「もう1人の転校生」

第2話「ルゥくん、煙突を昇る。」―1

作:マサ

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第2話です(^ω^)
とあるドラマを意識したタイトルに…。
ですが、相変わらず安定しないのは、
誠大くんの立ち位置。
悩みどころっすね(;ω;)




いろいろなことがありすぎて、
全くワケの分からなかった夜が明けた。

朝7時。

相部屋である未夢と誠大の目覚まし時計が鳴った。
誠大は自分の目覚まし時計を止めると、
ついでに自分よりもうるさい音を鳴らす未夢の時計も、
一緒に止めてやろうとした。

しかし未夢は完全に寝ている。
誠大は未夢の布団の中に目覚まし時計を放り込んで、
反応を見ることにした。
すると未夢は、甘ったるいうなり声を挙げてから、
ボソボソと小声でしゃべり始めた。

「変な夢…。
宇宙人の赤ちゃんと、
犬みたいな、猫みたいな、
変な生き物がUFOで来た…。」

一通りしゃべると飛び起きて、

「なんて、どうってことない夢だよね。」

未夢はまだ夢と思っているようだ。
そう思いたいのは、十分わかる。
そして部屋の扉を開けると、
広がった光景はあまりにも無情だった。

彼女が夢と思っていたことは、
現実となって目の前に姿を見せた。

朝からはしゃいで、ルゥは廊下を飛んでいった。
それと共に、ワンニャーも飛んでくる。

ワンニャーはすかさず、

「おはようございます、未夢さん、誠大さん。」

と、何事もなかったかのように通過していく。
これには2人も、

「お、おはよう…。」

と返すしかなかった。
さらにワンニャーはあくまで平然として、

「やっぱり朝は気持ちいいですね。
そうですねルゥちゃま。
そろそろお部屋に入りましょうか。」

それを聞いた2人は、

「ゆ、夢じゃなかった…。」
「俺もそう思いたいよ…。」

その場にヘタヘタと座り込んでしまった。
未夢はグチをこぼした。

「ここに来て1日でいろんなことがありすぎて、
頭の中、ぐるぐる回ってるよ…。」

それを聞いた誠大は、
脈絡が明らかに通じないことは分かっていながら、
申し訳なさそうにこう言った。


「あの…、へこんでる所を申し訳ないが、
未夢、俺達相部屋じゃん。
それで、着替えとかどうすればいいかな…?」

それを聞いた未夢、
さっと気持ちを切り替え、不敵な笑みで、

「あなたが脱衣所に行きなさい…。」

と、怨念が憑いたように言われたものだから、
誠大は思わずそれに従ってしまった。

3人が通う平尾町第二中学校は、
新学年のスタートから夏服で授業を受ける。
男子はズボンにワイシャツ、
女子は薄手のブラウスにベストとスカートである。

さて、誠大が着替えの準備をするべく、
肌着を着て、スラックスを履いていたちょうどその頃、
未夢は新たな制服を見て、浮かれていた。
多分さっきの誠大への発言は、
制服を眺めるのを心待ちにしていたからであろう。

「そっか。今日から新しい学校なんだもんね。
ふ〜ん。前の制服より、かわいいかも。」

そう言うと、鏡の前で、自分のシルエットに重ねて、
似合うかどうか見ていた。
もうすっかり、新たな学校に思いをはせていた。

「新しい友達、早くできないかな。」

そんな時、ルゥが部屋に入ってきてしまった。
右手に持っていたのは、ワイシャツだった。
そして、はしゃいだまま、未夢の制服を取ると、
そのままふわふわと飛んでいってしまった。

未夢は当然追いかけようとするが、
2、3歩ほど歩き出した瞬間に、
布団でつんのめって転んでしまった。
慌ててルゥの名を呼んで、捜し出そうとする。
ちなみに、ルゥがもう片手に持っていたワイシャツ…。
それは紛れもなく、誠大の物だった。

誠大も体操服のTシャツに学生ズボンという、
アンバランスな格好で廊下をひた走る。
そんな時、彷徨はゆっくりとしながら、
歯を磨きながら廊下を歩いていた。

自分の部屋に向かうべく、
T字のポイントに差し掛かった瞬間、
走ってきた2人がいた!

誠大はとにかく未夢を避けるべく、
壁に向かってスライディングしていく。

だが未夢はちょっとした床の溝につまずいて、
誠大を半ば押し倒すような形で衝突!

