「もう1人の転校生」

第2話「ルゥくん、煙突を昇る。」―2

作:マサ

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2回目です。上げていない間に、誕生日を超えてました(汗)
ここでななみちゃん登場。完全にアニメ方向へ走った瞬間であった…。


未夢はトイレから出てきてなお、
まだ何か言っている。

「なんであいつが人気あって、さらに委員長なのよ!」

すると、その横から横やりを入れるような声がした。

「そりゃ、スポーツ万能だし、頭も良いし!」
「えっ!?あいつが!?」

未夢も思わず反応してしまった。

「すごいんだよ!」

よく見れば女の子が2人、
転校生の未夢に、早くも話しかけてきていた。
これには未夢も戸惑ってしまう。

「私は天地ななみ。」

と、自己紹介した。
背が高くて、髪はショートカットで、
カラーは赤に近いブラウンだった。
パッと見、ボーイッシュな印象を受ける。

「私は小西綾。」

続いて、もう1人の女の子も自己紹介をする。
ななみに対して、こちらはかなり背が低い。
三つ編みを左右1つずつ、後ろで編んでいた。
色は黒に近いが、やはりブラウンがかっていた。

「どうも。光月未夢です。」
「よろしく!」
「よろしくね。」
「あの、ちなみに、ななみちゃんと、綾ちゃんは、
彷徨のこと…。」

「どう思っているの?」と、
未夢は続けたかったのだろうが、
2人も未夢が何を言わんとしているか、
すぐに分かってしまったため、

「それはない。」

と、頭から否定した。

「しかし、あんたは親戚で良かったね。
赤の他人が西遠寺くんと住んでいるとしたら、
ファンクラブから嫉妬の嵐よ。」
「えっ…。ファンクラブって?」
「おっ…。噂をすれば…。」

2人と話しているうちに、未夢の周りは、
数人の女子に囲まれる形になっていた。

「ファンクラブって言うのは、この方達!」

そう言って綾がさらっと紹介すると、
「ファンクラブ」の女子連中は、
一斉に未夢に質問を浴びせかけ始めた。

「ねえ、未夢ちゃん。
西遠寺くんって、家にいるときどんな感じかな?」
「どんな服着てるの?」
「いつも何食べてるの?」
「寝るのは何時?」
「ねぇ。未夢ちゃん、教えて!」

彷徨と会ってから日にちが経っていないのに、
やたらプライベートな質問ばかり聞かれて、
未夢は戸惑うしかなかった。
そこにもう一人の同居人である、誠大がやってくると、
もっとボルテージは上がってくる。

それを見ていた彷徨の友人=黒須三太は、
まるでプロレスでも見ているかのような感覚で、
野次馬の1人と化していた。

「おっ。お前の親戚がファンクラブに捕まってるぞ。」
「あいつは強いから自力で脱出できる。」
「いや、男の方も。」
「そいつは、どうなんだろうな…。
今朝未夢に投げられたし…。」
「まあ、でもボコボコにされてるワケじゃなさそうだし。」
「こんな時は、ほっとくに限る。」

ファンクラブの恐ろしさを間近で見ていたななみと綾は、
こんな時の対処法を知っていた。

「そろそろ助けてあげようか?」
「そうだね。」

するとななみは教室の方を見ながら、

「あっ!次の授業の英語のテキスト、
西遠寺くんが忘れて困ってる〜!」

と、わざとらしく言ってみたにもかかわらず、
彼女達は一斉に彷徨に殺到していく。

「きゃ〜!西遠寺くん、あたしの使って〜!」
「俺は持ってるって!
おい天地!デマ流すんじゃない!」

静けさを取り戻した廊下では、
未夢と誠大が伸びきっていた。

「大丈夫?二人とも。」
「以後、気をつけた方が良いよ。」

と、言うと、すっかりやられた二人は、

「ううっ。俺も以後気をつけます…。」
「ご忠告、ありがとうございます…。」

なんとかななみのおかげで抜け出せたが、
厳しい「洗礼」にタジタジといった格好だった。
しかしその様子を、クリスはじっと見守っていた。
何か彷徨を想う節があるのだろうか。

さて、とうとう新しい学校での授業が始まる。
最初は、英語の授業だ。

教科担当の先生は挨拶代わりに、
ジョークを言って教室を和ませようとしていた。

「いくら英語の授業だからと言っても、
先生がいつも英語を喋ってるとは限らないぞ。
そこで、今朝とても嬉しいことが有ったことを、
みんなに話そうと思う。
先生は今朝バスに乗ろうとしたら…。」

