時だと思ってんだ、おまえら!」

彷徨を覗き込んでいた未夢とななみが、その勢いに吹き飛ばされる。綾だけが、きょとんとしていた。
「え〜〜〜? ケータイ、ケータイ…っと、わ! 11時過ぎてるっ!」
「ウソっ! うわーおばあちゃん心配してる!」

「…行くぞ」
彷徨が未夢の荷物をひったくって歩き出したのは、来た道ではなく。

「送ってくれるって」
くすくすと笑う未夢が、二人に耳打ち。
「さっすが生徒会長!」
「けっこー紳士だよねぇ〜。 通訳いるけどぉ〜」





夜道を照らすは所々の街灯と、半分だけの月。
薄く、濃く。伸びては縮む、四人の影。

下駄の音はひとつ、ふたつ減り、最後には、二人きり。




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