未夢は鼻を打ち、誠大は額を打った。

「痛たた…。鼻が…。」

一方誠大は、

「うう…。おでこが…。
未夢、お前何押し倒してるんだよ。」

誠大とぶつかってしまったあげく、
ひょっとすれば、ひょっとしたかもしれない事態に、
未夢はようやく気付いた。
加えて、誠大が言った「押し倒してる」が、
余計に未夢に変な意識を持たせた。

そして、それが分かってしまったのか、
未夢は顔を赤くすると、

「ぎゃ〜!」

と叫んで、明らかに大きい誠大を投げ飛ばしたのである。
誠大はトイレのドアに真正面からぶつかり、
もともと痛む額をさらに強く打った。

制服はルゥを捕まえたワンニャーが返してくれたが、
とりあえず、ホコリはあまり付いてなかった。
朝食の席についても、
未夢は怒った顔つきでトーストを頬張る。

この「事件」の場合、「被害者」に当たるのは、
ぶつかったことは差し引いたとしても、
投げ飛ばされた誠大であることは間違いない。

なのに…。

「もう!朝からあんな目に遭うなんて…。」
「言っておくが未夢…。
俺はよけようとしたんだからな。
とりあえず被害者は俺だ。」
「それはそうだけど、何よその冷めた言い方!」
「あくまで事実を言っただけ。」

この状況を見たワンニャーは、
頭の中で考えがごちゃ混ぜになってしまった。

「あの3人、来たときからケンカ中なのか、
それともなかよしさんなのか…。
全くもって、分かりませんなぁ。」

やがて、登校の時間となり3人は、

「行ってきま〜す。」

するとワンニャーは、

「行ってらっしゃいませ。」

と、ペコリと頭を下げた。
しかし、ついさっきまでワンニャーの近くにいたはずの、
ルゥの姿が見えない。

未夢が多少焦りながら聞いてみる。

「あれ、ルゥくんは?」

その瞬間、未夢の頭の上にちょこんと乗ったのは、
紛れもなくルゥだった。
楽しそうに声を挙げたが、3人はびくついた。
未夢はあわててルゥを引き離そうとする。

「こら!ダメ、離しなさいルゥくん!」

それに対してルゥは、ダダをこねながら、
未夢のスカートを引っ張ったが、
ワンニャーが捕まえ、急いで抱えた。

「じゃあな、ルゥ。」
「良い子にしててね。」
「後で遊ぼうな。」

3人とも口々にルゥに言葉をかけるが、
ルゥはちょっと不機嫌だった。
ルゥをワンニャーがなだめている間に、
3人は、学校へと歩き出していった。

「彷徨さんと未夢さん、誠大さんは、
今日から学校なんですからね。
ルゥちゃまはワンニャーとお留守番をしていましょう。
そうです!テレビを見ましょう。
地球のテレビはオット星と違って立体映像じゃないんですよ。
平面なんですよ。」

地球ではやっと普及し始めたばかりという3D映像が、
オット星ではすでに一般的らしい。
どうやら彼らは、相当高度な文明に住んでいるようだ。


登校の途中、彷徨は2人に忠告をした。

「おい。お前達、学校であんまりベラベラしゃべるなよ。」
「しゃべるわけ無いでしょ。
宇宙人と同居なんて知られたら、
大騒ぎに決まってるじゃない。」
「おい、未夢…。
彷徨が言ってるのはそう言う意味じゃなくて、
俺達3人の同居生活のこと。」

誠大の指摘にうなずいたのは彷徨だった。

「そうそう。誠大の言うとおり。
ルゥ達のことももちろん大変だが、
俺達が同居していることの方が、
学校では騒ぎになりやすいんだからな。
一応とりあえず3人とも、
親戚同士の関係ってことにしておくからな。」
「分かってるわよ!」

