作:杏
「ねぇボク、お母さんは?」
本堂の階段に腰掛けて、抱きしめていた少年の身を少しだけ離して訊ねる。
こんなに泣いているのに来ないなんて、出掛けているのだろうか?
「………」
泣き止みかけた少年の瞳に、再び涙が浮かんだ。ぎゅっと自分のシャツの裾を掴んで、俯く。
「…? じゃ、じゃあお父さんは?」
「たぶん、あっち…おはかのところ。 きょうは、いしやさんがくるっていってたから」
未夢の膝の上で、少年の小さな手が指差したのは裏手にある墓所。
「そう……まったく、彷徨ったらこんな可愛い子ほったらかしで…」
「え? おねえちゃん、ぼくのことしってるの…?」
「へ……?」
「…ボク、お名前は……?」
膝にちょこんと座る少年が、今度は想いを寄せる同居人と重なる。そういえば、親子にしては似すぎている気はする。
「さいおんじかなた」
「えぇ〜〜〜っ! じゃ、じゃあわたし…」
(未来じゃなくて、過去にきちゃったんだ……)
「?? おねえちゃん?」
「えっ、あ、ごめんね」
急にこの現状が恥ずかしくなったが、小さな彷徨には通じない。不思議そうに見上げるばかり。
「え、えっと…彷徨…くん、何歳?」
「3さい! らいげつ、4さいになるよ!」
「そっか、今11月だったもんね…」
無邪気な少年。口調も表情も仕草も全部、子供らしくて。いつかのこどもビスケットとは、やはり違う。
(あれ、彷徨は3歳で…今、11月で……)
「もしかして…お母さんって……」
彷徨が目を見開いた。未夢を見上げる瞳が濡れていく。
「……ごめん…」
「うぅ〜〜〜……あぁ――――…」
何も言えなくなる。抱きしめるほか、なかった。
こんにちは、杏です。
いつもありがとうございます。
未夢ちゃん、大きな勘違いをしてましたね。そう、ここは未来ではなく過去。
瞳さんが亡くなったばかりの頃です。
もし、みなさんも騙せていた(言葉が悪いですが^^;)なら、それは作者冥利に尽きるとゆーものです、ネ。
次回もよろしくお願い致します!