作:マサ
久々に帰って参りました。
3発目、行ってみましょう!
そのころ、平尾町に1つだけある銭湯の周りには、
人だかりができていた。
「なんだか嫌な予感がする…。」
「あたしも…。」
と、誠大の声がしてきた。
「お〜い!この裏側だ!ルゥがいたぞ!
あいつ、煙突登ってるぞ!」
「まずい。」
「なんで、何で煙突なんか登ってるの?」
3人が考えを巡らしても、答えが出ない。
その時、
「おお!ちょうどお巡りさんが来た。」
そんな声が聞こえた瞬間、
3人の顔から一瞬、血の気が引いた。
しかし、その警察官も、ワンニャーだった。
彼は少しだけ変身を解いて、
未夢達の方へしっぽを出したため、
3人は安心した。
「よし、今だ!」
3人は、急いで裏手へと回る。
だが、さび付いた扉は鍵で閉まっていて、開かない。
「開かないよ!」
「どけ!未夢!」
誠大と彷徨が、扉を体当たりで跳ね飛ばして、
無理矢理にではあるが通り道を作った。
未夢は目の前にあった煙突のはしごを登ろうとしたが、
彷徨は彼女を止めた。
「お前はここにいろ!」
「いや、あたしも登るわ!」
「だめだ!お前はうちの親父に預けられた身だろ!
ケガなんかさせられないんだ!」
「だとしたら、あたしも登る!
あたしだって、ルゥくん預かってるんだから!
地球じゃ、あたしがルゥくんのママなんだもん!
だから…。」
未夢の必死な声に、彷徨は折れた。
「分かった。でも、俺を先に行かせてくれ。」
「彷徨、俺も先に行く。
もしさびて、はしごが途中で折れてたりしたら大変だろ?
地球じゃ、お前はパパ代わり、俺は兄貴代わりなんだから。
ママは守るもんだぜ?」
こうして、3人が登り始めた頃、
もう犯人は頂上にいるようだった。
未夢は順調に登っていたが、
より高い場所へと来るほどに、
吹き付けてくる風がどんどん強くなってきた。
近くを走っていた電車の警笛が聞こえる。
その音に驚いてしまったのか、
未夢は思わず下を向こうとした。
その時、上にいる2人から、
「未夢!下を見るな!気をしっかり持て!」
「もうここから上は、大丈夫だ!
1段ずつ、しっかり捕まれ!」
「…うん!」
そして、やっと登り切った。
先に誠大が着いて、後ろから彷徨が来た。
そして、きゃしゃな未夢を、2人で引き上げ、
「すべるなよ。よし、登れた!」
登った瞬間、未夢がルゥの元へ駆け寄ろうとする。
だが…
「ルゥくん。えっ…。」
そこに現れたのは、誘拐犯…、
ではなく、なんと顔がデフォルメされた、
サルの人形だった…。
「これって…、校長が、
うちの校長が大切にしている人形だよな。」
「ああ、そう言えば、校長室にあったよね。」
「ちょっと悪趣味だとは思ったけど、
まさか、こんな物をルゥが好むとは…。意外ですなぁ。」
「それはそうとして、何でこんな所でへなへな動いてるの?」
「へなへな?ふわふわじゃないの?」
そう未夢が言った途端、その人形はふわふわと宙を浮き始めた!
「待てよ…。まさか!ルゥの超能力!」
「待って、誠大!
ひょっとしてルゥくんがこの人形を動かして、
ここまで来ちゃったってことなの?」
「そういうことみたいだな。」
「おいルゥ!じっとしてろ!」
そんな言葉を一切聞き入れず、
ルゥはなんと完全にその人形を宙に浮かせてしまった!
慌てて、彷徨と誠大が、ルゥを掴もうとする。
その時だった。
「待って!」
未夢が二人を止めた。
「ルゥくんはまだまだ赤ちゃんなんだから、
無理矢理にこっちの言うことを、
聞かせようとしてもダメだよ…。」
これを聞いた誠大は、
「だったらどうすれば良いんだ!?」
と、突っかかりそうになるが、
彷徨が誠大を抑えながら、
「未夢に名案があるんだろう?
