遠距離カタオモイ

秋空のバスケットボール

作:

←(b) →(n)




「かぁなたぁ〜〜〜! 早く行こうぜっ! アキラもう待ってるんじゃねぇ〜!?」
文化祭を最後に生徒会長の任を終えた彷徨。こんなにも何もない放課後を日々迎えられるのは入学してから初めてではないだろうか。
そして今日は、再会以来よく会うようになっていたアキラと約束があった。


「なんか…面白くないのはあたしだけ?」
「ううん、わたしも――…」
教室の窓から、校門を駆け抜ける彷徨と三太を見下ろしながら、ななみが不機嫌そうな一言。綾もしかめっ面で賛同する。
「楽しそうなのはいいことなんだけどー」
「なんか、寂しいよね……」




「お―――いっ! アっキラ〜〜〜! …おわっ!」
待ち合わせていた場所にアキラを見つけ、大声で三太が呼ぶと返事の代わりにボールが飛んできた。
「おそーいっ! こんなに待たされるんなら着替えて来るんだったわっ」
「アキラ、それでやる気か?」

両手を腰に当てたアキラは制服姿。片手にかけたブルーのジャケット。淡い空色のネクタイと同色系のチェックのプリーツスカートに、足元はローファー。
「うん、大丈夫よ? …気になる?」
「……別にアキラがいいんなら、いいけど。 アキラのヤンチャは変わんねーなぁ」
「あら、これでも、女の子らしくなったつもりよ? 向こうでは結構モテたんだけどなぁ!」
アキラがスカートの裾を少し持ち上げて、ひらひらさせて見せた。

「なーアキラ、なんでミニバスなんだよぉ〜?」
さっき投げられたボールをザッとゴールに入れた三太が、二人のもとにポンと飛ばす。アキラの手に渡る手前で、彷徨に横から捕られた。
「だって、うちにそれしかなかったんだもん! いーじゃない、ボールならなんでも!」
「昔はサッカーボールだって投げてたしなー」
いつも扱うより小さなボールを、確かめるように地面に叩く。
各々がベンチに荷物を置き、準備が出来たら、真剣勝負開始。ハーフコートで即興の三つ巴バトルが始まった。




◇◇◇


「きゅ〜〜〜〜〜け〜〜〜〜〜〜!! あいつらの体力に付き合ってらんねぇ〜〜〜〜!」
バサバサっとベンチの上のものを落として、そのベンチに転がる。
「三太っ! 人のカバン落とすんじゃねーよっ」
「へ〜〜い」
拾うつもりもないけど、返事だけ。なんで見えてんだぁ?と思いながら、ふ〜〜〜っと息をついて、三太は身体を起こす。探ったポケットから見つけた500円玉をピンっと空に撥ねて。
「ちょっと自販機行ってくるなぁ〜」
「三人分ねっ、三太っ!」
「わかってる〜っ!」

女の子相手でも手を抜くことをしない彷徨と、その差を感じさせないほど動きのいいアキラ。
アキラだからそう出来る彷徨と、その対等感を楽しむアキラ。

「こーやってると、変わってねーよなぁ〜! 彷徨のやつもガキの頃みたいにはしゃいでるし! アキラは相変わらずキレイだし!
 えっとぉ…、あったあった! オレのつぶつぶオレンジィ〜! このつぶつぶがいいんだよなぁ〜」
互いに成長はしたけれど、昔と変わりなくいられる。それが嬉しいし楽しいのは、彷徨もアキラも同じ。三太はそう思っていた。



「あら? 黒須くんですわ」
行く先に、缶ジュースを抱えて背を向けた三太を見つけたのはクリス。ホームルームを終えた教室を、彷徨と二人で早々に出て行ったのはクリスも見ていた。
「どこへ行くのかしら……?」
足を速めて静かに三太を追った。


「…おや、あれは花小町さん」
見つかってはいけないかのように、前を気にしながら小走りに駆けるクリス。それを道路を挟んだ向かい側で見つけた望は、彼女の進む方に目を向ける。
「黒須くん? が、ジュースを持って西遠寺くんと…謎の女性のもとに……。 …これは危険な香りがするね、オカメちゃん」





「はいはいっ! 120円徴収〜〜!」
「なんだよ、オゴリじゃねーの?」
「ケチだなぁ三太ぁー! はい、ありがとっ!」
しっかり代金を戴いた三太が、ベンチに並べた3種類の缶ジュース。
「よし、やろうぜっ! せ―――のっ!」
三太の合図より先に二人が手を伸ばす、つぶつぶオレンジ。

「あぁ〜〜〜っ! つぶつぶオレンジはオレのだって! おまえら飲まないクセにィ〜〜〜!」
捕られた缶ジュースを取り返そうと遅れて手を伸ばすと、彷徨が手を離し、ひょいっとアキラが自分のもとへ持って行く。
「あはははっ! 懐かしいなぁ、この感じ! 三太、いっつもコレだったね! 粒入りがないと、探しに出たもん」
「それは今も一緒だけどなー。 アキラは? まだ炭酸飲めねーの?」
煩い三太にオレンジを渡したアキラに、一口飲んだコーラを差し出す。
「あっ、バカにしたわね!? もう飲めますよーっだ!」
べっと小さく舌を出して、手にしたコーラに口をつけた。
「あ〜〜〜たんさん〜〜〜〜〜っ!」
肩を上げてきゅっと目を閉じたアキラ。オレンジの粒で幸せに浸っていた三太が、ニヤッと口角と眉を上げた。
「なんだよぉ、飲めないんじゃん〜!」
「飲めないんじゃなくて、好んで飲まないだけっ! やっぱりこっちの方がいいなぁ」
残されていたスポーツドリンクを開ける。これがいつもの組み合わせ。



「キレイな方…平気で彷徨くんのコーラを…」
三太を追ったクリスは、その一部始終を見ていた。声が聞こえなくても、笑い合う三人の仲の良さは見てとれる。
(―――帰りましょう、鹿田さんが心配しますわ……)

ぼんやりと帰路についたクリスの後姿を、望が沈痛な面持ちで見送っていた。




←(b) →(n)


[戻る(r)]