「もう1人の転校生」

第3話「『クリス軍団』、襲来!?」―1

作:マサ

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さあ、連投で行きましょう!


西遠寺という場所は、平日、休日を問わず、
いろいろな人がやってくる。
もちろん、今日だってそうなのだ。
地元に住んでいるおじいさんとおばあさんが、
朝から石段の下に集まっている。

「今日も良いお天気で。」
「いやぁ。どうもどうも。」

さて、こちらは未夢と誠大の部屋。
学校がないこともあってか、
少し寝坊気味の誠大に、未夢が問いかけて来た。

「ルゥくんとワンニャーがいないみたいだけど。」

いきなり問いかけられた誠大は、

「自分たちの星に帰ったんじゃないのか?」

と答えてみると、

「帰れないから置いてくれって言ったのに?」

未夢に見事に切り返されてしまった。

「ん〜…、わかったよ。その辺探してみようぜ。
ちょっと、部屋出てってくれる?」

そう言うと誠大は、また布団に潜り込んでしまった。
そんな誠大を未夢がせかすように、

「早く起きなさいよ!」

と問いかけると、

「着替えたいんですけど。」

と言いながら、布団から顔を出した。
顔が赤くなった未夢は、すぐに扉を閉めて、

「バカ!」

と言い捨てた。
その間にも、参拝客は続々と石段を登ってくる。
支度が終わった誠大は、すぐに合流して、
二人―厳密に言えば、一人と一匹だが―
を探し始めようとしていた。
そこに、彷徨も来た。

「どこ行っちゃったのかな?」
「何やってるの?」
「ルゥくんとワンニャーがいないみたいだから、探してるの。」
「ん?ホントだ。確かにいないけど…。」

と、彷徨は上を見渡してみる。

「ああっ!あそこだ!」

彷徨が指さした先に、二人はいた。
二人がいたのは、テレビの衛星放送用のパラボラアンテナ。
ルゥのUFOを結びつけて何かやってるが、
彼らがいたのは危険な屋根瓦の上だった。

「早く降りろ!ワンニャー。」

と、そこに誰かやってきた。

「もう少しですよ。おじいさん。」
「あれは…。」
「お参りの人たち?」
「まずいな。」
「未夢、あの人達の目をそらせ。
俺と誠大で、あいつらを家まで連れて行く。」
「ええっ!でもどうすればいいの?」
「へそ踊りだの裸踊りだの、
とにかく何かやれば大丈夫。
彷徨。早く降ろすぞ。」

二人が去ったあと、未夢はただ一人、

「なるほど、それも良いですな…。
って!できるわけ無いじゃないのよ!」

まあ、常識から考えて当然だ。
そうは言っても、危機が迫っていることは変わらない。
ご老人方は、石段を登り切ってしまったのである。

「わわわわ。何とかしないと…。」

おじいさん達が集まっている中に、
未夢がただ一人、

「おはようございま〜す。
広いところで体操するのは、気持ちいいですね。」

と切り込んでいく。
随分と目立つ動きで相手の目を誘ってからか、
効果はなかなか高かった。
その間に、彷徨がルゥを抱き上げ、
誠大がワンニャーと共にUFOを引きずり下ろし、
家の中へ物凄いスピードで駆け込む。
それを前屈の姿勢で見届けていた未夢は、
する必要がなくなった体操を切り上げると、

「さあみなさん。今日も一日お元気で。」

と言い残すと、足早に去っていった。

「完璧なまでに目が醒めたな。」
「うん。」

誠大と彷徨の精一杯の皮肉も、
彼ら宇宙人には通用しないようである。
やはり、今朝もドタバタスタートだった。
ダイニングに戻ると、早速彷徨が尋ねてきた。

「それで、屋根の上で何やってたんだ?」
「はい。あのアンテナをお借りして、
オット星に125回ほど通信テストを繰り返しましたが、
…反応はありませんでした。」
「そうだったの。」
「ご苦労様でした。」
「ここはあんまり人が来ないけど、
ビックリするほどごくたまに、
じいちゃんばあちゃんの団体が来るから、
とにかく人目に付かないように。
これだけは気をつけてくれよ…。」

と彷徨が釘を刺すと、

「以後気をつけます。
ご迷惑をおかけしました。
…ああっ!ルゥちゃまが!
ルゥちゃまがここにいません!」
「えっ。そうなの?」
「部屋で寝てるんじゃないのか?」
「ワンニャーって、本当に有能なの?」
「また探しごとか。
もうちょい寝たかったのに…。」

そう言って3人が部屋を出ると、
廊下のそこかしこに、いろいろな物が浮いていた。
やかん、壷、座布団、スリッパなどなど。

「な、何これ。」
「ルゥの超能力だ。」

と、その時どこからかピコピコと、
アラーム音がしてきた。

「この音は?」

すかさず誠大が突っ込んだ。

「ああ、この音ですか?
これはルゥちゃまのオムツ警報機の音です。
ご心配なさらぬよう。」
「心配すべきことだろ?
有能だとしたら、ちゃんと宇宙から持ってきてるのか?」
「そんなことより、見つける方が先よ!」

