作:マサ
第1話、その3です。
2人が寝静まったような頃、
誠大は眠れないで、縁側に来ていた。
そこに彷徨が来た。
「眠れないのか?」
「まあね…。
それに今日は星がきれいだし、
ちょっと縁側に出てみようかなって。」
「何してるの?」
未夢もその場に来た。
しばし、3人で和やかな時を過ごしていた。
時計の針は11時を回っていた。
その時、誠大がふと口にした。
「流れ星だ…。」
「どれどれ。あっ、キレイ。」
「見せてよ。
ん?でもあの流れ星ちょっと変じゃない?」
「えっ…。わわわわ!こっちに来る!」
「え〜っ!逃げろ!」
途端に大騒ぎになった。
「流れ星」だったはずのピンク色に光った物体が、
縁台を通り抜け、庭を挟んだ本堂に向かう。
そこにダッシュを決めた最初に誠大がたどり着いた。
光が止まり、丸そうな物体は、実態を現した。
彷徨と未夢も追いつく。
「おい!これUFOだぞ!」
「戻れ!近づくな!」
UFOはガタンと音を立て、白い煙を出す。
その中から聞こえたのは、
可愛らしい赤ん坊の泣き声だった。
その途端、3人の緊張感がどっとゆるんだ。
そして彷徨が2人に話しかける。
「おい、あれ、何に見える?」
「UFOと…、赤ちゃん?そんなはず無いわよね。」
「いや、でも俺にも見えるぞ。」
「だよな、やっぱ。」
などと話していると、
その赤ん坊は空中を浮いて、
こちらへと飛んできたのだ。
「わぁ。俺の方に来る!」
その赤ん坊は誠大の所に来ると、
いきなり頬を引っ張った。
赤ん坊はキャッキャと楽しそうに、まだ浮いている。
そして今度は未夢の髪を引っ張り出した。
「痛い!痛い!」
「あんたも何やってんだ?」
「ちょっと、やめて!引っ張らないで!」
悲鳴にも近いような未夢の声を聞くと、
赤ん坊は未夢の髪を引っ張ることをぴたりとやめた。
「えっ…。もしかして、私の言うこと、聞いてくれてるの?」
そんなはずはなかった。
今度はお経を引っ張り、めちゃくちゃ。
だが、その「空飛ぶ赤ん坊」を見ると、
ずっと指をしゃぶり続けている。
何かに感づいた未夢が口を開く。
「ちょっと待って。
その子、ひょっとしてお腹空いてるんじゃない?」
そこで、赤ん坊を居間に連れて行き、
彷徨は誠大と一緒に冷蔵庫の中をあさり始めた。
「赤ちゃんが飲めるもの、
食べられるものって言ったらと…。
…これしかないな。」
取り出したのは、牛乳である。
しかも、紙パックに入ったまま。
「もうちょっとマシな物は無かったの?」
未夢が突っ込む。
「一応、暖めてあるから。」
彷徨が反論する。そこに未夢が、
「何で、いばってるのよ。」
と、突っ込む。夫婦漫才か。お前ら。
ストローをさして与えると、すぐに飲み始めた。
「一生懸命飲んでる。かわいい!」
「しかし…、信じられないことも起きるもんだ。
宇宙人の赤ちゃんが家に来て牛乳飲んでるなんて。」
誠大の発言にこの場にいる地球人一同、うなずいた。
「でも何でこのお寺に?」
「それは住人の俺にもわからねえな。
それより、こんなもの食べるかな?」
と差し出したのは、なんとポテトチップス。
「なんでそんな物食べさせようとするのよ!
歯の揃ってない赤ん坊が食べるわけ無いでしょ!」
「大丈夫、冗談。」
と、雑談を交わしているうちに、
赤ん坊は牛乳を飲みきってしまった。
この赤ちゃんの空腹は、
ひとまず満たされたようだが、
問題はこの後どうするべきかである。
「…さて、この子をどうするべきか。
そうだ、あんたの両親に聞いてみたらどうだ。」
「宇宙飛行士と宇宙科学者だから、
宇宙については比較的分かるんじゃないのか?」
彷徨も誠大も、まずは未夢の両親である、
優と未来に聞いてみることを勧めた。
「そうだね。電話借りるね。」
と電話に向かおうとした瞬間、
赤ん坊が彷徨と未夢の腕を引き寄せた。
そして、
「ママ、パパ。」
と言った。
確かに、そう言って見せた。
言っていることが理解できるはずもなかった。
二人は困惑し、
「え、パパ?」
「ママ?」
二人はしばし沈黙し、
「何でなんだ〜!」
と大声で叫んだ。
冷静さを保とうとしていた雰囲気は、
一瞬で崩壊してしまった。
しかし誠大は、我関せずという目で見ていた。
自分が全く関係ないと思っているからではなく、
あまりの事態に、現実逃避を始めていたのだった。
「何でこの年でママなのよ!」
「それは俺も同じだ!