任せてみようじゃないか。」
と、落ち着いた口調で諭されると、
誠大は未夢の言うことに納得したようだった。
「じゃあ、任せたぜ…。」
後を託された未夢は、
ゆっくりとルゥの所へ歩いていき、
「ルゥ…くん。おいで。」
と、優しく呼び掛けた。
それでもルゥには反応がない。
未夢はさらに呼び掛ける。
「ルゥくん。」
すると、ルゥはゆっくりと、未夢の方へ飛んできた。
「ママ!」
その勢いで、未夢に抱きついた。
その様子を、誠大と彷徨は安心したように見ていた。
「ルゥくん、眠っちゃった。」
「みたいだな。」
超能力を使って、疲れたのかも知れない。
ルゥは未夢の腕の中でスウスウと寝息を立てていた。
と、先程までルゥが操っていた人形が、
真っ逆さまに落ちていく。
下には、まだ警官に変身したワンニャーが、
現場の収拾に当たっていた。
「大丈夫ですから、皆さん帰ってください。」
その時落ちてきた人形が、木の枝に引っかかったために、
辺りは騒然となったが、
「心配しないでください。
ちょっとしたロボットの実験ですから。」
そう説き伏せて、ざわつく野次馬をなだめすかして一通り帰らせると、
「大丈夫ですか?片付けて帰りましょう!
今、私もそちらに行きます!」
上に向かって呼び掛けた。
その時未夢が、
「あ、忘れてた!私たち、バックレ状態じゃない!」
「まずいな。じゃあ、未夢は、このまま寺に帰れ。
帰ったってことにしとくから。」
「えっ?」
と、そこにワンニャーが飛んで来た。
「お待たせしました。ルゥちゃまは私が抱いていきます。
ささ、ルゥちゃまはこちらへ。」
「転校早々、早退ってことだけど、
まあしょうがないよな。」
「2人とも、上履きのままなのに…。
そうだ!ワンニャー、飛行機か何かに変身できない?
靴を取りに行きたいの。」
「ええっ!?」
ワンニャーは、戸惑いを隠せなかった。
さて、学校ではまだまだ授業中。
相変わらずクリスが考え事をしていた。
「まだ帰ってこない…。
すこぶる遅い、
果てしなく遅い、
あの人達、宇宙の彼方まで行ってしまわれたのかしら。」
そして、クリスは席を立って、先生に質問した。
「あの先生、差し出がましいとは思いますが、
西遠寺くんと、鉈落くんのお帰りが、
少し遅すぎませんでしょうか。」
「おお、そう言えばそうだな。」
先生も気付き、辺りはざわついてきた。
その時、
「遅くなってすみません!」
彷徨が教室に飛び込んできた。
「遅くなりました!」
誠大も、彼に続いて続いて教室へ入る。
「おお、どうした。光月は大丈夫か。」
「ときどき、ひどく目眩がするようなので、
結局西遠寺まで送っていきました。
とりあえずの所は早退ってことで。」
「そうだったのか。ご苦労だったな。」
この時、またクリスが考え事を始めた。
「家まで送ってく…。家まで…。」
と、今度はしゃべり出した。
「そう…。いとこ同士の西遠寺くんと、
あの2人は、一つ屋根の下で住んでいるわよね。
転校初日の緊張に耐えられなくなった未夢ちゃんは、
彷徨くんや、誠大くんに送られて帰った…。
目眩がして歩けなくなっている未夢ちゃんを、
二人で代わる代わる背負ったり抱えたりしながら…。」
と、少しすると妄想が入ってきた。
やがてクリスは、その妄想に芝居も織り交ぜ始め…、
「大丈夫かい未夢…。」
「はい…。なんとか。」
「授業のことは心配するな。
俺達が未夢の分までノートをとっておいてやるから…。」
「そんな…。二人に悪いわ…。」
「気にするな未夢。」
「そうそう。調子悪いときは寝るのが一番!」
「ありがとう…。二人とも。」
「って、そんな感じで、未夢ちゃんの取り合いをしていたのね〜!!」
クリスは、妄想の力が有り余って、
自分の肘で勉強机を真っ二つに破壊した!