話はまだまだ続いていたのだが、
綾は早くも睡眠学習へと取り組んでいた。

そんな中、未夢が彷徨に視線を向けて、

「まだ信じられない。
あいつ、メチャメチャ性格悪いのに…。
風呂は覗くし、なんか意地っ張りだし…。」

と、その時。
たまたま同じく窓の外を見た彷徨と目が合う。

「うそ!目が、目が合っちゃったじゃない!
何こんなにドキドキしてるのよ!
深呼吸しなきゃ、深呼吸…。
…げっ!」

窓の外に未夢が目をやると、
そこには信じられない光景が広がっていた。
ルゥが浮いている!と言うか飛んでいる!
その時誠大も、窓の外を見ていたのだが、
何かに気付くような素振りをさりげなく見せた。

「ルゥくん、どうして学校に…。
まさか、私たちのことを、
探して来ちゃったのかしら…。」

未夢、心の中で全力で焦る。
ここで、何かをひらめいたらしく、
未夢は席を立った。
そして、何を思ったのか、
未夢はその場に倒れてしまった。

先生は慌てながら、

「どうしたんだ!光月!」
「先生、ひどくめまいが…。」
「大丈夫か?」
「保健室で休めばどうにか…。」

異常を察知した彷徨が立ち上がった。

「先生、俺が保健室に連れて行きます。」
「おお。頼むぞ、委員長。」

一緒に誠大も立ち上がる。

「先に保健室行って、事情説明しといて。
その間に、俺が運ぶから。」

未夢は歩けておらず、這いつくばっている。
その未夢を誠大が背負ったのを確認すると、
彷徨は先に保健室へと行き、
誠大はその後を追っていった。
保健室を出た後、彷徨が未夢に尋ねる。

「大丈夫か?
さっきまでピンピンしてたのに。おい。」

それでも未夢は黙り込んでいる。

そして誠大が突然、

「未夢、走れるか?」

と聞くと、

「うん。」

と答えた。
誠大は未夢を背中から降ろして、
いきなり姿勢を低くすると、

「ダ〜ッシュ!」

と叫んで走り始めた。
未夢もダッシュを始めると、
あっけにとられていた彷徨の腕を引っ張った。

「なんだ!メチャクチャ元気じゃないか!」

と彷徨がツッコミを入れるが、
未夢の中の優先順位は、
そんなところではなかった。

「ルゥくん!」

と、未夢は叫んだ。

「え?」

いきなり単語だけ言われても困るので、
彷徨が聞き返す。

「ルゥが学校に来てるんだ!」

焦りを隠せない未夢の代わりに、
誠大が情報を正しく伝えると、
彷徨が二人を止めた。

「ルゥが学校に来てるのか?」

彷徨が尋ねると、二人はすかさず答える。

「さっき窓の外見たとき、ルゥくんがいたのよ!
きっとあたし達を探しに来たのよ!」
「最初見たとき寝ぼけてるのかと思ったけど、
未夢から聞いて、マジだと確信したんだ!」

すると3人はまた走り出し、

「何でそれを早く言わないんだ!」
「そんなこと、みんなの前で言えるわけ無いわよ!
第一、さっきしゃべるなっていったの、彷徨でしょ!」
「それで、何で俺達走ってるんだ!?」
「話してる暇はない!
彷徨!とにかくルゥを追うぞ!」

3人は、非常階段に出てきた。
すかさず手すりから身を乗り出して、辺りを見回す。
すると誠大が、

「声が聞こえる!近くにいるぞ!」

手すりから乗り出してみると、ルゥは下の階にいた。

「こっちだ!追うぞ!」

彷徨の声に合わせて、3人が動く。
階段を駆け下りる最中、誠大は何段かを抜かして、
ジャンプしながら降りていく。
彷徨もそれに合わせてついてきた。

「ルゥ!いるか?」

呼び掛けるが、返事がない。

「いた?」

息を切らせた未夢が、ようやく降りてきた。

「中に、校舎の中に、入ったようだな。」
「え〜!誰かに見つからないうちに、探さなきゃ!」

更衣室、音楽室、理科室。
あちこち走り回っても、一向にルゥは見つからない。

「もう!ルゥくんどこに行っちゃったのよ!」

続いてたどり着いたのは校長室。
その中では、この学校の校長が、テレビゲームをやっていた。
職務中にゲームという時点で、
すでにいろいろ問題があるような気がするが、
現状の問題はそこではない。
その校長室の窓から、
ルゥはやはり飛びながら入ってきた。
そのルゥは、校長のやっているゲームを、
食い入るように見つめていた。