今度は未夢に突っ込まれた。
そしてしばらく廊下を探し回っていると、
ルゥ自身が浮かびながら、
超能力で物を浮かせている。

「ああ!いたいた!」
「ルゥちゃま!」

ワンニャーが走ってきたので、
彷徨がルゥをワンニャーに引き渡した。

「さぁ、オムツを替えましょう。」

と、ワンニャーが部屋に向かおうとしたとき、

「こんにちは〜。」

と、女性の声が玄関から聞こえてきた。

「誰だ?学校の人間じゃなさそうだし。」

一通り、学校で彷徨に関連がある人物は、
この週末までにある程度覚えていた。
そんな誠大が疑問に思うと、

「みかんさんだ。」
「誰それ。」

どうやら未夢も知らないようだ。

「彷徨くん!いるんでしょ!」

どうやら玄関でブーツを脱ぐのに苦労しているようだ。
その頃、廊下では、

「ねえみかんさんって誰?」

と未夢が聞くと、

「あとで説明するから。とりあえず…、
ワンニャー。自分たちの部屋で隠れていろ。
とりあえず3人で浮いてる物を取るぞ。」

玄関では「みかんさん」と呼ばれる人物が、
履いてきたブーツを脱いで上がったところだった。
二人が一通り拾い終えた頃、彷徨はワンニャーに、

「いいか。俺が良いって言うまで、絶対にこの部屋から出るなよ。」

そしてみかんさんは、
家に勝手に上がって、廊下を進んでいた。

と、

「いらっしゃい。」
「は、はじめまして。
あの、彷徨くんの親戚の光月未夢です。
西遠寺さんの家でお世話になっています。」
「どうも。こんにちは。
同じく、親戚の鉈落誠大です。」
「いとこ?私は山村みかん。
一応漫画家やってるわ。」
「漫画家、ですか…。」
「ねえ。何か良いネタ無い?」
「無いですよ。あの、親父なら留守なんだけど。」
「うん。知ってる。
ところで、あっちで何やってたの?
見せて見せて。」

みかんさんは、興味津々の様子で、
ルゥ達がいる部屋の方へと、
足を進めようとしていた。

と、その時、ルゥ達の部屋から

「だぁ!」

と、ルゥのはしゃぐ声が聞こえてきた。
すかさず未夢がフォローに行く。

「ああ、これあたしの声。
最近学校ではやっているんです。
こんな感じの赤ちゃん言葉が。」
「まあそうだな…。
こっちはとっちらかってるんで、本堂へどうぞ。」

その時誠大は、

「よくまあ、そんな言い逃れを考えるな…。」

と考え、半ば感心していた。
本堂に着くや否や、みかんさんはメモを取り出した。
どうやら、宝晶がいないのであればと、
3人の生活をネタにするらしい。
みかんさんのインタビューが始まった。

「…それじゃ掃除や洗濯みたいな家事は、
彷徨くん、誠大くん、未夢ちゃんで、交代でやってるんだ。」
「そうそう。3人で交代。」
「何も問題ありません。」
「日にちはそんな経ってないけど、順調です。」
「あの、そう言うことなので…。」

みかんさんはお茶を飲み終えると、

「そっか。3人で仲良く暮らしてるんだ。」
「「「三人で仲良く、だと…!?」」」

揃って声にこそ出さなかったが、
思考回路が行き着いた先は一緒だったらしい。
と、そこで未夢が男2人の袖を引っ張り、外に連れ出す。
本堂の外に連れ出すと未夢は、こう言った。

「今思ったんだけど、あたしたち、
ワンニャーやルゥくんのことを隠すので必死だったけど、
ここに中学生3人で住んでるって言うことが、
もしみかんさんにわかっちゃったら、
それはそれで大変じゃない?」
「まあ、確かに。」
「来たばっかりの時、彷徨が言ったけど、
そう言えば忘れてたもんな。」

と、そこへみかんさんがやってきて、

「残念でした。もう知ってま〜す。」
「わわわ。みかんさん。」
「彷徨くんの親父さんがインドに出発する日にさ、
あたし偶然会っちゃったのよね。
『わしはこれからインドへ行くんじゃ。
彷徨のことは頼む。
ああインド、インド――。』
だってさ。」
「だったら最初からそう言ってくれれば…。」

既に真相が知られていたのだったら、
ここまで気を使う必要なんて無いのに。
彷徨が少し落胆したように言った。

「だってさ。もし本当のこと言ったら、
3人の生活ぶりがまるでわからないもの。
なんかごまかしたりしちゃうでしょ。」

3人は、すでにごまかしていることには口をつぐみながらも、

「このインタビューはまかり間違っても、
漫画のネタにしたりしないでくださいね。」

誠大が先手をとって、みかんさんを封じた。

「分かってるわよ。」

その時、何かに気付いたように、未夢が口を開いた。

「あの、知ってるのはそれだけですか?」
「え?他に何かあるの?」

みかんさんが言うと、誠大があえて付け加えた。

「3人でイチャイチャしてるとか、
勝手なこと言ってませんよね。ってことですよ。」
「な〜んだ。そう言うことか。
つまんないの、ネタになると思ったのに。
そんなことなら聞いてないわよ。
第一、そんな感じがしないじゃないの。
特に男子2人、あんたたち、『安全』に見えるし。」
「みかんさん、安全って何ですか、安全って…。」

みかんさんの発言が、誠大と彷徨には、
若干突き刺さるようなイメージだったが、
みかんさんは3人から話を聞くと、本堂を出た。
どうやら、このまま帰るつもりらしい。


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