中2でパパなんて気味が悪すぎるぜ!」
赤ん坊はそれでもこちらをじっと見ている。
二人は同時に、
「ほら、よく見てよ。
俺は(私は)パパでも、ママでもないの!
別人なんだよ!分かる?」
そうは言っても、赤ん坊は訳が分からず、
「ママ、パパ。」
と言う。しかし今度は誠大にも、
「にぃに。」
と言う。
つまり兄貴だというのだ。
誠大は、一瞬で現実に引き戻され、
彼もパニックに陥った。
「俺だって兄貴じゃない!
それこそ別人だ!
何でこいつの子供にならなきゃいけないんだ!」
こいつと言って指さしたのは、
先程から母親扱いを受ける未夢だった。
「なんで指さすのよ!
確かにおかしいんだけど!」
若干論点がずれたが、
かまわないことだった。
結論はこうである。
「とにかく俺達は、
パパでも、ママでも、
当然兄貴でもないんだ!」
「君の本当の家族はどこかな?」
そう尋ねても赤ん坊はこちらに指を指す。
3人はいっぺんに崩れ落ちた。
交渉の余地はない。
そう、判断したからである。
そして沈んだ表情の顔を上げると、
彷徨はすかさず、
「アメリカに電話してくれ…。」
と訴えた。
ようやく本筋に戻ったものの、
ところが電話をしてみると、未夢の母は、とんでもない長電話を仕掛けてきた。その内容をかいつまんで言うと、今、未夢の母である未来が、宇宙人の解剖の状況を写したビデオを見ているというのだ。そのため、(恐らく)本当の宇宙人がいるという、本当のことが切り出せず、しまいには未夢から電話を切るというありさま。彷徨が何があったか尋ねると、
「今聞いたら解剖される…。あ〜、どうすればいいの?」
「ん?二人ともちょっと来て。この子に付いた変なマスコット、これ何だろう?妙に柔らかいんだけど。」
「どれどれ、あ、触ると確かにつぶれる。」
「しかも暖かい。生き物なの?」
すると赤ん坊は、
「ワンニャー!」
と叫んだ。
「何、ワンニャー?」
そう言った彷徨の髪がマスコットに触れる。するとそのマスコットは大きなくしゃみをしたと思ったら、煙と共に、その姿が大きくなっていったのである。そして大きくなったその体で、閉じていた目を開けると、
「…あれ〜。ここは、どこなんですか?」
と、しゃべった。
「変なのがまた出てきた。こいつも信じられない。」
誠大は思わず口走ったが、どうやらそのワンニャーとやらには聞こえてないようだ。しかも辺りを見回し、赤ん坊を捜し出すと、
「ルゥちゃま!あ〜、よくぞご無事で。」
と泣きながら抱きついた。その時3人で雑談をしていると、そのワンニャーは、
「そうだ!ルゥちゃまの宇宙船は大丈夫なのでしょうか。」
と、本堂に向かって今度はしっぽをプロペラのようにして飛んでいった。
「なんだ?あいつら。」
「人ん家なのにね。」
「ワケ分からん。」
そしてそのワンニャーがさっき本堂に来たUFOを持ってきて、各部をさわりながら、いろいろ点検し始めた。
「現在地は太陽系第3惑星。大気中に異常物無し。万能翻訳装置、故障無し。防御装置もOKで…、自動航行装置は…、ああっ!うわあ〜!壊れてる!」
と、悲しみにあえぐそのワンニャーとやらをつかみ、彷徨と誠大が、
「あんたらいったい何なんだ?」
「一体、宇宙人だとしたらどこの星の生まれだよ?」
と、問うと、ボサボサになった毛を正して、
「ああ、申し遅れました。こちらはルゥちゃま、私はそのルゥちゃまのシッターペットを務めますワンニャーと申します。」
「シッターペット?それ何?」
未夢がすかさず突っ込む。するとワンニャーはさも常識かのように、話し始めた。
「シッターペットをご存じでないんですか?地球にはシッターペットがいないんですか?それは大変ですね。よろしゅうございます。これから私がお教えいたしましょう。シッターペットのシッターはベビーシッターのことでして、つまり子守役を務めるペットのことです。」
多少黙り込んだが、とりあえず、「ほう。」と、3人は相槌を打つ。
「しかも私の場合は、血統書付きの有能なペットです。」
「自慢なのか?」
小声で3人は話した。そして誠大が、
「それで、なぜこの寺に?」
と、一番重要なことを聞いてみた。