そして、この場所を不思議に思ったルゥは、
辺りを見回してみた。
なんと部屋の中には、
所狭しとサルのぬいぐるみが並んでいたのだった。

と、そこに3人がやってきた。

「ルゥ。こっちに来い!」
「ルゥくん、学校に来ちゃダメでしょ!
今は怒ったりしないから!」

しかしルゥは、明らかに不服そうな表情を見せて、
校長室を出て行った。
後を追って、窓の桟を飛び越えていく3人だが、
グラウンドに出てみると、
先に出ていた誠大が、青い顔をして立ちつくしていた。

「誠大、早く誰かに見つからないうちに…。」
「待て…。まずい。最悪の展開だ…。」

誠大の視線の先には、
警官に抱かれたルゥの姿があった。

「ああ〜!捕まってる!
二人とも、どうするの?」
「しかもお巡りさんだぞ。おい。」
「もうだめだよ。これでおしまいだよ。
きっと、あたし達も逮捕されちゃうんだよ。」

完全に混乱した未夢。
しかし、その警官は、こんなことを言った。

「あれ、未夢さん達、どうしたんですか。」

なぜか名前を知っているらしい、この警官は一体…?
すると、

「ワンニャー!」

と言う声がした。
しばらく警察官の周りを煙が包むと、
目の前に、朝見かけたワンニャーの姿があった。

「私ですよ。」
「ワンニャー?」
「お前…、」
「変身なんか、できるの?」

明らかに状況を飲み込めなくなってしまい、
戸惑っていた3人の質問に、

「はい。」

と、一言で平然と答えて見せた。

「だとすれば!
そんな重要なこと、何で黙っていたんだ!」
「何でだ〜!?」
「わかっていれば、今頃安心してるところだぞ!
…今も安心してるけど。」

そんな動揺した尋ねにもワンニャーは、

「あれ、言ってませんでしたっけ。
でもシッターペットが変身できるのは常識ですよ〜。」

と、余りにも平然と答えたワンニャーに対して、

「お前らの常識は地球の非常識!」

と彷徨が言うと、誠大も同時にワンニャーの頬をつねる。

「もう!ルゥくんがお巡りさんに捕まったと思って、
ドキドキしたじゃない。」
「いや、先程テレビを見ていましたところ、
お巡りさんが大活躍していた物ですから、
つい見とれているうちに、
ルゥちゃまがいなくなって、
ルゥちゃま探しならこれだ!
と思って変身しましたわけです。」
「ああ!ルゥくんはどこにいるの?」

その瞬間、ワンニャーがああ!とばかりに驚く。

「また逃げられました…。」

完全に涙目で沈んだ顔をしている。

「手分けして探すぞ!」
「おう!行くぜ!」
「もう!ワンニャーって本当に有能なのかしら!」

もはや、ワンニャーを信じてなどいないようだ。
初めて来たという星とは言えども、
ここまで周囲を巻き込み続けている。

「ええ、有能です。」

ワンニャーは答えている場合ではなかった。
言っておくが、学校のグラウンドである。
幸いにも体育に使っているクラスはないが、
誰に本来の姿を見られるか、
わかったものではなかった。

「ハッ!ワンニャー!」

ワンニャーは、再び警官の姿へと変身すると、

「ルゥちゃま!」

と、周辺を捜索し始めた。

「ルゥくん、どこ?」

と、そこを、誰か人が歩いていった。
その頭の上には、なんとなんと、ルゥが乗っていた!

「誘拐?」

未夢は、一抹の不安を感じ、
その後を追って歩き出した!

「未夢!見つけたのか!」

彷徨が声をかけている間に、

「いたぞ!待ちやがれ!」

と、誠大が走っていく。
とそこに未夢が、

「誠大、気をつけて!誘拐かもしれないの!」
「えっ…。誘拐!」
「なんだって!」

それを聞いた誠大は、
一目散に未夢の所に駆け戻ってきた。
一方その間にも、ルゥを乗せた誰かは、
商店街を歩いていた…。
この人物が一体、誰なのか、
全く見当がつかなかった。
そのころ学校では、授業に本格的に入っていた。
教室の端の席で、クリスは一人悶々と、
こんなことを考えていた。

「遅い、あの人達遅い。
とっても遅い…。
とてつもなく、べらぼうに遅い…。」

だが、まだ今のところは、そう考えるだけだった。


クリスも2話が初登場でしたなぁ…。未夢の早退はどうしようかな…。

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