未夢はこの時、心の中に感情をしまっていたが、
内心は相当怒っていた。

「ああもう腹が立つ。
なんか二人とも、いっつもえらそうなんだから。」

だが、そんな気持ちも一瞬で変えられるのが未夢。
新たな想像の翼が広がり、今度はこんなことを考えている。

「あ、よく考えたら私、転校生なんだ。
やだ、今から緊張して来ちゃった。」

そして今度は、完璧に2人に聞こえる声でしゃべり始めた。

「どうしよう…。
例えば美形の委員長とかが校内案内してくれて、
それでもって、恋に発展しちゃったりしたら!
うわぁ〜!ひゃ〜!」

と、顔を真っ赤にして完全に浮かれていたが、
それに水を差すかのように彷徨が、

「そういう心配は絶対にいらない。」
「なんで!」

そして今度は誠大が、

「相手にも選ぶ権利はあるってんだろ?彷徨。」
「その通り。こいつより話が通じてお前は良いな。」
「あのねぇ…。」

それを見守る1人の女子がいた。
そして静かに、

「西遠寺くん…。」

彷徨は呼ぶ声に反応して、
その声がする方へと顔を向けた。
未夢は率直に、

「わぁ、キレイな人…。」

と考えた。そして誠大は、

「…こんなの、反則だろうよ…。」

顔が真っ赤である。

さて、話題に上っている女の子は、

「西遠寺くん、その方達は…、
一体どなたですの?」

彷徨は少し言葉に詰まりながら、

「い、いとこ。
単なるいとこの、光月未夢と、鉈落誠大。な?」
「うん、そうそういとこ。」
「そう、いとこだぜ。」

クリスは若干腑に落ちないような、
そんな表情を一瞬だけ見せたが、

「いとこ…。なんだ、そう。
わたし、花小町クリスティーヌ。
ママがフランス人で、ハーフなの。
クリスって呼んでね。」

それから少し間をおいて、2人が、

「あ、私、光月未夢です。よろしく。」
「鉈落誠大です。よろしく。」

と言って、握手を交わした。
一通り挨拶を終えると、クリスは、

「それでは、また後でお会いしましょう。」

と言い、校門の中へと入っていった。
とその時、クリスが、

「よかったら、これからも仲良くしてくださいね。
未夢ちゃん、誠大くん。」

と言い残して、去っていった。
そこへ彷徨がやって来て、

「未夢、1つお前に言わなきゃならない。
あいつの前で、あんまり俺に近寄ったり、
とにかく余計なことするなよ…。」
「頼まれたって、くっついたりなんかしないもん!」

と未夢が突っ込む。
しかしその時、話を聞いていた誠大は…、

「ほほう…、彷徨って、もしかしてクリスのこと…。
こんな奴でも、好きな子がいるんだ。
ふ〜ん…。」

さっきの発言からして、そう思ったのだろう。
想像の翼を広げる力は、
どうやら誠大にもあるらしい。

さて、教室に着くと、
2人は彷徨と同じ2年1組の生徒として迎えられた。
このクラスの担任は水野先生と言って、
まだ若そうな女性教諭だ。

「はじめまして。光月未夢です。」

ここに水野先生が説明を加える。

「光月さんのお母さんは、
あの宇宙飛行士の光月未来さんなの!」

辺りの雰囲気が一気に沸き上がる。
その中に、クリスもいた。

「あ、クリスちゃんと同じクラスなんだ。」

知った顔がいると分かったのか、
未夢は少しだけほっとした表情を見せた。

しかし、騒いでいては話が進まない。
とりあえず、水野先生が辺りを鎮めて、
誠大の紹介へと入った。

「さあ、続いては鉈落くん。」
「こんにちは。鉈落誠大です。」
「鉈落くんのお父さんは、
あのNKホールディングスの社長、の鉈落海成さん。」

またクラスの中のボルテージが上がる。
先生はまたそれを鎮め、

「こらこら、騒いでたら話が進まないでしょ。
そこで光月さんのご両親はアメリカへ、
鉈落くんのご両親はイギリスへと引っ越してしまったので、
今は親戚の、西遠寺くんのお家にお世話になっています。」

元々高かったクラス内のボルテージは、
これ以上ないほどに上がってしまった。
特に女子の方が激しさを増していた。

その中の1人が、2人へ質問をする。

「それでは、一緒に暮らしているんですね。」

これには二人も、

「まあ…。」
「そりゃあ、ねぇ…。」

と答えるしかなかった。
すると教室の後ろの方に座っている、
4人ほどの女子が立ち上がり、

「西遠寺くんのいとこ?」
「しかも一緒に暮らしてる?」
「それは本当なの?西遠寺くん!」

視線が一点に集まる。
そこには彷徨がいた。
そして彷徨は、涼しい顔をして、

「まあな。」

と言い放った。
事実だから否定しても仕方がないが、

「うそ!信じられな〜い!」
「西遠寺くんは相変わらずモテるね。」

と先生がなだめる。

「そんな!先生人ごとみたいに!」
「だって人ごとだもん。
と言うわけで、質問があったら彼に聞いて。
彼が委員長だから。」

未夢は心の中でこうつぶやく。

「全くその通りだわ!
あいつがモテるなんて信じらんない!」

と、聞き流していた未夢の心中に、
「委員長」という言葉が引っかかる。
思わず、

「えっ!?彷徨が委員長なんですか!?」

聞き返した。すると先生は、

「西遠寺くん、学級委員長なのよ。」
「い、委員長!?」

未夢が彷徨の方へ目をやると、
彷徨はいじわるからか少しだけ、舌を出した。

「あ、あいつら…。」

と、登校途中の、

「「「相手にも選ぶ権利はあるってんだろ?」」」

という誠大の発言を思い出し、
未夢は多少腹が立っていた。
そして休み時間になると、

「信じらんな〜い!」

と、大声で嘆いた。




やっと書けたね…。
そろそろ連発してアップできそうな体制が整ったことと思います。



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