「ああ、そのことですが、ルゥちゃまと私は、ここから120億光年離れたオット星という星の者なのですが、昨日の朝、ルゥちゃまをつれて、朝のお散歩をしておりました。しかしその時、異常気象情報という物が私達の手元に来まして、その直後に、時空のひずみという物に遭ってしまい、逃げておりましたが、結局は時空のひずみに吸い込まれてしまって、気がついたらこちらにいたわけです。この宇宙船のSOS信号が作動したはずですので、いずれオット星から助けが来るとは思うのですが、オット星の科学を持ってしても1年かかるか、2年かかるか…。」
「自力で帰れないのか?」
「できないんです。航行装置が壊れちゃってて…。」
と言う話をしつつ、ワンニャーはこの寺においてもらう交渉をしようと考えていた。ワンニャーは心の中で、
「こちらのお兄さん2人は押しに強そうですね…。目つきが鋭いですし。こちらのお姉さんにやってみましょう。」
と考えていた。そして若干間をおいて、
「お願いです!私たちに助けが来るまで、ここに置いてください!奥様!」
「誰が奥さんなのよ!」
「なんと!奥さんではなかったのですか?」
「ああ、そうともさ。」
「大変失礼いたしました。で、それはそれとして、わたしとルゥちゃまを…。」
そうワンニャーが言うと、未夢は戸惑い、こう言った。
「でも、私、この家じゃ、決定権ないし…。」
と言ってるとワンニャーは、
「見捨てる気、なんですね…。地球の人は、なんて残酷なんでしょう…。」
と、涙ぐんで言ってきた。辺りは重苦しい雰囲気に包まれた。すると、ルゥが3人に近づいてきて、
「にぃに。パパ、ママ。」
と言った。
「この何もかもが初めての世界に来て、両親や、兄弟がいないと分かったら、寂しいだろうな。みんな親が忙しくていないって言うんだから、そう言う寂しさ、よく分かってるはずじゃない。」
3人とも、同じことを考えていた。そして未夢は口を開いた。
「あの、私…、ここでこの子たちを…、」
というと、誠大は、
「俺も…、この子たちの面倒、見てあげたいんだ…。」
と、未夢に同調した。すると彷徨が、
「とりあえず、未夢さん、あなたとは一時休戦だな。ここまで聞いちゃったら、普通だったら放っておけないだろ。だったらお前1人や、誠大くんを入れた2人より、俺を入れた3人になった方が、なんとかなるかもしれないしな。」
と、彷徨も受け入れる姿勢を見せた。そして彷徨が、
「と言うことだ。ここにいても良いぞ。」
と言うと、すかさずワンニャーが、
「わわわわ。ありがとうございます。ありがとうございます。ルゥちゃま良かったですね。」
すると、彷徨が二人に聞いた。
「これからは、このメンバーで一緒に住むんだろ?」
「うん。」
「ああ。」
と、またワンニャーが部屋に飛び込み、
「よろしくお願いします!」
と、また頭を下げた。この時未夢は、
「なんか、今日のことを思い出すと、信じられないことばかりだったけど、私一人じゃないから、なんとかなるよね。彷徨くんの言うとおり!」
すると彷徨が、
「お茶でも飲むか?未夢。」
と尋ねてきた。未夢はハッとして、
「何でもう呼び捨てされなきゃ行けないのよ!」
と突っ込むと、彷徨はあっさりと、
「これから一緒に住むんだから、いつまでもさん付けだったり、あんたとか呼んでいたりしたら、よそよそしいだろ?いいじゃないか。」
すると未夢は、怒ったまま、
「お茶っ葉どこ!彷徨!」
と言うと、彷徨は、
「なんだお前、随分トゲのある言い方だな。」
「なによ!あなたが呼び捨てしたからでしょ!」
「だから理由は言っただろ。」
「もう、未夢、彷徨、お前ら夫婦漫才でもしてるのか?ほら、ここにあるぞ。」
などと言い合いをしている間に、ワンニャーは
「そうでした。私はシッターペットのつとめとして、育児日記を付けなければいけませんでした。」
そう言って宇宙船から取り出したのは、小さめのラップトップのような物体。そして、こう書き出した。
「シッターペット、ワンニャーの育児日記。オット星暦、3408、C-28。
オット星でも珍しい、巨大に時空のひずみに巻き込まれる。どうなることかと思いましたが、オット星から120億光年離れた、地球という星に漂着。未夢さん、誠大さん、そして彷徨さんという、親切な地球人3人に救われ、楽しそうな生活が始まりそう。きっとなんとかなるだろう。」
それを書き終わる頃、時計の針は12時を回っていた。そしてこれから、嵐のような生活が幕を開けるのだった…。
ひゃ〜、半年以上経って、やっと1話上げ終わりました…。
もっと早くしなくちゃなぁと思っていながらできない自分が悔しいのなんの…。