「花小町…。後片付けは自分でな。」
ここまで来ると誰も彼女を止められないのでは、
そんな風にも思われたのだが、
先生が一言話しかけた途端、
妄想モードに入っていたはずのクリスは、
既に元の状態に戻っていた。
「あ、ああ!私の机が!」
そんなクリスを遠巻きに見ながら、誠大はこう言った。
「鉄板まで叩き折ったぜ…。
いつもあんな感じかい?彷徨。」
「ああ、こんなもんだ。
もっとすごいときもあるけどな。」
と話してると、クリスは工具箱を持ってきて、机を直し始めた。
「ねぇななみちゃん…。
クリスちゃんって、いつも工具箱を持ち歩いてるのね。」
「いやぁ綾ちゃん、つっこむ所はそこじゃないよ。
学校の物壊すのはまずいよ…。」
器物損壊、ってヤツである。
いくらなんでも、それはまずい。
こうして転向早々にして、事件だらけとなった1日は、
ようやく終わろうとしていた。
誠大と彷徨が家に帰った後、
未夢がワンニャーを問い詰めた。
「で、ワンニャー。
何でルゥくんに超能力があったこと、
言わなかったの?」
「いやぁ。赤ちゃんが超能力使えるって言うのは、
やっぱり常識ですからね。」
ワンニャーの発言を聞き逃さなかった3人は、
血相を変えてワンニャーに食って掛かり、
「「「だから、地球では常識じゃない!」」」
するとワンニャーはあきれた顔で、
「地球の常識の範疇って物は、
狭い物なんですねぇ。」
と、呆れてしまった。これでは交渉の余地はない。
そう判断した彷徨は、話を別の方向へと持っていくことにした。
「どうしたルゥ。機嫌悪そうだな。」
見ると、確かにルゥは怒っている。
「誠大。お前の部屋にアレ置いてあるだろ。」
「ああ、アレね。」
そう言って部屋を出た誠大。
戻ってきたとき、彼は紙袋を持ってきた。
その中身をルゥに見せると、
「晩ご飯終わるまで、取っておいたんだ。ほら。」
ルゥの表情が、ぱっと明るくなる。
さっきまで、自分が超能力で操って、
煙突を登っていた、サルの人形だった。
「どうしたんですか、それ。」
「校長先生の私物じゃなかったの?」
「まあ、あの後二人で、校長先生に届けたんだけどさ。
ここまでひどく汚れちゃってたし、
一応拾ってくれたお礼ってことで、
もらってきたんだよな、彷徨。」
「まあしかし、今日は焦ったなぁ。
ルゥはいなくなるし、未夢まで煙突に登るって言うし。」
と、未夢がその時のことを思い出す。
「そう言えばあの時、
二人とも、随分あたしに気を遣ってくれてた。」
……
「――ケガなんかさせられない!」
「――捕まれ!」
……
そう言っていた二人を思い出し、思わず笑みがこぼれる。
「2人とも、上から目線のイヤな奴、
なんて思ってたけど、案外いい所あるじゃないの。」
と、未夢が良い感じで思いにふけっている。
そんなところに、誠大の発言がぐさりと突き刺さった。
「感動してるところ、申し訳ないんだけど…。
普通スカート履いてるときに、
男を下にしてはしご登らないだろ。
乙女の恥じらいって物を持て。」
これに怒った未夢は、思いっ切り顔をしかめて、
「そう来ましたか…。」
と食って掛かってきた。
「2人して、はしたないぞ。」
彷徨がなだめるが、未夢の怒りはたまり、ついに、
「バカ〜!」
「バカってなんだよ!」
こうして、2人の言い合いはしばらく続くのであった…。
「ワンニャーの育児日記、オット星暦、3408、E-4。
地球の常識は、オット星の常識とは全然違い、
謎に満ちている。
私もルゥちゃまと同じように、
まだまだ知らないことだらけ。
そんな中でも1番の謎は、
あの3人は、仲が良いのか悪いのかと言うことだ…。」
その時、今の方から未夢の声が聞こえてきた。
「誠大!ルゥくんお風呂に入れてよ!」
「今日は、未夢が当番じゃなかったか?」
「そうだっけ?彷徨!どうだっけ?」
「今日は未夢だぞ。」
一通り全員が風呂に入った後、誠大は未夢に話を切り出す。
「あのさ、未夢。
俺、昨日言い忘れてたんだけど、
俺、すごく寝相悪いんだ。人を蹴ったりすることもあるらしい。
もしそうなったら、ゴメンな。」
そう言われると、未夢はくすくすと笑いながら、受け答えた。
「別にあたしは良いのよ。
あたしも寝相は悪いから。
うちは川の字に寝るんだけど、
ママを随分蹴ってたみたいだし。」
そう言われると、誠大は安堵の表情を見せながら、
「良かった。同じ物同士で。」
「ははは…。」
と、笑い合っていた。
こんな様子なら、心配要素は無しだろう。
こうして、転校初日にして、
ドキドキしっぱなしだった1日が終わった。
果たして明日からもまた、
嵐のような日々なのだろうか。
やっと2話終わりましたぁ…。
今日は3話も連投したいと思います。